
ダマスカス:夜明け前の食事のために信者を眠りから覚ますラマダンの太鼓叩きの姿は、イスラム世界から消えつつある。しかし、シリアの首都では、スマートフォンへの依存が高まる現在もこの伝統が息づいている。
祈りの合図が鳴り響く夜明けの約1時間前、ムサハラティと呼ばれるラマダンの太鼓叩きたちが狭い通りを練り歩き、信者たちを起こす。
その中には、ダマスカスに残る30人のムサハラティの1人、ハサン・アルラシさん(60)の姿もあった。
彼の歌声と太鼓を叩く音が、ダマスカス旧市街の夜の静寂を破る。
「スマートフォンなどの技術が発達しても、人々はやはりムサハラティの声で目を覚ますのが好きなのです」とラシさんはAFPに語った。
「ムサハラティは、ラマダン月のダマスカスの人々の習慣や伝統の一部です」と彼は付け加えた。
「これは、私たちが後世に残すことがない遺産です」
ムサハラティとしての仕事をする際、ラシさんは片手に竹の杖を、もう片方の手に山羊の皮でできた太鼓を持つ。
依頼を受けた家庭のドアを杖で叩き、家々を早足で回る。
ラシさんは「スフール(夜明け前の食事)のために起きなさい、ラマダンがやってきた」と歌う。
ムサハラティは贈り物は受け取るが、通常、金銭的な報酬は求めない。
受け取った食べものなどの贈り物を入れるために、袋や藁でできたバスケットを持ち歩くこともある。
しかし、ラシさんの目当ては贈り物ではない。
「私たちは、毎日出かける時に喜びを感じます」と彼は言った。
「時々、子供たちが私たちの後をついてきて、太鼓を叩いてくれとせがみます」とラシさんは続けた。
祈りの合図に先立ち、シャリフ・レショさんは断食を始める前に近所の人に一杯の水を頼む。
51歳のレショさんもムサハラティとして毎晩ラシさんに同行し、同じく太鼓を叩きながら歌うのが常だ。
「私の道具はシンプルで、声と太鼓と棒だけです」と彼は言った。
父親もラマダンの太鼓叩きだったというレショさんは、ほぼ四半世紀にわたってムサハラティの務めを果たしてきた。
10年以上にわたるシリアの戦争と新型コロナウイルスの大流行に遭っても、この活動を止めることはなかったという。
「私は喉から声が出る限り、これからもずっとスフールのために人々を起こします」と、レショさんはAFPに語った。
「父から受け継いだこの務めを、やがて息子に受け継がせるつもりです」