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イラクの主要ガス田が攻撃を受け、米国の請負業者が撤退

エルビル旧市街の概観。2018年、イラク。(ロイター)
エルビル旧市街の概観。2018年、イラク。(ロイター)
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31 Aug 2022 04:08:53 GMT9
31 Aug 2022 04:08:53 GMT9
  • 停電を解消するための発電により多くのガスを切実に必要としている地域において、生産量の倍増を目指したホール・モル・ガス田の拡張が計画されている

エルビル:イラク北部のガス田が一連のロケット弾攻撃を受けたことで、このガス田の拡張作業を行っていた米国の請負業者が撤退を余儀なくされた。このクルド人地域が収益を高め、ロシア産ガスの一部を代替するという希望にとって打撃となった。

アブダビのダナ・ガスとその関連会社クレセント石油が株式の過半数を所有するパール・コンソーシアムが進めているホール・モル・ガス田の拡張プロジェクトは、3度のロケット弾攻撃を受け、6月末に中断された。

業界関係者やクルディスタン政府関係者によると、先月に米テキサス州の企業エクステラン・コーポレーションの従業員が作業再開のために戻ったが、7月25日にさらに2発のロケット弾が現場に着弾したため、同社は再び撤退を余儀なくされ、復帰の日程も決まっていない。

ホール・モル・ガス田はイラク最大のガス田の一つだ。ほぼ毎日発生している停電を解消するための発電により多くのガスを切実に必要としている地域において、生産量の倍増を目指した同ガス田の拡張が計画されている。

前出の関係者らによると、攻撃による深刻な被害は出ておらず、既存の作業は中断していないが、地域の安全が確保されるまで拡張作業は中断されている。

この拡張プロジェクトは、米国国際開発金融公社との2億5000万ドルの融資契約を通して一部資金を調達している。

6月21日にこのガス田を標的とした攻撃が開始されて以来、トルコの下請業者のハヴァテクとビルテクが既に作業を停止しており、撤退する請負会社はエクステランが3社目となる。

ダナ・ガスはコメントを拒否した。エクステラン、ハヴァテク、ビルテクはコメントの求めに返答しなかった。

先行き不透明

昨年、クルディスタン政府は国内エネルギー企業のKARグループと、ホール・モル・ガス田から地域の首都エルビルを経由してトルコとの国境近くの都市ダフークに至るパイプラインを建設する契約を結んだ。

遅延が発生すると、債務を抱えたクルディスタン地域政府(KRG)に相当な罰金が科せられる可能性があり、この地域のガス輸出計画は保留になってしまうだろう。

政府関係者によると、2023年5月のテイク・オア・ペイ期限までにパイプラインが完成しない場合、それ以降は完成までKRGはダナ・ガスに毎月4000万ドルを支払わなければならない。

国際エネルギー機関の中東・北アフリカ担当プログラムマネージャーのアリ・アル・サファル氏は、「評判が悪化するだけではない。安全上の脅威が増せば、資本や保険の費用に影響しかねない新たなリスクが加わるからだ」と語る。

KRGはコメントの求めに返答しなかった。

ダナ・ガスは、イラク最大級のガス田のうちの二つ、ホール・モル・ガス田とチェムチェマル・ガス田の採掘権を持つ。これらのガス田は日量約4億5000万立方フィートの天然ガスを産出する。同社は今後数年間で生産量を2倍以上に増やして最大で日量10億立方フィートにすることを計画している。これは国内需要を満たすのに十分な量だ。

政府関係者や業界関係者によると、確認埋蔵量が16兆立方フィートあるため、生産量は最大で日量15億立方フィートまで増やせる可能性があり、そうなればトルコや欧州への輸出に相当量を回せることになる。

業界関係者によると、ダナ・ガスはこの地域のガス原料の約80%を供給している。

しかし、この地域のガス輸出計画は、イラン経済が依然として国際制裁によって揺らいでいる中、イラクやトルコに対する天然ガスの主要な供給国としての同国の地位を脅かす可能性がある。

3月には、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が12発の弾道ミサイルをエルビルに発射した。この地域のトルコや欧州へのガス供給計画を標的にした攻撃だと思われると当局者は述べている。

6月以降のホール・モル・ガス田に対する5度の攻撃についてはどの組織も犯行声明を出していないが、KRG関係者、外交官、業界関係者はイランが支援する民兵組織による犯行との見方を示している。

イラン外務省はコメントの求めに返答しなかった。

しかし、イラクに駐在する二人の外交官は、このガス田がある土地を支配している政党であるクルディスタン愛国同盟(PUK)内部で対立が生じ、一方が拡張プロジェクトから排除されたことに対する報復を行なったとの見方を示している。

匿名を条件に取材に応じたPUK関係者はこの説を否定した。

中間地帯

ホール・モル・ガス田は、イラク軍、クルド人武装勢力、シーア派民兵組織の各支配地域の間にある、誰の支配下にもない中間地帯の近くに位置している。最初の3発のロケット弾はこの中間地帯から発射された。

領有権に関する合意が存在しないため、イラク軍もクルド人武装勢力も立ち入ることができない地域があり、民兵組織が活動できる安全保障上の真空地帯となっている。

しかし、より大型のロケット弾による直近の2発の攻撃は、イラク連邦政府の支配下にある都市キルクークにより近い地域から行われた。

KRG関係者は、「ホール・モル・ガス田は大きな可能性を秘めており、クルド人を救うことができる」と述べた。「あらゆる方面から攻撃を受けている。先行きはかなり不透明だ」

ガス計画が頓挫する中、この地域の財政的な生命線である石油部門もトラブルに見舞われている。

石油埋蔵量が世界平均の2倍以上の速さで枯渇しつつあるのだ。また、2月に連邦最高裁判所がクルディスタン地域の石油・ガス部門の法的根拠を違憲とする判決を下したことで、一部の外国石油企業が撤退を余儀なくされた。

業界関係者や政府関係者によると、エクステランはこの判決のためではなく安全上の理由で作業を停止した。

石油部門への投資のさらなる遅れは、不安定なイラクの中でただでさえ苦境にある地域において経済危機に直面するKRGに重くのしかかるだろう。

政府関係者によると、現時点でのKRGの負債は約380億ドルだ。この地域の石油・ガス委員会のメンバーであるカルワン・ガズナイ議員によると、石油輸出はイラク領クルディスタンの予算の85%を占める。

過去2年間、公共部門の給与支払いの遅れ、公共サービスの貧弱さ、汚職などがきっかけとなって、地域を統治する政党に対する暴力的な抗議行動が頻繁に発生している。

また、クルド人の若者の間に広がる経済的困難は、2021年から始まったベラルーシとEUの国境上での移民の危機の背景にある主要な要因の一つでもある。

ロイター

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