
ナジャ・フーサリ
ベイルート:レバノンのイスラム教スンニ派最高権威「大ムフティー」シェイク・アブデル・ラティフ・デリアン師は13日、レバノンが再び「崩壊の危機にある。権力者たちは国民の命と暮らしを犠牲にした過去の経験から学んでいないようだ」と警告した。
デリアン師が警告を発したのは13日、レバノンでラフィーク・ハリーリ元首相の暗殺17周年を記念する式典の準備が進む最中のことだった。レバノンでは内閣の2022年予算案の承認手続きを巡り、ヒズボラが反発し政治闘争が起きている。
追悼式典はベイルートで2月14日、先が見通せない状態で開かれる。スンニ派政党「未来運動」の党首で元首相のサアド・ハリーリ氏が政界引退を発表し、同党所属議員に対し次期総選挙では党の名前を使って立候補しないよう求めたからだ。
したがって、ハリーリ元首相は暗殺された父親の追悼式典に出席はするが、例年と異なり演説しないとみられる。
一方で13日には、ベイルート中心部にあるラフィーク・ハリーリ元首相の墓を、複数の宗教指導者や有力政治家が訪れた。
「殉教者は今後どれだけ増えるのでしょうか?レバノンという国そのものが、ほぼ殉教者と化してしまいました」と、デリアン師が墓の前でコメントした。
デリアン師はこう付け加えた。「今日のレバノンは道徳的腐敗、政治膠着、財政・経済の崩壊に直面しています。
「殉教者ハリーリ氏を讃えるというのは、本人の道徳的・国家的遺産を受け継ぎ、ハリーリ氏が最後まで固持した建設的な姿勢にならって公の職務を果たし続けることです」
さらに、フアード・シニオラ元首相が墓前でこう述べた。「2005年2月14日にハリーリ元首相が暗殺されたのと同時に、国家破壊の企てが開始しました。権力の分散と国家の支柱の破壊を狙っています。
「レバノンの議会制民主政治を破壊する企てが進行しています。レバノンのアイデンティティーを変更し、それを有名な地域別のプロジェクトに追加するのが狙いです」
シニオラ元首相は、ラフィーク・ハリーリ元首相の国家プロジェクトの原則を復活させることで、国家としてのレバノンを取り戻す必要があると強く訴えた。
「ハリーリ元首相の国家プロジェクトの原則とは、国家の役割を回復し、全領土と機関に全面的な権限を及ぼすことです」とシニオラ元首相は述べ、改革を実行してイスラム教・キリスト教の共存共栄関係を重視する必要があると付け加えた。
シニオラ前首相は、レバノン人の幸福とレバノンの国家・経済・社会的機能を回復するため、憲法を尊重し、ターイフ合意を実行することが重要だと強調した。
一方でヒズボラとアマル運動は、ミシェル・アウン大統領とナジーブ・ミカティ首相を非難し「前回の閣議で、採決なしに予算案を通過させ、合意を得ずに今後の日程を決めた」と述べた。
モハメッド・ウィッサム・アル・ムルタダ文化相は、こう述べた。「予算案がまだ審議中だったにも関わらず、修正や金額の変更が大臣に任されることはなかった。我々の度重なる要求は無視された」
「要するに、内閣は予算案の審議を終えておらず、採決しておらず、承認も否決もしていないということだ」
アル・ムルタダ文化相は、閣議の議題になかった日程が決定されたと主張した。
「我々は反対したが、突然、採決もなく、閣議が中断された後になって、内閣が今後の日程を決定したと知らされた」
ナビー・ベリ議長が党首を務める政党「開発解放ブロック」のアリ・クライス議員は、閣議決定が「基本的な問題に対する責任の所在を反映したものでなく、弱肉強食と混乱が支配する現実を反映しているだけだ」と述べた。
政府が取り組む復興計画と内閣が承認した予算案に対しては、主にヒズボラやアマル運動に所属する政治家や国民から反対の声が上がっている。
活動家たちは12日夜、ミカティ首相の住居近くで座り込みを実施し、国民に負担を強いることへの怒りを表明した。
「国家救済戦線」はこう述べた。「政府上層部は経済・金融危機による損失を国民に押し付け、自分たちが所属するマフィア・武装組織連合の利益を守ろうとしている。レバノンが危機を克服するために必要な改革措置は一切実行していない」
ミカティ首相は予算案の承認後、レバノン国民に向けて「為替相場で発生中のインフレに合わせて、税と公共料金を修正した」と述べた。要するに新年度予算では、闇市場と同等のドル為替相場を採用するということになる。
ミカティ首相は、政府が策定中の経済再生計画は「国際通貨基金(IMF)と交渉する上でのたたき台となる」と述べた。「政府は優先順位を設定し、必要な改革を実施しなければなりません。
「政府は14を超える改革政令を出さねばならず、議会は30を超える改革法を成立させなければなりません」
ミカティ首相は「電気・通信・水道サービスの無償提供はもはや不可能です。国民の皆様に一層のご理解を求めます」と付け加えた。
首相はこう警告した。「改革を加速しなければ、小麦すら輸入できなくなる可能性があります。この問題が1年前に解決されていたら、財政赤字は約400億ドルだったはずです。しかし現在の財政赤字額は約700億ドルです」
ギリシャ正教首都ベイルート管区のエリアス・アウディ司教は、日曜日の説教で経済危機に言及した。
司教はこう述べた。「子供を養うのもままならない状況で、国民は負担増にどう対応するのでしょう?
「国民には、国家の崩壊・財政破産・レバノンポンド暴落に対する責任があるのでしょうか?
「政府機関の腐敗を根絶し、国境を管理し、浪費と密輸を止め、脱税と関税逃れを抑制し、無駄な資金と非生産的な評議会を閉鎖し、税を徴収するのは、国家の義務ではないのでしょうか?」