
アメリカ、アーリントン: 訪米中のガンツ国防相は3日、アメリカがイラン核合意への復帰を目指すなか、イスラエルはアメリカとの協議を継続すると述べた。アメリカとレームダック化しているベンジャミン・ネタニヤフ政権の間では、イラン核合意への復帰について長らく意見の対立が表面化していたが、対立を回避する形となった。
ベニー・ガンツ国防相はロイド・オースティン国防長官との会談前に記者団に対し、核開発計画をはじめとしたイラン政府の行為はイスラエルにとり「国家存続にかかわる脅威」だと述べた。「イランの核開発阻止は、アメリカ・イスラエルおよび関係各国共通の戦略的重要課題だ」とガンツ国防相は述べた。
しかし、ガンツ国防省はネタニヤフ首相とは異なり、バイデン政権に真っ向から異議を唱えるのは避けた。イスラエル国内では反対勢力が12年間権力の座にあるネタニヤフ首相を退陣させるべく動いている。バイデン政権は経済制裁の緩和と引き換えに、イランの核開発計画を制限する交渉の場に復帰する動きを見せている。
ガンツ国防相は、国防総省でオースティン国防長官とテーブルを挟んで対談し「イランに核兵器を持たせないという目標を効果的に実現するには、イスラエルとアメリカが対話することが非常に重要である」と述べた。
「もちろん、イランがもたらす脅威の及ぶ範囲を考えると、イスラエルは常に自衛力を確保しなければなりません」と付け加えた。
ガンツ国防相は意図的に穏やかな語り口をしていると、明確に述べた。「この重要な戦略的対話を、内輪の話として継続しましょう … あくまで、メディアが挑発的に報じないような形で」と述べ「密室で、率直に話し合う」ことを求めた。バイデン政権がイスラエルとは「静かな外交」路線を取ると公言し、バイデン大統領自身も実践していることに応えた発言だった。
ネタニヤフ首相は、2015年にオバマ政権下で成立しトランプ大統領が当選後離脱した、イラン核合意をなきものにしようと長年にわたり奮闘してきた。2015年のアメリカ上下両院合同会議での演説では「非常に愚かな取り引き」と糾弾するにまで至った。
ネタニヤフ首相はここ数日、アメリカの核合意復帰に対し公然と反対を唱えており、合意への復帰は「イランが国際社会に公認された形で核戦力を持つ道を開くものだ」とし、これを阻止するには「偉大な同盟国アメリカとのいかなる衝突」をも辞さないと述べた。
バイデン大統領は核合意への復帰を目指している。イランが原子力の平和利用と称する計画を阻止し、中東地域で紛争の火種を押さえ込む最善の方法だからだという。今週、EUなど交渉仲介役は、ウィーンで米国とイランを核合意に復帰させるための直近の協議を終えた際、楽観的な見方を示した。
ガンツ国防相はさらに、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とアントニー・ブリンケン国務長官とも会談した。ガンツ国防相はネタニヤフ首相の辞任を目論む勢力に所属しており、政権が変わっても国防相に留任する見通しだ。
ガンツ国防相が3日に米政府幹部と次々に会談したことで、アメリカのイスラエル防衛に協力する姿勢が明確となった。イスラエルでは何年も政治的混乱が続いており、ガザ地区では先月ハマスとの戦闘が起き停戦したばかりだ。
ガンツ国防相は、パレスチナ人との戦闘行為を外交的に終結させるための「完璧な計画」を政府当局者たちに提示すると述べた。しかし計画の詳細については言及を避けた。
ガンツ国防相によるワシントン訪問の主な目的は、イスラエルの「アイアンドーム」を整備し直すため、アメリカからの資金援助を確保することだと思われていた。アイアンドームとは高度ミサイル防衛システムで、先月ハマスがイスラエルに向けて発射したロケット弾多数の迎撃に成功した。11日間に及ぶ戦闘で260人が死亡したが、その大半はパレスチナ人だった。イスラエルはハマスが実効支配するガザ地区に数百もの空爆を実施して標的を攻撃し、ハマス側は4000を超えるロケット弾をイスラエルに向けて発射した。
リンゼー・グラム上院議員(共和党・サウスカロライナ州)は、今週イスラエルを訪問しており、今回のガザ地区での戦闘により疲弊したイスラエルを支援する姿勢を見せている。イスラエルはアイアンドームの整備に対し、アメリカから最大10億ドルの支援を期待しており、これには迎撃ミサイルの在庫を補充する費用も含まれると述べた。
アメリカ当局は、資金援助についての即答を控えた。オースティン国防長官は、バイデン大統領が「イスラエルのアイアンドーム・ミサイル防衛システムの整備・補充を全面的に支援すると表明した。アイアンドームのおかげで多くの命が救われたからだ」と述べた。
「アメリカは、イスラエルが質的な軍事的優位性を維持し、自衛権を確保できるよう全力で協力する」と付け加えた。
イスラエルのアイアンドームに対するアメリカの協力は、議会で超党派の支持を得ている。イスラエルの自衛権に対する全面的支援も同様であり、何十年にもわたりアメリカ外交政策の柱となっている。しかし、先月起きた2014年以来最も激しいイスラエル・パレスチナ間の戦闘により、バイデン大統領率いる民主党内の亀裂も浮き彫りとなった。リベラル派を中心に、人口が密集するガザ地区でパレスチナ人の死亡者が増加するなか、ハマス・イスラエル双方に停戦を要求する声が上がった。
ブリンケン国務長官はガンツ国防相との会談前に記者団に対して、イスラエルの安全保障に加えて、ガザ地区への援助についても協議すると述べた。戦闘で損壊・破壊されたた住宅や公共インフラを再建するためだ。
AP通信