
カリーヌ・マレック
ドバイ:イスラエルと湾岸協力会議(GCC)の加盟2カ国であるアラブ首長国連邦とバーレーンが最近、国交正常化したことにより、パレスチナ・イスラエル紛争の解決に向けた準備が十分整う可能性がある。
これは、3日間に渡り開催されたアブダビ戦略討論会の一部であるパネルディスカッションに参加した専門家の主な見解の一つである。
戦略的な「再予測」や「ゲームチェンジャー」への言及が散りばめられた「湾岸地域:再予測」と題された火曜日の討論会は、アラブ首長国連邦のエミレーツ政策研究所が主催した第7回アブダビ戦略討論会のハイライトの一つであった。
バーレーン外務省付属シンクタンク戦略国際エネルギー研究所(Derasat)のアブドラ・ビン・アーメド・アル・ハリファ所長は、「中東における勢力分布の地政学的地図が変化しています」と述べた。
さらに、「過去20年を振り返ると、以前中心的な役割を果たしていた国々が、内戦や不安定さ、経済の停滞などの理由により、もはや中心的役割を果たしていないことがわかります。特に湾岸地域に目を向けると、急速に湾岸諸国の先頭に躍り出た後、平和、経済発展、政治・地域情勢の面で地域をリードしています」と語った。
また、アル・ハリファ所長は、他の地域と比較しても湾岸協力会議諸国は、国内の安全保障を維持することに成功し、積極的な経済発展に力を入れ続け、国民に必要かつ先進的なサービスを提供し、世界中から優れた人材を集めていると述べた。
「湾岸地域がより良い状態にあることを示す非常に前向きな指標があります」とヤドリン氏は述べた。「予測によると、湾岸地域が2030年までこのような前向きな経済発展の軌道を継続できれば、同地域は世界で6番目に大きな経済圏となります。これは大きな変化です。」
湾岸協力会議の実績を踏まえて、アル・ハリファ所長は国連難民高等弁務官事務所の推計によると、2014年には主に中東からヨーロッパに向けて故郷を離れる難民の数が22万5千人に上ったという。その1年後には、その数は4倍の100万人を超え、その後徐々に減少し始めたと語った。
「2015年の1年間だけで何が起こったかというと、中東の一部で緊張状態にある地域へ資金が継続的に流れ、テロリストや過激派組織への資金供給が行われていました。これが一層の不安定さを引き起こし、同地域における多くの他国の治安が損なわれ、それがより多くの難民がヨーロッパに向かわせることとなったのです。」
アル・ハリファ所長は、トランプ政権がイランに課した(最大の)「経済的圧力」と、昨年イスラム革命防衛隊をテロ組織としてレッテルを張ったことについて留意したものの、決定的な行動が取られていないことに注意を促した。
「多くの人は、現イラン政権が米国の新政権に賭けているという考えを持っています。そして、我々は今後米国大統領選挙の最終結果を見ることになりますが、その選挙結果はまだ中東地域の情勢に反映されていません。」
アブダビにある国防大学の政治学元教授であるアルバドル・アルシャテリ氏は、イスラエル、アラブ首長国連邦、バーレーンによって署名されたアブラハム合意の実現について、この地域で「蔓延する」地政学的競争のために必要なものの一つであると述べた。
さらにアルシャテリ氏は、この条約に署名した3か国はすべて、イランを共通の脅威とみなしていると述べ、3か国は、特に1990年のクウェート侵攻以降衰退の一途をたどるアラブの国家体制が徐々に「侵食」されてきたために、この条約に参加したと語った。
また、アルシャテリ氏はこのように加えた。「アラブ国家体制は、様々なアラブ諸国の外交政策を形成し、外部からの脅威や課題に直面した際にリーダーシップを発揮する構造でした。 その衰退または侵食以来、アラブの中核的国家は現在、基本的にはシリアやおそらくイラクのように、混沌とした状態にあるか、あるいは破綻した国家となっています。エジプトもまた、自国のことで精いっぱいであり、同地域システムの中でアラブ国家体制が果たしてきた大きな役割を果たすことはできないでしょう。」
さらに、アルシャテリ氏は世界的な観点からは「重心」が欠けているとし、この地域における米政府の役割が減少していくことにより、同地域の政治秩序を維持するという米国の伝統的な役割を果たせなくなると述べた。
アルシャテリ氏は、バーレーン、アラブ首長国連邦、イスラエルの国交正常化の結果を見てより多くの国が和平プロセスに参加する必要があるとし、慎重な楽観論を展開した。
「私は個人的に、民族構成や信条に関係なく、すべての国が平和と調和の中で共存することが可能となる同地域全体のためのウェストファリア平和条約のようなものを提唱します」とアルシャテリ氏は述べ、さらにこのように加えた。「調和の中で共存できないとしても、少なくとも安全な国境内で共存することができます。新しいアブラハム合意がそのような環境や変革を生み出すことができるのであれば、ゲームチェンジャーの話をしてもいいと思います。この国交正常化が今後どのような影響を与えるかが試されます。」
結論として、アルシャテリ氏はパレスチナ・イスラエル紛争の解決を求め、これはアラブ人とイスラエル人の間の核心的な問題であると加えた。
「この問題を解決することは、より安定した、より安全な地域へと我々を突き動かすことになります。この問題の解決なしには、その実現はさらに困難になり、人々の間で大きな憤りが巻き起こるでしょう。」
同じパネルディスカッションに参加したイスラエル国防軍元少将でテルアビブ大学国家安全保障研究所所長のアモス・ヤドリン氏は、イスラエル、アラブ首長国連邦、バーレーン間の国交正常化プロセスについて、近代化、緊張緩和、安定性、平和などの利益と価値観が一つになったものであるとした。
「ゲームチェンジャーとなりうることは、シリア、リビア、イラクでの内戦に苦しんでいる中東の人々に、トルコやイランの負の影響を示し、指導者間だけでなく、すべての人に浸透するより良い関係を築く別の方法があることを示すことです」とヤドリン氏は述べた。
「パレスチナ・イスラエル問題が前進する可能性もあります。アラブ首長国連邦が併合を止めたことにより、パレスチナ人が交渉の場に戻ってくる可能性もあります。米国が新政権となれば、これはさらに容易となるでしょう。湾岸諸国は和平協定を利用して イスラエルとパレスチナ間の交渉を前進させることができることに気付いたのです。」
ヤドリン氏が挙げたもう一つの戦略的可能性は、ヤドリン氏が中東を不安定化させているとする「イランのテロ活動」とイランの代理組織に対処するため、湾岸諸国、イスラエル、米国がより協力することであった。「ここで私達は協力できます」と述べ、次のように加えた。「誰も戦争や衝突を求めていません。しかし、イランが、我々が情報を共有し、課題に対処するために協力していることを知るという事実は、中東のゲームチェンジャーとなるもう一つの機会です。指導者と国民の間に信頼が築かれれば、私たちは皆、より良い中東を見ることができるでしょう。」
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ツイッター: @CalineMalek