
レイ・ハナニア
シカゴ:長い間、アラブ系アメリカ人は投票に対し熱心であり、エスニック・コミュニティの中ではアフリカ系アメリカ人やユダヤ人と並んで常に最高レベルの投票率を誇ってきた。
数においてはアフリカ系アメリカ人有権者に劣るが、アラブ系アメリカ人有権者は、共和党の保守主義と民主党の社会的公正政策のしばしば両方を支持する形で投票に参加している。
そんなアラブ系アメリカ人だが、これまでは政治システムから疎外されるのが常だった。これで自分たちの愛国心が認められるだろうと信じた時期ですらそうだった。ヒラリー・クリントン氏が最初にニューヨーク州の米国上院議員に立候補した2000年を思い出してみるとよい。ニューヨーク州の多数の親イスラエル有権者を満足させるために、クリントン氏はムスリムやパレスチナ人の活動家からの寄付を返上したのである。
その結果、アラブ系アメリカ人は、キリスト教徒であれイスラム教徒であれ、どの候補者を支持するかの選択に大変うるさくなった。前回は共和党、今回は民主党という風に、2党の間を行ったり来たりしてきたのである。だがどんな場合であれ、票の基盤となってきたのは、常に米国の中東政策だ。
今年、アラブ系アメリカ人有権者の選挙運動はますます活発になった。民主党のジョー・バイデン氏が6ページに及ぶ「パートナーシップ計画」を発表したのである。この種のものとしては初めてのこの計画書によって、バイデン氏はアラブ系アメリカ人コミュニティの支持と関与をはっきりと呼びかけたのだ。バイデン氏の政策は常に親イスラエルであったが、パレスチナの人々に対する懸念を受け入れたいという意思も、トランプ氏よりは強い。
アラブ系アメリカ人民主クラブ(AADC)のサミール・ハリール会長は、11月3日には共和党のドナルド・トランプ米大統領ではなくバイデン氏を支持していることだろう。ハリール会長によると、バイデン氏の「パートナーシップ計画」文書の発表により選挙気分が一気に盛り上がり、アラブ系アメリカ人は初めて、自分たちがようやく重視される時が来た、必要な組織票として付け込まれるだけではなくなるのだと信じることができたという。
「私たちはこれまで、あらゆる政党や候補者から付け込まれてきました。そうしたケースが多すぎました。票数を獲得したい政党や候補者から利用されるのですが、最終的に私たちの要求が叶えられることはないのです。これまでずっとそうでした」とハリール氏は付言した。
「当選した役人に対し、私たちは、アラブ系アメリカ人のコミュニティを受け入れてほしいとずっと要求してきました。外交政策に関する私たちの懸念を認識するだけでなく、私たちのコミュニティのメンバーを雇用し、私たちのコミュニティに助成金を提供し、私たちを白人、黒人、ラテン系、アジア系といった他の民族や人種集団と全く同じように扱うことによって」
AADCとシカゴの米国アラブ商工会議所が主催したオンライン会議の中で、講演者たちは、今回の選挙に向けやる気満々だと語った。
「私たちも最終的には他の米国民が気にしているのと同じことを気にしているのです 」と、バイデン陣営でアラブ系アメリカ人向け広報を担当するジェニファー・アタラ氏は語った。
「私たちは雇用や経済について気にしています。ヘルスケアについて気にしています。持病が保険でカバーされることを望んでいます。私たちは、米国民の生命が危険にさらされている時に誤情報におもねるようなことをしない候補者が選ばれることが大切だと考えています」
アタラ氏は、トランプ大統領と、その新型コロナウイルス感染症パンデミック対策について批判的だ。「今回の選挙では約25万8千人の米国民が投票しないことになります。その人たちがコロナで亡くなってしまったからです」とアタラ氏は言う。
アラブ系アメリカ人協会(AAI)のジム・ゾグビー会長は、トランプ氏はアラブ系アメリカ人やムスリムを含む普通の米国民に対し暴力行為を行ってきた極右を奨励していたと述べた。ゾグビー会長は、トランプ氏がこうした極右の暴力に対処できなかったことについて、「絶え間ない危険」だと述べた。
「イリノイ州は勝つと思います。ミシガン州、オハイオ州、ペンシルバニア州は危惧する必要があります。この3州で大きな違いが出るのです」とゾグビー会長は付言し、アラブ系アメリカ人の選挙参加度が激増したことを指摘した。
私たちはこの3州で投票する必要があります。ここで大きく差をつけるのです。前回の選挙では、この3州とウィスコンシン州における数万票という差が選挙結果を大きく変えたのですから。この選挙が終わったら、アラブ系アメリカ人のおかげで勝てたと言われたいものです」
ゾグビー氏は、バイデン氏のアラブ系コミュニティに対するアウトリーチの努力を称賛し、元セカンドレディのジル・バイデン氏が最近ミシガン州ディアボーンのシャティラ・ベーカリーを訪れ、アラブ系アメリカ人有権者たちと会ったことも指摘した。
「大統領候補者が私たちの元に来てくれるのをこれまで何度待ったことでしょう」ゾグビー氏は言う。
AAIは長年にわたり「Yalla Vote(投票しよう)」キャンペーンの先頭に立ち、アラブ系アメリカ人コミュニティーに向け投票奨励に努めてきた。
アラブ系アメリカ人とムスリムはこれまで、共和党と民主党の両党を支持してきた。共和党を支持するのは、同党が中絶権に反対し家族価値や信仰の自由を擁護しているから、民主党を支持するのは、同党の難民や移民に対する政策がよりリベラルであることと、党の対パレスチナ外交政策に共感できるからである。
AAIによる最近の世論調査では、活動家の主張にもかかわらず、アラブ系アメリカ人は画一主義的ではなく、問題に基づいて差別されていることが分かった。
AAIの調査では、アラブ系アメリカ人の59%がバイデン氏を支持したのに対し、トランプ氏の支持者は35%だったことが明らかになった。この調査ではまた、2016年と今年では支持率の変化が僅かであることも浮き彫りになった。2016年には、58%がヒラリー・クリントン氏を支持し、25%がトランプ氏を支持していた。
ISPU(Institute for Social Policy and Understanding)が行った世論調査では、米国のムスリムの間では共和党とトランプ大統領に対する支持率も2016年から上昇していることが明らかになった。イラン、イラク、スーダン、ソマリア、シリア、イエメンなど、イスラム教が優勢な数か国からのムスリムを規制したトランプ大統領に対し批判的な報道があったにもかかわらずである。
ISPUによると、「ムスリムの間では、トランプ大統領の仕事ぶりに対する支持率は、2018年の13%、2019年の16%から、2020年には30%に上昇している」という。