
ハゼム・バロウシャ
ガザ市:パレスチナ人らはアル・バハール養殖場の水槽のそばに立ち、家に持ち帰って調理したり、隣接するレストランで内臓を取って焼いてもらったりするための鯛を手に入れようと待っている。
アル・バハールは、パレスチナ人投資家が地元市場のニーズに応えようと始めた、地中海に面するガザ地区の3つの養魚場の1つだ。
魚は、酸素ポンプと浄水装置をそなえ、海水や淡水が入った特別な水槽で養殖される。
アル・バハール養殖場のオーナーであるヤーセル・アル・ハッジ氏は、地元市場のニーズと漁業に「課された規制」が理由で、約6年前にこの事業を開始したという。
鯛を選んだのは、他の種に比べて簡単かつ安価に育てることができるからだと同氏は語る。しかし、この魚を水槽で育てるための知識の蓄積はあまりない。
パレスチナの人々がこういった事業を始めたのは、イスラエルによる数年にわたる規制があるからだ。イスラエルが監視する立入禁止区域によって、漁業を行う範囲はガザ沖10~20キロまでに制限されている。
漁師らは撃たれたり、逮捕されたり、漁獲物を押収されたりするリスクを負っている。
「ここ数年、週に1、2回のペースで定期的にここの養殖場から魚を買っていて、家で調理することもあれば、レストランに調理をお願いしてから家に持ち帰ることもある」とアル・バハール養殖場の客、マフムード・ガリーさん(52)は語った。
「目の前で捕る様子が見られるから、捕れたてかどうか分からない市場のものでなく、新鮮で味もいい。それに、家族は鯛が大好きなんだ」とガリーさんは述べた。
パレスチナ農業省によると1年間のパレスチナの漁師の漁獲量は約4,500トン、地元養殖場の生産量は約620トン、エジプトからの輸入量は1,500トンであり、その他に数千トンの冷凍魚が世界から輸入されている。
ガザ地区には、1人当たり13キログラムとして、年間約26,000トンの魚が必要だが、漁、養殖、輸入でまかなえない12,000トンが不足している。
ガザ地区の農業省の漁業総責任者ワリド・ターベット氏は次のように述べた。「ガザ地区において漁業が許可されたエリアは限られており、漁師の数も少なく、その上、地中海は最も漁業に適さない海のひとつなのです」
また、「もし封鎖が解除され、漁師がより広範囲で漁ができて、機材を自由に持ち込めるようになれば、漁獲量は一気に2倍まで増えるでしょう」ともターベット氏は述べている。
さらに、年間800トンのガザで捕られた魚や養殖場で生産された魚が、ヨルダン川西岸地区の市場で売られている。
ターベット氏によると、農業省はエジプトから地元市場への適正価格での魚の輸入を認め、その代わりに一部の魚をヨルダン川西岸地区で売ることを許可している。それによって、地元漁師が支援され、彼らの漁獲物がより高値で買い取られる状況が生まれている。
ガザ地区では、約4,000人のパレスチナ人とその家族が漁業を収入源としている。
国連食糧農業機関は、ガザの漁業コミュニティの回復力を強化する取り組みの一環として、2020年にガザの海の沖合海洋ケージのために資金を提供した。
この海洋ケージの養殖場では年間120~150トンの鯛が生産され、地元の魚市場の約5%を支えている。
食糧農業機関のヨルダン川西岸地区およびガザ地区事務所長Ciro Fiorillo氏は、こういったプロジェクトによって産業へ再投資できる利益が増えると述べた。