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次にレバノンに影響力をおよぼすのは中国になるのか

03 Jun 2020
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Updated 03 Jun 2020
03 Jun 2020

ナージヤー・フサリー

  • 経済危機と新型コロナの二重苦にあえぐレバノンに、中国の「寄付金外交」は利となる
  • レバノン経済は今年12%の縮小を見込まれ、人口の75%が最低限の生活を下回る生活レベル

【ベイルート】この10年で、中東・北アフリカでは、店先に並ぶ商品の陳列はゆるやかな変化とはいえかつてとは一変した様相を呈している。西側諸国の商品が街々の店やスーパーの棚にあふれていたのは過去の話だ。

いまや店先に並ぶのは、ありとあらゆる中国製品だ。携帯電話からエアコンまで、学校で使う文房具から洗濯機まで。わけても、レバノンほどそれが鮮明な国も珍しい。レバノンは目下、経済は落魄し外貨準備高も消尽した。

レバノンで最初に新型コロナウイルス感染症患者が記録された2月21日より、中国政府からの医療支援は増加の一途をたどった。

あまりの迅速な対応ぶりに、中国はレバノンでの足場作りを模索しているのではないかという印象を一部に抱かせた。レバノンといえば長く、大国政治に翻弄される場であるとともに、西側に開かれたいわば中東の門戸という役割をも担っていると目されてきた。

ヒズボラ指導者ハサン・ナスラッラー師は昨年11月、次いで数週間前にも、「レバノンの財政と経済を救うには中国のほうを向くしかない」と述べている。これを受け、レバノンでは政治家らがあまりにも自国を中国寄りに傾かせすぎているのではないかとの懸念を抱いた者も多い。

前世紀にレバノンを襲った災厄もたいへんなものばかりだったが、それらと照らしても、いまのレバノンの新型コロナ禍による青息吐息に比べれば何ほどのものでもない。

今年は経済規模が12%縮小すると見込まれ、政府予算の半分がGDPの170%ぶんにまで達した債務負担に供されることになる。最低限の生活を下回る貧困層の割合は、コロナ以前の50%から75%にまで跳ね上がったとみられている。

[caption id="attachment_15823" align="alignnone" width="450"] 経済貧窮の抗議運動で警備に立つ軍。景気低迷によりレバノンは一気に草刈り場にされる憂慮があるとみるアナリストも多い。(AFP)[/caption]

レバノンは中国共産党の支配する中国を承認するのが遅かった。このため、こうした惨憺たる状況を背景に、レバノンではいま、政治や経済や学問の世界で、レバノンが中国政府との連携強化の面で他国の後塵を拝しているといった議論が出て来つつある。

「レバノンは、ヘンリー・キッシンジャーが極秘訪中した1971年を待って、ようやく中華人民共和国を承認した」と言うのは、中国レバノン友好協力委員会のトップを務めるマスウード・ダーヘル博士だ。キッシンジャー氏は元米国務長官で、国家安全保障問題担当大統領補佐官も務めた。

それからほぼ50年、いまや形勢は逆転してしまった感がある。

5月の最終週、新型コロナ撃退のバックアップとして、人民解放軍はレバノン国軍へ支援物資を直接寄贈した。送られた物資のリストには、手術用マスク、保護眼鏡、防護服ほかの医療物資が並んだ。

抗コロナの装備一式は、在レバノン中国大使の王克倹氏と、レバノン国軍司令官のジョゼフ・アウン氏の締結した合意の一環として手渡された。

王大使は語った。「中国側の寄付は、両国国民と両国軍の関係の深さと強さを示して余りあるものです」

「中国は、レバノン国民および軍とともにこの困難克服へと汗をかく用意があります。あらゆる困難や障壁が取り除かれた暁には、新たな道筋、新たな地平が開けるはずです」

[caption id="attachment_15824" align="alignnone" width="450"] 新型コロナとの戦いに必要な医療物資を中国の軍当局がレバノン国軍へ寄贈。(写真・新華社通信)[/caption]

他方、米政府の見方を要約したような論説記事も先月出ている。筆者はアメリカン・エンタープライズ研究所のシニアフェロー、ダニエル・プレトカ氏だ。こうある。「レバノン政治はいまだイランが牛耳っている。が、その反面では、中国政府というハゲタカが、レバノン国内の大学を通じてソフトパワーの影響力を浸透させるのみならず、港湾や空港といったうまみのあるインフラ資産をも鵜の目鷹の目で狙いすましている。レバノンはといえば、もはや主権国家としては破綻している」

中国もむろんレバノン国内に軍事的プレゼンスは長年保持している。レバノン南部の国連レバノン暫定軍(UNIFIL)に総勢410人規模の部隊を派遣している。

中国の部隊が展開している作戦活動および人道活動は、医療サービス、不発弾処理、UNIFIL保護施設の建設、道路敷設、国境地帯での学校・幼稚園の再建といった多方面にわたる。

マルジュアユーン北方のUNIFIL本部にある中国野戦病院は、地元住民やUNIFIL兵士らに各種医療サービスを提供している。

新型コロナの救援物資が届く以前ですら、レバノンと中国の関係は良好だった。中国はその「ソフトパワー」という計画の一環としてすでに惜しみなく与えていたからだ。

[caption id="attachment_15825" align="alignnone" width="400"] ベイルートのモスクで安全な距離を保ちつつラマダン中の礼拝をおこなっている人たち。(AFP)[/caption]

昨年、中国企業の代表団がレバノンを訪れ、メディアの目に触れないかたちで多くの会合をもった。相当な数のプロジェクトの資金提供を申し出たとされる。

ベイルート-ダマスカス間を結ぶアラブ・ハイウェイ計画もあった。平行して、まずはベイルートとダマスカスとを結び、最終的には9,000億ドル規模になる新たな中国版新シルクロード計画にも接続される鉄道計画もあった。これは、中国と、中央アジアや中東、ひいては欧州各国とのチャネルを開き直す目的の通商ルートとなると目されている。

代表団がオファーしたのはそれだけではない。レバノンの南北をつなぐ高速道路の建設や、太陽光発電所の建造も申し出た。後者の場合、発電に要する費用は相対的に安価となりうる。

中国は先月にもレバノンと協力協定を締結したばかりだ。これは、「平等と互恵に基づき」両国に文化センターを創設することを目的とする。

王大使とレバノンのアッバース・ムルタダー文化相との間で締結された合意内容によると、同文化センターは両政府の意を受け、「両国間の文化交流および相互学習がより広がる場」を提供する、ということになる。

4月には中国政府の「寄付外交」の一環として供与された防護具一式と新型コロナ検査キットをレバノン保健省が寄贈品として受け取っている。

2月には、中国人医師らの実施するネット研修会が多数開催された。これは、レバノンの難民キャンプにあるコミュニティ・クリニックで働く医療従事者やボランティアに新型コロナのリスクを啓発することをねらいとした。

レバノンでは必要なものはその80%ほどを輸入に頼る。中国国営新華社通信によれば、輸入品の40%は中国からの輸出だという。

中国からの輸入品は総体で、年間20億ドル規模と見積もられる。中でも、電化製品や衣類、おもちゃ、携帯電話、家具、産業機器、菓子食品のたぐい、といったものが目立つ。

中国からの入超であることは明らかだ。レバノンの中国向け輸出は年間6,000万ドルにしかならない。

[caption id="attachment_15826" align="alignnone" width="450"] 先月ベイルートで協力協定にサインするレバノンのアッバース・ムルタダー文化相(左から2人目)と王克倹・中国大使(右から2人目)。(写真・新華社通信)[/caption]

世の風潮からもレバノン国内で中国の影響力が強まっていることはうかがわれる。近年では若い人の間で中国語学習熱が高まっている。

その他学術機関としては、ベイルートのセントジョセフ大学内の孔子学院とレバノン国立大学語学センターに中国語課程がある。

「2003年までは、レバノンと中国の間には形だけの外交関係しかなかった」と、ダーヘル氏は本紙に語る。中国は1978年に改革開放政策を取るとともに、産業促進を目的に海外へ自国の影響力を拡張する意向を示したのだという。

「2006年にわれわれは中国アラブ友好協会(CAFA)を設立した。爾来、中国政府の資金提供により15回以上、さまざまな分野の国際会議を23のアラブ諸国で開いてきている。商目的で中国を訪れたレバノン人は累計1万1,000人に達している」

ダーヘル氏の話では、中国はレバノン国立大学と4つの協定を結び、文化省との間でも協定を締結しているという。

「中国はレバノン国内に自国の文化センターを作るにあたり、3年間許可を待たねばならなかった」とダーヘル氏。

「レバノン最大の音楽ホール建造に中国は6,600億ドル供与している。現在中国企業の手で建築中だが、レバノンが与えたのは土地だけだ」

ダーヘル氏は、「中国人の考え方は深謀遠慮だ」とみる。背景には、レバノンの企業も軍も金融機関もどれもまだ、米国とのつながりを断っていないという事情がある。

中国はレバノンの政治経済の意思決定を差配しようとしているのではないか、との説は一蹴する。

「中国はまだレバノンとずぶずぶというわけではない。投資計画を通じて参与するのであってすら、レバノン人は値切りますからね、なかなか容易ではない。ところが中国人というのは日本人と同じで、政府からカネをもらって賄賂に回すということをしない」

中国企業のいくつかはレバノンの電力・インフラ事業の占拠に関心がある、という報道もあるが、これについてもダーヘル氏は、「そういった話はあるが未承認だ。また、そういった分野で中国がレバノンに関与することは禁止されている」と言う。

ダーヘル氏の見解はこうだ。「中国というのは、双方が得をするようなやり方で商売をすることに関心がある国だ。レバノン経済は火の車だ。中国にしてみれば重要なマーケットにはならない。

「問題はつまり、レバノン国民のカネは銀行から引き出せない状態で、おまけに景気は低迷と来ている、ということだ。中国製品は魅力的な値段で売られている。だが、購買力が日を追って落ち込んでいるような国で、そもそもモノの売り買いなどできる次元ですらない」

米中では中国政府による寄付外交をめぐり緊張が高まり議論も絶えない。中国共産党中央対外連絡部西アジア・北アフリカ局の張健衛局長はこれについてこう語っている。「われわれはレバノンで米国に取って代わるつもりはないし、そんな能力もない。中国はいまだ発展途上国だからだ。中国が経済的にさらに発展したとしても、レバノン国内のいかなる空白も埋めようとは思わない」

張局長は、中国がアラブ諸国と協力すればいやな顔をする国もあるようだとほのめかし、たとえば、「中国の影響力封じ込めのためあらゆる方策を講じている」米国などがそれに当たる、とした。

「米国は世界最大の先進国だ。そんな国とわれわれは貿易戦争などしたくない。が、米国が頑として節を守るというのなら、われわれとしても最後まで戦い抜くまでだ」。張局長はそのように語る。

いまやレバノンはかくも中国との紐帯が深化し多岐にわたるとはいえ、とりあえずのところは米国との結び付きを絶やすことはない、とダーヘル氏は言う。

「中国に何もかもさらけ出すというわけにもいかないし、かといって米国の影響から解放されるわけでもない」

「政治に携わる層は、資本家だったり高等遊民みたいなものだったり、生まれつき特定の宗教派閥の眷属だったりだ。だからこそ宗派ごとに割り当てられるクオータにしがみつくのだし、改革を忌避するのだ」

「レバノンが事態の好転を決意するならば、中国に門戸を開くしかない。このままの状況が続くならレバノンは破綻してしまう」

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