
Jumana Al-Tamimi
ドバイ:科学者や製薬会社による、COVID-19ワクチンの開発競争が進む中、パンデミックと闘うため、多くの異なるレベルで広範な取り組みが行われている。
これまでのところ、主にニュースになっているのは、製薬研究室による、有効な治療選択肢を見つけ出すための取り組み、特にワクチンだ。専門家らによると、実用化されたワクチンが入手可能になれば即購入するための複雑な交渉が舞台裏で進んでいるという。
中東のいくつかの国を含む数カ国が、さまざまな段階の試験に携わっている大手企業や研究機関との交渉に参加している。
一方、世界保健機関(WHO)は、ワクチンが入手可能になった後の迅速かつ公平な分配を確保する方法について、各国と準備協議を行っている。
現在進められている取り組みが今後数カ月のうちに成功すれば、ワクチンの歴史上、最速になるだろう、と専門家らは言う。
カイロにある、WHOの地域事務局で感染危機管理部の責任者を務めるAbdinasir Abubakar博士によると、ワクチン試験の全段階が「急ピッチで」進んでいるという。
同氏はアラブニュースに対し、次のように語った。「3~4つのワクチンが第3相試験に進んでいて、年末か来年の初めにはワクチンを入手できる可能性があります。これは通常であれば18ヶ月以上掛かる、通常のワクチン開発工程と比べると、非常に速いです」
研究が急ピッチで進められているのには多くの理由がある。「COVID-19の社会・経済的負担は甚大です。これまで、このようなものは見たことがありません」とAbubakar氏は述べた。「第二に、政治的コミットメントがあり、第三に、多額の資金があります。各国政府は実際にワクチン開発に資金を注いでおり、それによって違いが生まれています」
Abubakar氏によると、WHOは、国際社会が合意した協約に基づき、計画の届け出からワクチン製造まで、異なる団体の取り組みを調整する上で「重要な役割」を果たしているという。「結局のところ、国際基準・ガイドラインに従わないワクチンを見つけることを我々は望んでいません」
WHOは、COVID-19ワクチンの試験や薬剤、診断ツールに関する会議を定期的に開き、関係する全ての企業や団体にデータベースとプラットフォームを提供している、と同氏は説明した。
ワクチン開発競争に参加している企業は170社を超え、そのうち135社近くが前臨床試験段階、30社が最初の2段階、6社が第3段階に入っている。台湾やインドの企業も最近、この競争に加わった。
第3段階では、ボランティアの人数が通常数万人と多く、複数の検査が行われるため、通常はより時間が掛かり、普通は1~数年掛かる。ボランティアは、ワクチンかプラセボのどちらかを接種するよう、無作為に割り当てられる。プラセボとは「偽の」ワクチンのことで、注射されるのはただの生理食塩水か無菌の緩衝液だ。
カリフォルニア州バークレーにあるBayview CMC ConsultingのオーナーであるKhawla Abu-Izza氏によると、両被験者群は継続的に抗体検査を受け、副作用がないか検査されるという。
第3相試験では、ワクチンによる防御効果の持続期間も決定される、とアラブ系米国人のコンサルタントである同氏はアラブニュースに語った。
「ワクチンを接種した被験者が最初の2~3カ月はプラセボ群より保護されていたとしても、4~6カ月後に実薬群とプラセボ群の間に差が見られなければ、その防御は短期間にすぎないということです」と同氏は述べた。
COVID-19ワクチン開発の最前線にいる企業はモデルナ(米国)、バイオエヌテック(ドイツ)とファイザー(米国/多国籍)の共同、アストラゼネカとオックスフォード大学の共同(英国)、そしてシノバック(中国)だ。最初の3つは、中国企業に続き、7月に第3相試験に入ったことを発表した。
「どれが最初にゴールまでたどり着くかを予測するのは難しいですが、調査全体が完了するよりずっと前に、企業が部分データの早期中間分析に関して規制機関と合意を取り付けていることはほぼ確実です」とKhawla氏は述べた。
つまり、米食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁といった主要な規制機関は、再調査期間を数カ月に短縮することを許可したり、正式な新薬申請書(NDA)の提出を待たずに「臨床結果」を見た時点で「条件付き承認」を与えたりすることができる。
COVID-19の治療薬を探すのに必要な調査は比較的少なく、臨床研究の規模は小さく、治療・観察期間が短いため、「有効な承認されたワクチンが出る前に、COVID-19の治療用に承認された薬が、より多く出るかもしれません」とKhawla氏は述べた。
同氏によると、もう1つの「最もありそうな」シナリオは、複数のワクチンが立て続けに承認されることだという。
「ワクチン製造会社は複数の製造所を持つことになるでしょう。通常は2箇所。北米に一箇所、欧州に一箇所。もしくは西洋諸国に一箇所、アジア(中国、インド、韓国)にもう一箇所。日本は例によって、国内市場向けの薬剤やワクチンを国内で製造したいと考えています。そこで、企業は日本の製造パートナーを見つけようとします。中国も同じですが、この場合、中国は独自のワクチンを開発中で、米国やEUが開発したワクチンは必要ないかもしれません」と同氏は述べた。
製造業者は世界の70億人の需要を一度に満たすことはできないため、企業がどれくらい生産できるのか、誰が最初に受け取ることになるのかといった問題が重要になる。楽観的なシナリオでは、生産ラインの数によっては、初期段階で年間2億4000万~4億回分だと専門家らは見ている。
ロンドンのケンブリッジ・ファーマ・コンサルタンシーの上級コンサルタントBelal Zuiter氏はアラブニュースに対し、「生産量の5割は、ワクチンを開発している国のために確保されると見ています」と語った。COVID-19で深刻な影響を受けている国や、脆弱なグループを抱える国が優先されることが予想される、とZuiter氏は述べ、アラブ諸国の優先順位は必ずしも低いとは言い切れないだろうと補足した。
ワクチン生産国になる可能性のある国々と強いつながりを持つ、アラブ諸国を含む多くの国々は、COVID-19ワクチンを優先的に入手するための交渉を始めている。「各国の保健省のほとんどがモデルナとアストラゼネカと、自国の量を予約するために協議したことを知っています。アラブ世界では、ワクチンが生産されてから最初の2~3カ月以内に十分な量を確保できると思います」とZuiter氏は言う。
政府が、ワクチンを配布する責任を負う一方、製造業者、NGO、慈善団体には果たすべき重要な役割がある。「GaviとCEPIという(WHOと協力している)2つの大きな団体があります」とAbubakar氏はアラブニュースに語った。「我々の3つの組織は、有効なワクチンの生産を調整するだけでなく、公平な分配を確保するために協力しています」
ワクチン同盟であるGaviは、2000年に設立された、官民のパートナーシップで、世界の子供の半数に予防接種をすることを支援している。そのメンバーは、発展途上国や援助国、世界銀行、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などだ。CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)は、2017年にダボスで始まった、公共・民間・慈善・市民団体のパートナーシップで、ワクチン開発と伝染病の阻止を目的としている。
Abubakar氏によると、WHO、Gavi、CEPIは、国、生産者、製造業者、ユーザーのための促進機構であるCOVAXを設立したという。製造業者と直接取引できる国もあれば、資金不足でできない国もある。COVAXは製造業者との交渉を行う。同氏によると、生産者になる可能性のある者と中低所得国との間では、価格をめぐる議論が既に始まっている。
「COVAXの背後にある考え方は、富裕国であれ中所得国であれ低所得国であれ、全ての国が、優先すべきグループのために、少なくとも十分な量のワクチンを入手できるようにすることだけです」と同氏はアラブニュースに対し、語った。
各国政府が、ワクチンを規制するための下準備をし、政策や、広く配布するために必要なシステムを整備するのをWHOは支援している。
「覚えておいてください。このワクチンは誰でも使えるものではなく、高リスク群が優先されます」とAbubakar氏は述べた。