
ガザ地区、ガザ市:アーメド・エルラビイ医師は、ガザ地区でイスラエルとの戦争や軍事衝突で負傷したパレスチナ人を何年も治療している。軍事封鎖されたガザ地区に新型コロナウィルスが侵入した今、37歳になるエルラビイ医師は患者の身となり困惑している。
エルラビイ医師は新型コロナ感染が発覚した医師として初の人物だ。ガザ地区でコロナ感染が拡大した際、数十名の医療関係者の感染が発覚した中の1人だ。感染が分かったのは先週のことだった。第一線の医療従事者の間で感染が広がったことで、元々余力のなかった医療体制にさらなる負担がかかっている。
ガザ地区に2カ所あるコロナ感染症指定病院の1つにて、エルラビイ医師は、コロナの脅威は多くの点で戦争よりも恐ろしいと語った。
戦闘中なら「怖いのは間違って弾薬の破片を浴びることだけです」と語った。「しかしコロナウィルスの場合、感染経路や感染源が分からないため心配が絶えません。患者さんや同僚からうつされたり、エレベーターなど物に触れたりして感染してしまうからです」
2007年以来、ガザ地区はハマス封じ込めを狙うイスラエルとエジプトにより軍事封鎖されている。ハマスとはイスラム武装組織で、国際社会から承認されたパレスチナ自治政府から、2007年にガザ地区の支配権を奪った。
軍事封鎖されているため、新型コロナウィルスの侵入が大幅に遅れたと考えられている。ガザ地区を出入りできる人間は非常に限られている。ハマスはガザ地区に戻った人間全員を、強制検疫センターで3週間隔離していた。先々月の段階では、ガザ地区でコロナウィルスに感染したごく少数の人々は隔離施設に収容されていた。しかし8月24日に、一般住民の中から初の感染者が確認され、その後感染者数は増加の一途をたどっている。
限られた検査能力しかないにもかかわらず、陽性者がすでに1,000名を超えてしまった。死亡者は9名だ。
コロナの感染拡大は、特にガザ地区の医療従事者にとり打撃となっている。彼らは10年以上にわたり、イスラエルとの紛争で負傷した人々を治療する役割を担ってきた。軍事封鎖とパレスチナ内部の権力闘争の犠牲となり、経営的に脆弱な医療体制の中で働いている。このため医師・看護師など医療従事者に給料が満額支払われることはない。
現在コロナウィルスにより、医療従事者は肉体的・精神的・経済的に追い詰められている。保健省職員のアーメド・シャタット氏は、少なくとも68名の医療従事者が感染していると語った。
パレスチナ人およそ200万人が暮らすガザ地区でさらに感染が拡大すると、医療体制が脆弱なため破滅的な結果に至ると専門家が警告している。
「ガザ地区の医療体制はあまりにも脆弱で、大規模な感染症拡大には対処できない。重症者に対応できる集中治療用ベッドや人工呼吸器は数十名分しかない」と国際赤十字委員会が先週警告を発した。シャタット氏は、感染拡大前からすでに医療従事者が不足していたと語った。
人員不足を緩和するため、保健省はウイルスに感染した可能性がある医師と看護師の強制隔離期間を、3週間から2週間に短縮した。しかし、検疫センターと隔離病院に十分な人員を配置するのは依然として困難だ。感染の恐れがある人員が何百名も保護隔離されている。妊娠中や基礎疾患のある人員は適用外だ。
「世界中の先進的な医療体制ですら、感染拡大を食い止められませんでした。そうすると、ガザ地区の脆弱で、外部から封鎖され、援助に依存する医療体制はどうやってコロナ危機に立ち向かうことができるのでしょうか」とシャタット氏は語った。
感染前のエルラビイ医師は夏の猛暑の中、個人用防護具を完全着用して24時間働いていた。2日間の休みを取りに家に帰り、さらに病院に戻って24時間働くという生活だった。「疲れ切っていました」と思い出して語った。
「現在コロナウィルスのため、あらゆる業界が活動を停止しています。さらに民間病院の診療もストップしたので、公的機関で働くほかありません」と説明した。
エルラビイ医師はこの10年間、ガザ地区で最大のシファ病院に勤務している。新型コロナの感染拡大後、彼は呼吸器疾患を持つ人々を治療するチームに割り当てられた。
ある女性患者にコロナウィルスの陽性反応が出た。すぐさま医師と看護師全員が検査を受け、エルラビイ医師の感染が判明した。「ショックでした。なにしろガザ地区で感染が広がっているとは思いもよらなかったので」と語った。
AP