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アラブ・イスラム系政党がイスラエルの連立でユダヤ民族主義者と合流する中、ムスリム同胞団が本当の姿を見せる

イスラエルの野党の指導者、ヤイル・ラピド氏(左上)は、「変化」の政権の実現に向けて、幅広い政治的領域を越えて十分な支持を集めることに成功した。(AFP/資料写真)
イスラエルの野党の指導者、ヤイル・ラピド氏(左上)は、「変化」の政権の実現に向けて、幅広い政治的領域を越えて十分な支持を集めることに成功した。(AFP/資料写真)
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05 Jun 2021 03:06:31 GMT9
05 Jun 2021 03:06:31 GMT9

アラブニュース

  • マンスール・アッバス氏率いるアラブリスト連合の決定で、アラブ系政党がイスラエル政府に初めて加わる
  • アナリストらはこの動きを、ムスリム同胞団に影響を受けた政党が理念よりも権力を優先した新たな例と見ている

ドバイ:「統治とは選択することだ」と言われている。イスラエルのアラブリスト連合のマンスール・アッバス党首は、今後数週間から数カ月の間に、いくつかの難しい決断を迫られることになりそうだ。同氏と同氏の党がイスラエルで新しい与党連合の一部になった場合だが、その可能性は高い。

2日夜、アッバス氏が、中道政党イエシュ・アティドのヤイル・ラピド氏と右派政党ヤミナのナフタリ・ベネット氏が率いる連立政府に連帯して参加することに合意したことが発表された。イスラム主義政党がユダヤ民族主義政党の連合体であるヤミナと熱心に団結するという皮肉は、パレスチナ人にも、より広いアラブ世界にも分かる。

アナリストらはこの展開を、ムスリム同胞団に影響を受けた政党が、危急に際して理念よりも権力と自己利益を優先した新たな例と見ている。

沿岸都市テルアビブ近郊のラマトガンで、イスラエルのアラブ・イスラム系保守政党ラアムのマンスール・アッバス党首(右)が、イスラエルの野党の党首ヤイル・ラピド氏(左)と右派民族主義者でテック系の大富豪であるナフタリ・ベネット氏とともに連立協定書に署名している。(AFP/資料写真)

「このニュースには驚かなかった。同胞団と関係がある組織はいつでも、政治的目標を達成するためにあらゆる手段を用いてきた」。政治アナリストで国際関係学者のハムダン・アル・シェフリ博士はアラブニュースにそう語った。

「今回の協力は、長年続くドラマの新しいエピソードにすぎない。ムスリム同胞団は自国の政府以外の誰とでも協力する。その程度と意思を示し続けるドラマだ」

政略結婚が長く続くかどうかは別問題だ。国会で承認されれば、この連立で12年間続いたベンヤミン・ネタニヤフ政権に終止符が打たれる。1948年のイスラエル建国以来、アラブ系政党がイスラエル政府に加わるのも初めてだ。

アッバス氏が入閣すれば、同氏はイスラエルの内閣に加わった最初のアラブ人政治家となる。ユダヤ系イスラエル人の政治家や有権者はこれまで、このような形での参加は、ユダヤ人国家の性質を損なう、大きすぎる一歩だと考えてきた。

アラブ人政治家側も、アラブ・イスラム世界の多くの地域でいまだにその正当性や、存続する権利さえ激しく議論されている国の政府に積極的に加わることに神経質になっていたのかもしれない。

そのような政治家は、ネタニヤフ氏率いるリクードのドルーズ派から、ハダシュの宗教と無関係な共産主義者、イスラエル南部の、社会から取り残された少数民族ベドウィンの代表者まで多岐にわたる。メンバーの中にはイスラエル国防軍(IDF)で志願兵をしている人もいる。

そしてアッバス氏率いるアラブリスト連合がある。ヘブライ語の頭文字をとってラアムと呼ばれることが多い。アラブリスト連合はイスラエル・イスラム運動の残党であり、そのようなものとしてムスリム同胞団と提携していると理解されている。

ガザ地区を支配し、ヨルダン川西岸地区で高い人気を誇る過激派組織ハマスは、ムスリム同胞団を起源とすることや、ムスリム同胞団との友好関係を隠すことはほとんどないが、アラブリスト連合はムスリム同胞団と関係があるというだけだ。ムスリム同胞団は、エジプト、UAE、バーレーン、サウジアラビアなどからテロリスト集団として分類されている。

左から右へ。チュニジアのイスラム主義政党アンナハダのラシド・ガンヌーシ党首、エジプトのムスリム同胞団のスポークスマンであるタラート・ファーミー氏、ヨルダンのムスリム同胞団のザキ・バニ・ルシェイド氏。イスラム主義者が民主的な選挙や政府に参加した結果は、せいぜい問題になった程度だった。(AFP)

2015年にイスラエル政府はイスラム運動を禁止した。ウンム・アル・ファームという町出身の、北部の下部組織のリーダー、ラエド・サラ氏は、暴力を扇動した罪で繰り返し服役している。

アッバス氏はマガル村出身の歯科医で、2019年に国会議員に当選したが、より柔らかな顔を見せている。同氏は、より穏健な、同党の南部の下部組織出身だと考えられている。しかし同氏は経験豊富な政治家だ。

国際危機グループ(ICG)のイスラエル・パレスチナ問題の上級アナリストであるマイラブ・ゾンゼイン氏は、アラブニュースに対し、「マンスール・アッバス氏がナフタリ・ベネット氏との連携を決めたことは、アッバス氏が数年間ネタニヤフ氏と協力してきたことを考えれば、驚くことではない」と語った。

ベネット氏は4年の任期のうち最初の2年間、首相の座に就く予定だ。同氏はIDFの特殊部隊サイェレット・マトカルとマグランに所属し、多くの戦闘活動に参加した後、大富豪のソフトウェア起業家となった。

ゾンゼイン氏は、「アッバス氏は、パレスチナの左派政党よりも、右派のユダヤ系の宗教政党の一部との共通点が多い」と、アラブ系政党の連合体であるジョイントリストに言及して語った。

2021年3月10日、議会選挙の前に、イスラエル南部の都市ベエルシェバ近郊のベドウィンにある町、ラハトで、選挙運動の看板の前を歩いて通り過ぎる女性たち。イスラエルの右派政党リクード(左)(党首であるベンヤミン・ネタニヤフ首相の写真が使われている)、アラブ系イスラエル人が多い選挙連合、ジョイントリスト(右から2番目)、イスラム運動(右)。(AFP/資料写真)

「この連立がどうなるかは、まだ分からない。この連立が組まれたということは、ネタニヤフ氏の支配とユダヤ系左派の終焉の両方によってイスラエル政治が行き詰まっているということだ」

アラブリスト連合に公平を期すために書くが、イスラム教に根ざした政党が政治的権力を分かち合う好機に飛び付いたのは、今回が初めてではない。多くのイスラム教徒は、民主主義は西洋でできたものあり、神から与えられた法の優位性とは相いれないと考えている。しかし、活動家や参加主義者の派閥の意見が優先されることは多い。

当然のことながら、イスラム主義者が民主的な選挙や政府に参加した結果は、せいぜい問題となった程度だった。

ムスリム同胞団の本拠地であるエジプトでは、ホスニ・ムバラク大統領の支配を終わらせた、いわゆる「アラブの春」の後の2011年に、一部の幹部が選挙への参加をためらった。

自由公正党(FJP)という手段によって選出されたムハンマド・モルシ氏の政権の激動の時代には、反ムバラクの抗議行動を起こした、より若い、教育を受けた活動家が阻害された。そして、時間をかけて、女性や同国のキリスト教の少数派の人々が疎外された。

批評家らは、こうした組織の民主主義へのコミットメントは、せいぜい問題がある程度だと判断し、モルシ氏の出馬を決めたのは、ひねくれて権力を得ようとしているにすぎないと見ていた。

2021年3月26日、イスラエル北部の村マガルで、イスラエルの保守のイスラム政党ラアムのマンスール・アッバス党首(右)が選挙戦での勝利を祝われている。(AFP/資料写真)

チュニジアでは、2011年にベンアリ政権が追放された後、現在国民議会の議長を務めるラシド・ガンヌーシ氏が、イスラム主義の世界観(強い反イスラエル、反ナショナリスト、汎イスラム)と、効果的な政府に必要な妥協案の両立に苦労している。

ムスリム同胞団の指導者の一部が現在拠点を置いている英国では、高級官僚と外交官によって国際的なイスラム主義ネットワークのレビューが行われ、その一部が「暴力的な過激主義と不明瞭な関係」にあることが判明した。

そのレビューで、秘密の下部組織の構造が特定された。「手の込んだ、新メンバーのための研修・教育プログラムがあった。規律を維持するために、集団の連帯感と仲間からの圧力に大きく依存していた。このような秘密の、中央集権的な階層構造は今日まで続いている」

ムスリム同胞団の他の指導者層が拠点としているトルコでは、よくネオ・オスマン主義と評される公正発展党の党首、レジェップ・タイップ・エルドアン氏の政府が、超民族主義的強硬派と政治的関係を築いている。

アッバス氏が、政府に加わる見返りとして、どのような条件を得ることができたのかは不明だ。1967年にイスラエルが占領したガザ地区及びヨルダン川西岸地区に住むパレスチナ人とイスラエルとの間で先月起きた戦闘を考えると、同氏の計算はより慎重を期する。

5月10日から12日間、ハマスに忠誠を誓う戦闘員がIDFとミサイルや砲撃で交戦した。 約250人のパレスチナ人が死亡し、そのうち少なくとも半数は女性と子供だった。イスラエルでは、ハマスのロケット弾で少なくとも12人が死亡した。

2021年5月25日、アラビア語で書かれた「妥協しないシェイク・ジャラー地区へようこそ」というスローガンの前を歩いて通り過ぎる少年。イスラエルに併合された東エルサレムのシェイク・ジャラー地区では、ユダヤ人入植者のためにパレスチナ人を家から追い出すことに反対する抗議活動が定期的に行われている。(AFP)

戦闘中に、ヤッファ、ロード、ハイファ、アッコ、ナザレなど、イスラエル国内の主にアラブ系とさまざまな人種が住む町が騒乱に巻き込まれた。イスラエル国境警察隊が迅速にイスラエルに戻され、暴動、車の炎上、建物への攻撃に対処した。

イスラエル国内に住むパレスチナ人は、失業率が高く、偏見や差別だと感じるものに苦しんでいる。

人口の21%を占めるパレスチナ人は大抵、ユダヤ系イスラエル人に比べて貧しく、教育水準も低い。しかし、ヨルダン川西岸地区やガザ地区、アラブ世界の別の場所にある移住先に住むパレスチナ人に比べれば、生活水準は向上している。

こうした困難な状況の中で、アッバス氏による政権への参加は、イスラエル人、イスラエルに住むパレスチナ人、ヨルダン川西岸とガザのパレスチナ人にとって、実際に、そして象徴的に、何を意味するのだろうか。

「一方で、パレスチナの政党が連立に加わることは重要だ。タブーを破り、将来の前例になるからだ」と、ICGのアナリストであるゾンゼイン氏はアラブニュースに語った。

「他方では、パレスチナ市民に対する差別的で破壊的な国家政策の根本的変化につながると信じるに足る根拠はまだない」

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