デイビッド・ロマーノ
アメリカ・ミズーリ州:シリア民主軍(SDF)の政治部門の責任者であるイルハム・アハメド氏は、長い間停滞している、国連の支援によるシリア和平プロセスにおけるクルド人自治権の確立をサポートするよう、モスクワとワシントンにロビー活動を行ってきた。
ここ数週間で両首都を訪問したアハメド氏はまた、シリア国民に対する戦争犯罪を理由にバッシャール・アサド大統領の政権を制裁した米国の法律である2019年の「シーザー・シリア市民保護法」に基づいて課せられている制裁から、同国のクルド人が統治する地域を免除することを望んでいる。
しかし、シリアのクルド人たちは、正確には何を望んでいるのだろうか?そして彼らの望みはどれほど実行可能なのだろうか。
ロシア軍のジェット機、イランの支援を受けた戦闘機、トルコの支援を受けた反乱軍、イスラム過激派、米軍、シリア政府軍、クルド人民防衛隊(YPG)が、シリア北部を構成するパッチワークのような領土でそれぞれの活動を行っている。
アメリカは、シリア北東部のダーイシュとの戦いにおいて、クルド人民防衛隊を重要な同盟組織とみなしており、ロシアはアサド大統領を支援するために同地域に軍を駐留させている。
一部のメディアは、アハメド氏がシリア民主評議会(SDC)の執行委員会の代表として、アメリカやロシアの支援を受けて分離国家をつくるようロビー活動をしていると報じたが、実際にはシリアのクルド人たちはそのような「最大級の目標」を推し進めているわけではない。
シリアのクルド人政党は、刑務所に収監されたクルド労働者党(PKK)の指導者アブドラ・オジャラン氏の思想に共感している。彼らは、2001年以降のオジャラン氏の著作に従い、ナショナリズム、分離独立、国家主義を全般的に否定すると言っている。
しかしその一方、シリアのクルド人組織は、自分たちが支配している地域を、独立した国家としての条件をすべて満たす形にしているようにも見える。
シリア民主軍、クルド人民防衛隊、同防衛隊の女性だけの民兵組織であるクルド女性防衛部隊(YPJ)などの軍組織は、北東部での武力行使の独占権を確立し、維持するために熱心に活動している。
彼らは、トルコ軍や地域のさまざまなイスラム過激派グループだけでなく、時にはクルド人武装グループ、アサド政権軍、自由シリア軍などとも衝突している。
シリア民主評議会とその盟友であるクルド民主統一党(PYD)は、すべての人を自分たちが創設し支配している制度や統治構造の下に置こうとしている。彼らの支配下にある地域の競合する政党は同様に圧力を受けたり、政党の存続自体を完全に禁止されたりしている。
シリア民主評議会とクルド民主統一党のクルド人は、ある意味では非常にリベラルであり、アラブ部族、キリスト教徒、エジディ教徒、アルメニア人、トルクメン人、その他のグループや民族を喜んで自分たちの仲間や統治構造に迎え入れている。
しかし、彼らが確立した「民主的自治」という政治的な傘の外で活動しようとする人々に対しては、あまり受け入れず、寛容ではないように見える。
独自の治安部隊、政治機関、学校、党が設立したさまざまな市民社会組織を持つシリアのクルド人は、時に独自の独立国家を作ろうとしているかのように見える。しかし、2011年にシリアで内戦が勃発した後、彼らにはどのような選択肢があったのだろうか。
アサド政権は戦争前の数十年間、クルド人を残酷に抑圧していた。アサド大統領が紛争の初期にシリア北東部から軍とシリア政府の人員の多くを撤退させ、反乱軍の脅威が最も大きいと思われる国の西部と南部に集中した後、結果として生じた空白を誰かが埋めなければならなかった。
クルド労働者党に所属するシリアのクルド人グループは、ダーイシュやその他の過激派グループが同地域を乗っ取ろうとするのを防ぐために動いた。彼らはイスラム過激派と激しく戦い、2014年にコバニでダーイッシュに最初の敗北をもたらした。
政権の鉄の支配から生まれて初めて解放されたクルド人は、クルド語やその他の少数民族の言語プログラム、文化センター、学校、施設を設立する機会を得た。
シリアのクルド人新当局は、近隣諸国の悪質な「分割統治」戦術を恐れ、他のクルド人政党、特にイラクのクルディスタン地域政府の影響下にある政党やアラブ系反政府組織が、苦労して獲得した領土に競合政党や民兵を設立しようとする試みに抵抗した。
一方、トルコの当局は、南の国境にクルド労働者党が支配する「原始国家」が出現していると見て懸念していた。そして過去5年間に3回の軍事侵攻を行い、何十万人ものクルド民族を撤退させたことで、アンカラは国境地帯の数百キロを掌握し、シリア北部に約30キロの国境線を押し込んだ。
2018年、モスクワは、当時シリア民主軍/クルド人民防衛隊/クルド民主統一党の支配下にあったアフリンへのトルコの侵攻を容認するかのように軍を撤退させ、トルコのジェット機が、以前はロシアが支配していた空域で活動することを黙認した。
その翌年には、ワシントンも同じように、トルコの侵攻の直前にトルコとの国境にあるテル・アビヤド地区から米軍を撤退させた。
こうした侵攻により、シリアのクルド人政権は深刻な状況に陥っている。アメリカの支援とアメリカのトリップワイヤーフォース(防衛の意思を示すために配備された小規模な軍隊)の存在がなければ、トルコはシリア北部の支配地域を拡大する可能性がある。
今週、トルコのエルドアン大統領は、トルコはシリア北部で発生した疑惑の脅威を排除する決意をしており、アザーズにおいてトルコの警察官2人が死亡したクルド人民防衛隊の攻撃は「我慢の限界(the final straw)」だと述べたばかりだ。
一方、アサド政権は、北東部の一部が名目上は国家の一部でありながら、実際にはシリアのクルド人の支配下に置かれるような「より分散されたシリア国家」の提案には関心を示していない。
このため、アハメド氏の最近の外交活動は、モスクワとワシントンに焦点を当てている。前者に対しては、ロシア人を説得してアサド政権をおだてて、シリアのクルド人が、シリア北東部の自治権をできるだけ守れるような妥協案を引き出したいと考えている。後者に対しては、アメリカが二度と自分たちを見捨てないという約束を取り付けようとしている。
アハメド氏は、9月29日にワシントンの研究所が主催した会議で、彼女の希望を説明した。
「シリア民主評議会は、紛争の永続的な政治的解決を目指し、内部対話を提唱し、最終的には国の多様性を尊重し、経済発展を促進する政治的・文化的な分権化を目指しています」と述べた。
「このミッションには、パートナーである米国からの継続的な支援が不可欠です。北部・東部のシリア自治区は、治安の悪さ、貧困、外国からの介入、テロなど、数多くの障害に直面しています」
「加えて、ジュネーブ和平プロセスや憲法制定プロセスも停滞しています。米国は、専制政治、代理戦争、テロのない安定したシリアを目指して、これらの問題を軽減することができるのです」
8月にアメリカがアフガニスタンから混乱して撤退したことで、シリアのクルド人はすでに自分たちの将来に不安を感じていたことは間違いない。アサド大統領、トルコ、ダーイッシュは、シリア北東部からのアメリカの同様の撤退を歓迎するだろう。
シリア民主評議会を統括する「北・東シリア自治局」が、こうした複合的な圧力に耐えられるとは思えない。
しかし、アメリカのアフガニスタンからの撤退の失敗は、シリアのクルド人にとって実際には有利に働くかもしれない。バイデン政権はおそらく、シリアですぐに似たような恥をかかないことを望んでいるはずだ。
先月、ワシントンでホワイトハウス、国務省、ペンタゴンの代表者と会談したアハメド氏は、心強い回答を得たようだ。
「彼ら(アメリカ人)は、『イスラム国(ダーイッシュ)』を壊滅させるために必要なことは何でも行い、シリア北東部のインフラ整備にも取り組むと約束してくれました」と彼女はロイター通信に語った。「彼らは、シリアに留まり、撤退せず、イスラム国と戦い続けると言いました」
彼女は「以前、トランプ政権の頃やアフガン撤退の際に不明瞭な部分もありましたが、今回彼らはすべてを明らかにしてくれました」と付け加えた。
ダマスカスでも、アンカラでも状況は変わらないため、シリアのクルド人はアメリカの存在、協力、支援に頼り続ける以外に選択肢がない。できることといえば現状を維持し、不安定な自治権を長持ちさせる程度となる。
もしワシントンとロシアを説得してイラクとの国境を再開し、アサド政権を対象とした制裁措置を免除できれば、政治的・経済的状況は改善されるだろう。その場合国際的な援助がダマスカスを経由して北東部にほとんど届かない現状が変わり、彼らの飛び地に直接届けられるようになることが理由だ。
より永続的な政治的解決策がない限り、現時点でこれが、シリアのクルド人が望む最善の方法であろう。
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*デイビッド・ロマーノ氏は、ミズーリ州立大学のトーマス・G・ストロング教授(中東政治)である。