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腐敗に幻滅した有権者、イラク総選挙をボイコット

ムスタファ・アル・カディミ首相の政権は、前政権を倒した2019年10月のデモを受け、選挙を前倒しして実施した。(AFP)
ムスタファ・アル・カディミ首相の政権は、前政権を倒した2019年10月のデモを受け、選挙を前倒しして実施した。(AFP)
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11 Oct 2021 04:10:49 GMT9
11 Oct 2021 04:10:49 GMT9
  • イラク全土で投票が終了した。大規模なデモを受けて前倒しされた選挙だった
  • 今回の総選挙では合計3,449人の候補者が329議席を争っている

アラブニュース 

バグダッド/ジェッダ:日曜のイラク総選挙の投票率は記録的な低さに落ち込んだ。有権者は腐敗、機能不全の経済、破綻した公共サービスに幻滅し、ボイコットが広がっていた。

選挙管理委員会職員によると、正午時点で全国の有権者の投票率は19%だったと言う。なお、2018年に行われた前回の選挙では44.5%だった。

ムスタファ・アル・カディミ首相の政権は、前政権を倒した2019年10月のデモを受け、選挙を前倒しして施行した。

デモ参加者の要求には、多くのイラク人が腐敗と見なしているエリート支配層の排除が含まれていた。デモは暴力的に鎮圧され、約600人が死亡した。

当局は要求を受け入れて早期の選挙を決定したが、死亡者数、手荒な弾圧、さらに一連の暗殺計画により、デモ参加者の多くはその後、投票のボイコットを呼びかけるようになった。

イラクの選挙を監視している独立機関によると、今後48時間以内に結果が出る予定だと言う。政権を樹立するという任務のある首相選びの交渉は何ヶ月も続くものと思われる。

投票は日曜早朝に始まった。今回の選挙は2003年の米国主導のイラク侵攻により、サダム・フセイン氏が倒され、そこで行われていた宗派に基づいて権力を共有する政治システムが崩壊して以来、6回目の開催となる。

総選挙では合計3,449人の候補者が329議席を争っている。既存の政党や政治家の多くは強力な武装民兵の支援を受けており、無所属の候補者に勝ち目があるとは到底思えず、無気力感が広がっている。

全国で25万人以上の治安部隊員が投票を保護する任務を受けた。兵士、警官、対テロリズム部隊が投票所の外に展開・配備された。有刺鉄線で取り囲まれた投票所もあった。投票者は衣服の上から体を叩いて身体検査をされた。

イラクのバルハム・サーレハ大統領とムスタファ・アル・カディミ首相はイラク国民の多数が投票するよう呼びかけていた。

「外出し、投票しましょう。そしてあなたの現実を変えましょう。イラクと、あなたの未来のために」と、アル・カディミ氏は自身の票を投じた後に語り、「外出」というフレーズを3回繰り返した。アル・カディミ氏が投票を行ったのはバグダッドの堅固に要塞化されたグリーン・ゾーンの学校であり、外国の大使館や政府機関が集まる場所となっている。

2018年の選挙では投票を行ったのは有権者の44%に過ぎなかった。記録的な低さであり、結果に対する異議が広範囲で唱えられた。今回これと同様の、もしくはさらに低い投票率となるのではないかという懸念がある。


広がる悲観主義

イラク人の多くが変化を求めている。しかし実際に変化が起きると期待している人はほとんどいない。腐敗した政治家が失脚する様子を見たいという思いで投票した人もいる。

「このような同じ顔ぶれと同じ政党が戻ってきて欲しくはありません」バグダッドのカラダ地区で投票を行った後、カー・ディーラーのアミール・ファデル氏(22)はそう語った。

多くの人が日曜日の選挙をボイコットした。バグダッドのカラダ地区在住で学校教員をしているアブドゥル・アミール・ハッサン・アル・サーディ氏もその1人だ。「私は17歳の息子フセインを失いました。バグダッドのデモのとき警官が発射した催涙ガスの弾丸で殺されたのです」同氏はそう語った。

「私は殺人者や腐敗した政治家には投票しません。私や、息子を失った母親の内面の傷が、今も血を流しているからです」

南部の都市バスラで、モハメド・ハッサン氏は次のように語った。「なぜ私が投票しないかって? 私は人間を信用していないからです。我々が選出した人々が一体何をしたと思いますか? このガラクタや腐敗を見てください……前政権の計画はどこに行ってしまったのでしょう?」

カラダ地区の数少ない営業中の喫茶店。候補者のリーム・アブドゥルハディ氏はその1つに入り、投票したかどうかを人々に尋ねた。

「私は歌手のウンム・クルスーム氏に投票します。その価値があるのは彼女だけです」店主はそう返答した。ウンム・クルスーム氏というのはアラブ世界の多くの人に愛されたエジプトの歌手(故人)である。店主は選挙に関わるつもりはなく、政治的プロセスを信用していないと語った。

少し言葉を交わした後、アブドゥルハディ氏は店主が考えを変えることにした場合に備えて、匿名希望の店主にカードを渡した。そこにはアブドゥルハディ氏の名前と番号が書かれている。店主はそれをポケットに入れた。

「ありがとう。記念にとっておきますよ」店主はそう言った。


閑散とした街

正午になっても投票率は相対的に低く、街の大部分は閑散としていた。モスクの拡声器を使って国民に投票を呼びかけている地域もあった。候補者らは投票を促進するためにWhatsappのグループやTelegramのチャットルームでプッシュ通知や音声メッセージを送っていた。

その時、低空飛行する高速の軍事航空機が頭上を飛行し、大きな騒音を出した。「これを聴いてください。この音は恐怖です。これを聴くと選挙ではなく戦争を思い出します」氏はそう付け加えた。

シーア派の聖都ナジャフで、イラクで影響力を持つ聖職者モクタダ・アル・サドル師は現地のジャーナリストが群がる中で投票をした。その後、アル・サドル師はコメントをすることなく白のセダンで走り去った。アル・サドル師はイラクのシーア派の労働者階級の間に膨大な支持者がいる大衆主義者で、2018年の選挙でトップに躍り出て過半数の議席を獲得した。

選挙戦ではイラクで多数派のシーア派イスラム教徒のグループが優位に立っており、アル・サドル師のグループとファタハ同盟の接戦が予想されている。ファタハ同盟は準軍事組織の指導者ハディ・アル・アメリ氏が率いており、前回の選挙では2位だった。

ファタハ同盟は民衆動員部隊(PMF)と提携する政党で構成されている。民衆動員部隊(PMF)は大部分が親イランのシーア派民兵の傘下グループだ。スンニ派の過激主義組織ダーイシュに対する戦いで注目を浴びるようになった。アサイブ・アフル・ハック民兵組織などの最も強硬派の親イラン派も含まれている。黒いターバンを巻いた国家主義者の指導者であるアル・サドル師もイランに近しい立場であるが、公にはその政治的影響を否定している。

イラクの法律では、日曜の選挙の勝者がイラクの次期首相を選ぶことになっている。しかし出馬している連合のいずれも明確な過半数を確保できる可能性は低い。そのため、全体の意見が一致する首相を選び、新連立政権の合意を得るため、裏面交渉を伴う長期に渡るプロセスが必要となるだろう。2018年の選挙後には政権の樹立に至るまで8ヶ月に渡って政治論争が行われた。

今回の選挙は、サダム・フセイン政権の崩壊後、外出禁止令が施行されることなく行われた初めてのものとなった。これは2017年のISの敗北でイラクの治安状況が大幅に改善したことが反映されたものである。前回の選挙は、何十年もイラクを悩ませている戦闘や死者を伴う爆弾攻撃で台無しになった。

治安対策として、イラクは空域および地上の国境検問所を閉鎖し、土曜の夜から月曜早朝まで空軍にスクランブルをかけた。

もう1つ初めてのこととして、日曜の選挙は新選挙法の下で行われた。新選挙法ではイラクは小規模の選挙区に分けられる。これは2019年のデモに参加した活動家のもう1つの要求だった。それにより、より多くの無所属候補に道が開かれた。

今年初頭に採択された国連安全保障理事会の決議で、今回の選挙を監視するチームの拡大と認可が行われた。最大600人の国際監視員が配備され、そのうち150人は国連の人員である。イラクの推定人口3,800万人のうち、有権者は2,400万人以上である。

イラクはまた、投票者用の生体認証カードも初導入している。しかし、こうしたあらゆる対策にもかかわらず、票の買収、脅迫、改竄があったという主張が続いている。

AP

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