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2022年の展望:湾岸地域を文化ルネッサンスが席巻する

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03 Jan 2022 12:01:39 GMT9
03 Jan 2022 12:01:39 GMT9
  • 何十年も文化的な鎖国状態にあったサウジアラビアだが、2021年には数多くのアート、スポーツ、エンターテイメントのイベントが開催された
  • 新型コロナウイルスの懸念にもかかわらず、サウジアラビアと湾岸地域では文化的な革命が起きている

レベッカ・アン・プロクター

ドバイ:100年前、人類が第一次世界大戦やスペイン風邪の窮地から抜け出したとき、創造的なエネルギーの波が突如として世界を席巻した。ロンドンからニューヨーク、シドニーから東京まで、『轟音の20年代』(Roaring Twenties)と呼ばれたこの10年間は、かつてないほどの文化的高揚と繁栄、そして産業発展の時代の到来を告げるものであった。

自動車や無線機器などの新技術が一般消費者に普及、また音楽や美術、インテリアなどの分野でも、戦前の殺伐とした保守的な雰囲気から一転、新たな生活への意欲が生まれた。

この現象は、失われた時間を取り戻そうとする欲求の反映であると考えられており、それはF.スコット・フィッツジェラルドが1922年に発表した小説『グレート・ギャツビー』(華麗なるギャツビー)にもよく表れている。

それから1世紀が経過し、世界が新型コロナウイルス感染症拡大の憂鬱と混乱から抜け出すための最初の一歩を踏み出した今、多くの人がすでに、文化、経済、技術が活発に動いたこのロマンティックな時代と、やや遅れてきた、「約束された2020年代」との類似点を指摘している。

「サウジ・ハウス」では、サウジアラビアの文化遺産をさまざまな人に紹介。(SPA)

2021年半ば、ワクチンの普及と感染率の低下により、各国政府は封鎖措置を緩和し、世界旅行が再開された。しかし、それは「オミクロン株」が出現するまでのことだった。

11月に感染力の高いこの変異株が出現したことで、パンデミックはまだ終わっていないことがわかった。

2022年に向けて飛躍するどころか、多くの国が博物館、美術館、レジャー施設、公演会場などに新たな制限、閉鎖、延期を課すことを選択した。

今回の規制の波が、湾岸諸国の野望にどのような影響を与えるかはまだわかっていない。

サウジアラビアを例にあげよう。サウジアラビアでは、まさに文化革命が起こっている。何十年にもわたって鎖国状態を続けてきたサウジアラビアは、2021年に芸術、文化、スポーツ、エンターテインメントの各分野で数多くの「初めて」のイベントを開催した。

12月には、第1回ディルイーヤ国際アートビエンナーレ、第1回哲学会議、紅海国際映画祭、初のF1サウジアラビアGPなどが開催され、「ゲームチェンジャー」や「歴史的」という言葉が多くの人の口から聞かれた。

また、F1が先月サウジアラビアにおいて初開催されるなど、この地域は世界で人気のあるスポーツを迎え入れている。(AFP)

「変化はあっという間でした。私たちは疲れてもいますが、とても興奮していますし、刺激を受けています」と、ミスク・アート・インスティテュートが支援するマサハ・レジデンシイに参加しているサウジアラビア人アーティストがアラブニュースに語っている。

この文化的爆発は、サウジアラビアが『ビジョン2030』の改革アジェンダのもと、経済の新しいエキサイティングな側面を拡大しようとしていることと大いに関係している。

サウジ文化省が設立されたのはわずか3年前だ。それ以来、国家文化戦略と11の部門別委員会を立ち上げ、王国は活気ある文化のエコシステムを構築してきた。

同省によると、12月初旬以降、王国は「100以上のイベント、イニシアチブ、取り組みからなる真の文化的スペクタクル」を披露した。

このスペクタクルのなかには、アル・ウラーの古代遺跡と砂漠の風景の中に展示された記念碑的な作品の展覧会『Desert X』の復活も含まれている。

さらに最近では、サウジアラビア政府が200億ドルを投じて、歴史的な紅海の港町の中心部に『ニュー・ジェッダ・ダウンタウン』と名付けられた、美術館やオペラハウスを含む「世界的な観光地」を作るという新たなマスタープランを発表した。

2017年にダーランにオープンしたキング・アブドゥルアズィーズ世界文化センター(Ithra)のプログラム責任者であるアシュラフ・ファギ氏は、「社会の発展には常に変化がつきものです」とアラブニュースに語っている。

ダーランにあるキング・アブドゥルアズィーズ世界文化センター(Ithra)。(提供)

「『ビジョン2030』は私たちを前進させ、王国の文化的ルネッサンスへの扉を開いてくれました。そしてパンデミックは、私たちがこの変化を乗り越えるだけのダイナミックさ、機知、創造性を持ち、繁栄する社会のなか、共に歩んでいくことができるということを示したのです」

「Ithraはパンデミック以前から、経済的な支援者、文化的な触媒、そしてグローバルなゲートウェイとしてサウジアラビアの文化シーンを世界に向けて発信する重要な役割を担っていましたが、その背景には、サウジアラビアの文化に命を吹き込んだクリエイターたちの揺るぎない努力と無限の才能が大前提としてありました」

「勢いを失わないために、このリモートの時代に私たちは創造性を発揮して、ミッションを安全に遂行するために一丸となって取り組みました」

実際、パンデミックの暗闇の中でクリエイティブ産業が生き残るためには、団結力が不可欠である。展示やパフォーマンスの禁止により、アーティストやパフォーマーが活動し、成長する機会は非常に限られているからだ。

「新型コロナウイルスの脅威が、文化的コミュニティを団結させたのです」と、サウジアラビアの文化団体と密接に協力してきた著名なアートパトロン、コンサルタント、学者であるアリア・アル・セヌシ氏はアラブニュースに語っている。

サウジアラビアのディルイーヤは、『2030年のアラブ文化の首都』に選ばれた。(@MOCSaudi)

「ヨーロッパでの素晴らしい展示会やアートバーゼルなどのアートフェア、最近のディルイーヤ・ビエンナーレなどを通じて、この暗黒時代を乗り越えようという希望がありました。しかし私たちは、いまだに起こっているすべての苦しみを忘れることはできません。2022年には、文化事業を通じて、そのような共同体意識を抱くことができるという希望があります」

UAEでも同じように文化的な活力が発揮されている。ドバイでは、開かれた国境、高いワクチン接種率、広く利用可能な検査、海外からの起業家を奨励するために設けられた新しいビザ制度により、何千人もの優秀な人材や投資家が集まっている。

2021年春には、閉鎖規制が緩和されて以来世界で初めての、リモートではない大規模な参加型フェア『アート・ドバイ』が開催された。オミクロン株が定着しても、同都市のカレンダーに予定されている文化的なイベントを中止する予定はない。

昨年6月にドバイで開催された『インフィニティ・デ・リュミエール』」展のように、この地域で芸術イベントが爆発的に増えたのは湾岸諸国の改革の影響だと言われている。(AFP)

『アート・ドバイ』のCEOであるベン・フロイド氏はアラブニュースに対し、「COVID-19は、他の国と同様ドバイにも大きな打撃を与えましたが、予防接種で世界をリードするなど、政府の対応のおかげでこの都市はすぐに適応し、立ち直ることができました」と語っている。

そして昨年『アート・ドバイ』が開催できたのは「ドバイが世界中の富裕層や企業を惹きつけていることがわかり、イベントを成功させられる自信があったからです」と語っている。

2022年も同じことが言えるだろうか。フロイド氏はこのように語る。「これまで以上に多くのギャラリーからの申し込みがあります。プログラムを通じてこの分野をリードし続けながら、さらに革新的なサービスを提供する予定です」

「ドバイのハイテクコミュニティの成長と、デジタルアートやNFTアートの制作・収集への関心の高まりを受け、新たにデジタル部門を立ち上げる予定です」

11月に開催された、ドバイ文化芸術庁主催の『ドバイ・フェスティバル・フォー・ユース・シアター』には全国から14の劇団が参加し、ショーはかつてない盛り上がりを見せた。

また、12月初旬には、同庁と経済観光局が、クリエイティブ業界で起業を目指す人々を対象とした新しい取り組み『クリエイティブズ・ジャーニー』を開始した。

ドバイ・モールでは、買い物客や美術愛好家が、壁や床に投影された名画を臨場感たっぷりに鑑賞できるようになった。(AFP/ファイル・写真)

一方、アブダビ首長国は6月、パンデミック後の景気刺激策の一環として、すでに約束した23億ドルに加え、60億ドルを文化・クリエイティブ産業に投資すると発表した。

12月29日、ドバイ文化芸術庁は、初のレポート『クリエイティブ・ドバイ:成長するドバイの文化産業』発表し、同首長国の文化セクターの包括的な概要と、その成長のためのロードマップを示した。

レポートによると、ドバイの文化・クリエイティブセクターは、2019年の総経済生産に約4%貢献した。同セクターは同年、370億AED(約85億ドル)以上の収益を上げ、108,000人以上を雇用した。

実際、MENA地域のどの都市よりも多くのギャラリーがあり、文化活動への支出が最も急速に増加しているドバイは、米ブランド・コンサルティング会社Future Brand社による国家ブランド指標『FutureBrand Country Index 2020』において、世界で最も影響力のある10の都市にランクインした。

しかし、湾岸地域における文化的ルネッサンスは、他の地域ではあまり顕著ではない。同地域では、パンデミックとそれに伴う経済的困難により、クリエイティブな活動の優先順位が低くなっている。

レバノンは、かつてこの地域の芸術文化の中心地であった。しかし、2019年の金融危機の勃発、パンデミック、政治的麻痺、エネルギー不足、未だ続くベイルート港爆発事故の影響などにより、日々を生き抜くことが優先されるようになった。

レバノンの彫刻家ナイラ・ロマノス・イリヤ氏の作品『On the Other Side of Time』は、レバノンのベイルートにある聖エリアス教会の前に常設展示されている。(AFP/ファイル)

「ベイルートの爆発はCOVID-19よりも強力で、この国はあらゆるレベルで信じられないスピードで崩壊しています」とレバノンのギャラリストであるサレー・バラカト氏はアラブニュースに対し語った。「ここでは燃料も電気もなく、水さえも汲み上げることができません。私たちができることは、ただひたすら生き抜くことだけです」

それでも、この絶望的な状況の中で、文化活動の芽が生えつつある。

「ベイルートに来れば、展示会の数の多さに驚くでしょう」とバラカト氏は語る。「それは経済活動ではありません。それは、私たちが人生を続けたいと願った結果です。これが、私たちの戦い方です」

この10年間は、想像されていたような、あるいは期待されていたような今世紀の『轟音の20年代』ではないかもしれない。しかし、過去の激動から前進し、新しい美学を受け入れ、失われた時間を取り戻そうとする同じ渇望は、そこに鮮明に存在している。

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・ツイッター: @rebeccaaproctor

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