
ナジア・フッサリ
ベイルート:イスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師が9日、国家体制とアメリカに対する反逆とみられる演説をし「物資不足が続くなら、レバノンポンド払いでガソリンとディーゼルを輸入できるようイランと交渉」すべきだと主張した。
そうするとレバノンには国際社会から経済制裁が課される可能性があるが、その点には無頓着のようだった。テレビ演説の最中に「石油を載せた積荷がベイルート港に到着するだろうが、国家が受け入れを拒否すればよい」と発言している。
ナスララ師のテレビ演説が放映されたのは、イラク政府が約束していたレバノンへの石油供給量を倍増させ、50万トンから100万トンに増やすことで合意したとの報道が流れた数時間後のことだった。ナスララ師の発言により、レバノン国民の間でさまざまな反応が起きた。驚いた人もいたし、経済制裁のリスクを考えるとイランから石油を輸入するのは論外という人もいた。アメリカ政府はいまだにイランに経済制裁を課しており、ヒズボラの軍事・政治部門を共にテロ組織に指定している。
「ナスララ師がイランからの石油輸入について語った時、声が上ずっていました」とビラル・アブダラ国会議員はアラブニュースに語った。「レバノン国民は医薬品・食料・燃料が不足し苦しい状態にあります。だからといって、イランとのパイプを強化するために利用すべきではありません」
アブダラ議員は、そういった問題は「イラクがそうしたように、国内で話し合うべきものです。事態が国家や議会の枠組みから外れて動くと、結果的に国に利益をもたらすことはないでしょう」と語った。
アブダラ議員は「国民の置かれた苦境を政治利用して、レバノンと近隣諸国や国際社会との関係に悪影響を及ぼそうとするのは許されないことです」と付け加えた。
昨年ベイルートの爆発事故後にファランヘ党の同僚議員とともに、政府の無策に抗議して国会議員を辞職した政治家のエリアス・ハンカシュ氏はこう述べた。「ヒズボラは違法な国境検問所や合法的施設を含む国家資産をすべて管理しています。彼らは腐敗したマフィアの代表団体です」
ハンカシュ氏は「レバノンが直面している財政破綻・飢餓・国際的孤立」の責任はヒズボラにあると述べ「イランから石油を輸入すると、レバノンは経済制裁を課されてさらに孤立することになります」と述べた。
こう付け加えた。「ヒズボラにとっては、レバノンからシリアへの石油密輸を止めて、直接シリアに運ぶ方が都合がよいのでしょう。我々は補助金を受けた物資がレバノンから密輸されている背後にいる黒幕が誰か知っています。この黒幕が車に燃料を入れるためにガソリンスタンドで長蛇の列を作っているレバノン国民に屈辱を与えているのです」
ナスララ師は演説の中で「国民を辱めることは容認できない」と述べ、レバノン国民に同情するそぶりを見せた。
レバノン議会のナビー・ベリ議長は9日、イラクのムスタファ・アル・カディミ首相に対し「我が国の年間石油需要の半分を満たすため、供給量を50万トンから100万トンに増やし、レバノンを支援することをイラク政府が承認してくれた」ことに感謝すると述べた。
レバノン中央銀行が、石油輸入代金を支払うための信用枠の設定を拒否したため、電力危機に陥っていた。
レバノンと中東のエネルギー問題の専門家、マーク・アユーブ氏はアラブニュースに「政治が現在の危機を解決できないでいるため、石油を確保しこの困難な時期を乗り越えるため、レバノンが外国に頼ることに対し誰も反対できない状態です」と語った。
しかし、アユーブ氏はイラン政府と協力しようというナスララ師の提案は、レバノン国民を助けようとする勢力に対する反逆行為だと語った。
「レバノンは非常事態にあるため、必要な支援が得られなければ、この国はすぐに完全な暗闇へと陥り、世界から完全に孤立してしまうでしょう」と語った。
ナスララ師は8日に新政権発足には相当時間を要するだろうと示唆し、ベリ国会議長が、サアド・ハリーリ暫定首相と自由愛国運動のゲブラン・バジル党首の仲を取り持ち、新政権発足にこぎつけるとの期待に冷や水を浴びせた。
レバノンの前政権は、昨年8月4日にベイルート港で爆発が起き、ベイルート市内の大部分が破壊されたことに対する国民の怒りを受け、8月のうちに総辞職している。ミシェル・アウン大統領とハリーリ暫定首相が、キリスト教徒枠の大臣2人を誰が指名するかで意見が対立しているため、新政権の発足が宙に浮いた状態だ。アウン大統領は自分が大臣2人を指名すると主張するが、ハリーリ暫定首相はこれが憲法違反にあたるという。そうなるとアウン大統領は大臣数の3分の1以上を操れることとなり、3分の2以上の賛成が必要なあらゆる法案の阻止が可能となるからだという。
9日に、ハリーリ暫定首相が交渉を破棄するつもりとのうわさが流れ、闇市場のドル為替レートはさらに上昇し、1ドルが1万4500~1万4600レバノンポンドで取引されていた。怒ったレバノン国民が、経済危機と劣悪な生活状態に抗議するために再び抗議デモを実施した。