
パレスチナ自治区アバサン:イスタブラク・バラカさん(17)はガザ地区で結婚した後、すぐに妊娠した。3カ月後、彼女は夫に殺された。
「激しく殴られ、脳と肺から出血し、肋骨が折れて死にました」と母親のナズミヤさんは話した。
ガザ地区南部ハンユニス近郊のアバサンにある庭で、夫のスレイマンさんと一緒に座っていたナズミヤさん(53)は、昨年2人の娘のうち1人が殺され、彼女のお腹の中にいた孫を失ったことを口早に話した。
スレイマンさんは、頭に巻いた紅白のカフィエの角で涙を拭った。
娘の夫が殺害の直後に自首してから、法的手続きが遅々として進まないことに彼は失望している。
「犯人が罪を認めて、1年1カ月経っても何も起こりませんでした」とスレイマンさん(70)は話した。
パレスチナの市民社会団体「女性のための法律相談センター」のデータによると、ガザでは女性が殺害される事件が増えている。
同団体は2019年に、家庭内暴力に関連する殺人事件と不審死を6件登録したが、翌年には19件に増えた。
国連女性機関によると、2020年に新型コロナウイルスの世界的流行が始まったときに状況が悪化し、「暴力を逃れた人が虐待者と一緒に封鎖される」ことになったという。
「パレスチナ人権センター」のアジャ・アルワキル弁護士は、2007年からイスラム組織ハマスに支配されているガザは家父長制社会なので、女性の中には夫からの暴力を普通の行動とみなす人もいると述べた。
「自分の権利を知らない女性もいれば、家族の支援がなく、裁判を起こすことを恐れている女性もいます」と彼女は付け加えた。
パレスチナ中央統計局は、2019年にガザに住む女性の38%が夫から身体的・精神的暴力を受けたと発表したが、アルワキル氏は実際の数値はそれよりはるかに高いと見積もっている。
妻を殺害した罪で有罪判決を受けた男性は、禁固刑や死刑になる可能性がある。しかし、一家の面汚しとみなされて親族が殺害される、いわゆる「名誉殺人」を犯した場合は減刑される。
国連女性機関は、こうした「時代遅れで差別的な法律」が公正を阻害していると主張している。
それに加えて、家庭内暴力から逃れようとする人には、子供を失ってしまう危険性がある。
妻の方から離婚した場合、娘が11歳、息子が9歳になると、親権が元夫に移る。
ノハ・ハジクさん(31)が虐待する夫と一緒に暮らしていたのは、子供が4人いたからだ。
2月にハジクさんは夫に殺された。
「彼女の夫が彼女を縛り上げ、家に放置したので、彼女は逃げられませんでした。彼が帰ると、彼女は死んでました」と、彼女の兄であるアブデラジズさんは話した。彼は妹と同じ緑色の目をしていた。
「この凶悪犯罪の5カ月後、夫に死刑判決が下されたことに私たちは満足していますが、死刑が迅速に執行されることを求めています」とアブデラジズさん(28)は話した。
ノハさんが殺されてから、ハジクさん一家はノハさんの子供に会っていない。子供たちの父親の親戚に親権が与えられたからだ。
イスラエルが主導したガザの封鎖が始まってから15年が経ち、暴力から逃れた女性たちがガザを離れるのは不可能に近い。
230万人が住むガザで、約40人の女性が2つしかない専門避難所に滞在している。
AFP通信がその一つを訪ねると、顔の片側があざだらけの女性が隅に座っていた。彼女は、子供に会えなくなる危険を冒さず、夫と復縁しようとしていた。
「ガザ地区では、法律は常に女性の味方というわけではありません」とアジザ・エルカールアウトさんは話した。彼女は、専門避難所の一つを運営する社会開発省の報道官だ。
「女性が不当に扱われているため、私たちは避難所の開設を検討しました」と彼女は付け加えた。彼女は、ガザの生活状況が悲惨なのはイスラエルの封鎖のせいだと述べた。
しかし、スレイマン・バラカさんは、そうした推論は不適当だと考えている。彼は、娘の殺害の責任の一端は当局にあると言っている。
「政府は犯罪を助長しています。まったく即断しないからです」と彼は述べた。
彼は携帯電話に手を伸ばすたびに娘のことを思い出している。その画面が映すのは、彼と2人の娘が一緒に写った写真だ。
イスタブラクさんが殺されてから1年以上が経過し、彼は、司法判断の遅れは「犯罪を助長する」だけだと警告した。
AFP