クリストファー・ハミル-スチュワート
ニューヨーク市:気候に関する国連の画期的な研究報告書は、行動を起こさなければ生じうる、差し迫った自然環境への不可逆的変化と、人類に対する壊滅的影響について厳しく警告した。
国連の「国連気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、月曜日に発表した報告書の中で、「気候変動は広範囲で急速に進んでおり、激化している。もはや不可逆的な傾向となっているものもある」と述べた。
生じつつある変化には、立証された大気の温暖化、海面の上昇、予測不能で激しい天候、陸海生物への壊滅的ダメージなどがある。
しかし、気候変動の影響として、おそらく同様に生じているがあまり知られていないのは、地下貯水による新鮮で飲用可能な水の供給が急速に減少していることだ。
「気候変動により、水の自然な生成、つまり水の循環が強まっている。そのため、多くの地域でより激しい降雨、それに伴う洪水、さらにはより厳しい干ばつが生じている」と国連の報告書は付け加えている。
中東、特にシリア、イラク、トルコ、イランで地下水の管理を誤ると、環境に壊滅的な影響を与え、政治的な連鎖反応が生じる可能性がある。
地下水とは、地下にある帯水層と呼ばれる巨大な貯水池のことで、何百万年もかけて自然に形成されたものだ。石油が採掘される油田と同様に有限であり、しかも急速に減少している。
国連の報告書は、「主に乾燥地帯での灌漑農業の拡大に伴う世界的な淡水の取水量の増加が、世界的な地下水の枯渇につながっている」とし、さらに、地下水の取水があまりに大量だったため、海面上昇の一因となり、それに伴う様々な問題を引き起こしたと述べている。
地下水の取水の影響は、世界的に見た場合よりも、地域的に見た場合の方が即座に現れている。
特に中東での水不足は今に始まったことではなく、サウジアラビアなどの国では、海水から塩分や有害物質を取り除き、最終的に安全な飲料水として、また農業や日常生活に利用できるようにするなど、真水の生産に向けた取り組みを強化してきた。
海水の淡水化にも特有の課題がないわけではないが、それによって地下水への依存が軽減され、経済成長や人間の需要が脆弱な地下水システムに与えるプレッシャーが緩和されている。
しかし、月曜日に発表された国連の報告書で参考にされた研究の上級執筆者の一人である、「水の安全のためのグローバル研究所」(the Global Institute for Water Security)のエグゼクティブディレクター、ジェイ・ファミリエッティ氏はアラブニュースに対し、イラン、イラク、シリア、トルコでは、このような先進的な水資源管理は、最も楽観的に見ても乏しく、最悪の場合、存在しないと述べた。
「世界人口の約3分の1が地下水を主な水源としている」と彼は説明し、地下水を利用するかどうかは「持っている資源による」と付け加えた。雨が少なく、川や湖などの地表水が少ない地域では、国々は地下の貯水池から水を汲み上げる傾向があり、その多くは雨水では補充できないほど深いところにある。
「地下水を利用できる地域では、彼らはそれを使う。地表水と地下水の使用量のバランスを取るべきなのに、実際には文字通り無料であるかのように地下水を汲み上げている。しかし、これが普通なのだ」とファミリエッティ氏は言う。
ファミリエッティ氏は、膨大な量の地下水が農業に使用されていることを指摘しつつ、これを非難すべきではないと言う。「食料は必要だからだ」。
食料や経済成長のために必要な、急速に減少している地下水資源を管理するという問題の解決には、国際的な協力が必要であると、同氏は付け加えた。
イラン、イラク、シリア、トルコでは、地表水が不足し、地下水に大きく依存しているため、この問題は極めて重要だ。
「枯渇しようとしている帯水層は非常に大きく、国の内外を問わず政治的な境界線をまたいでいる」とファミリエッティ氏は言い、この問題は政治的な課題であると同時に、進歩的な協力のチャンスでもあると付け加えた。
「レバノン、イスラエル、エジプト、シリアの人々の、協力し合うグループをまとめる様子を想像してみて欲しい。これは本当に、本当に困難だが、前へ進む唯一の道なのだ。これまで紛争の引き金になっていた水を、連携や協力を促進する手段に変えなければならない。月曜日の報告書はそのことを明確に示している」と彼は言う。
水資源管理の改革の失敗を招く政治的な落とし穴は、最近、イランで非常にはっきりと見られた。
イラン南西部のフーゼスタン州では最近、清潔な飲料水の不足のために数週間にわたる暴力的な抗議活動が行われた。人権団体が確認したところによると、デモの最中に少なくとも9人が治安部隊によって殺害された。
警察官1名も死亡し、当時のハッサン・ロウハニ大統領がめずらしく罪を認めた。
人々は当局の水資源管理の不手際に激怒した。天然資源について言えばイランで最も水が豊富だった同州は今や、「水に関して破産」した州と呼ばれる状態に追い込まれた。
フーゼスタン州の水不足から始まった抗議活動は、テヘランでの反政権スローガンへと変わり、水資源管理の不手際がもたらしかねない不安定さを明らかにした。
アメリカ外交政策評議会(American Foreign Policy Council)の上級副会長であるイラン・バーマン氏は、「特にイランでは、水資源危機は政治問題だ。危機は長年にわたる政権の怠慢と不手際に密接に結びついており、それによって悪化しているからだ。残念ながら、この状況は近い将来に変わりそうもない」と述べている。
バーマン氏によると、国連が気候の大変動について繰り返し警告し、7月にはイラン人によるデモもあったにもかかわらず、イラン政府は水資源管理の不手際がもたらす存亡の危機を受け止めていないようだという。
「実際、イブラヒム・ライシ新大統領を中心とした強硬派の聖職者による現状維持の動きが見られ、イランは逆の方向に向かっているようだ」。
「これらのことから、イランは国連の報告書が想定しているような地域協力に軸足を置くことも、サウジアラビアなどの他の地域国家が水資源の問題を解決するのに役立てた、海水淡水化のような技術に投資することもありそうにない」。