ナディア・アル・ファウル
ドバイ:イランの反政府デモが3週目に入る中、死者が増え続けている。マフサ・アミニさんの死に端を発したデモの波の中で90人以上の命が失われたと伝えられている。
22歳だったこの女性がイランの道徳警察「ガシュテ・エルシャド」に拘束され死亡した事件をきっかけに、個人の自由に対する厳しい取り締まりや生活水準の悪化をめぐる怒りのデモががほぼ全州で勃発した。
欧州と北米に多く散らばるイランからのディアスポラも連帯してデモに参加している。欧米諸国の首都にあるイラン大使館の外では大規模なデモが行われた。
体制当局はデモ勃発以降41人が死亡したことを認めているが、女性に課されたヒジャブ着用義務などの厳格な服装規定を緩和せよとの要求に屈することを依然として拒否している。
超保守的なイランのイブラヒム・ライシ大統領は、反体制デモを国外の敵が仕組んだ「陰謀」と断じており、「国の安全と平穏に背く者たちには断固対処する」と宣言している。
同大統領は日曜日に出した声明の中で次のように述べている。「イスラム共和国が経済的問題を克服して地域や世界において活躍しようとしていた時に、この国を孤立させる意図を持って敵が動き出した。しかしその陰謀は失敗した」
それとは違う現実を、イランからソーシャルメディアに投稿された動画や写真は伝えている。抗議するイランの若者たちを警察が暴力的に弾圧するショッキングな映像がソーシャルメディアで拡散し、国際的な非難が巻き起こっている。
情報の拡散を抑えるため、体制は「国家安全」という利益のために必要な措置だとして、インターネットアクセスを制限し、ワッツアップ、ツイッター、インスタグラムなどのアプリケーションを取り締まった。
イラン当局がこの種の情報戦に出たのはこれが初めてではない。スマートフォンとソーシャルメディアの普及以来、体制はネット上の情報をコントロールするためにこのような戦略を何度も実行した。
監視会社「ケンティック」のインターネット分析担当ディレクターを務めるダグ・マドリー氏は、「モバイルインターネットサービスの遮断は、イラン政府が市民によるデモに対処するための常套手段になっている」と指摘する。
デモ参加者たちは、安全なプライベート接続を使って体制によるインターネット制限をかいくぐっている。また、ロンドンを拠点とする放送局「イラン・インターナショナル」などのメディアにデモの映像や今後のデモの情報を提供している。
イラン当局の偽情報戦略は体制自体と同じくらい古い。1970年代、米国に支援されたモハマド・レザー・パフラヴィー国王を打倒するために戦っていた革命家たちは、自分たちの指導者ルホラ・ホメイニ師を自由の闘士として描き出そうとした。
ホメイニ師の側近の中には欧米で教育を受けた助言者たちもおり、国内外のイラン人にアピールするメッセージを作り出す手助けをし、欧米の人々にアピールするように同師の言葉を巧妙に修正した。
彼らのやり方は極めて効果的だった。当時はホメイニ師の助言者たちによる翻訳に頼っていた欧米のジャーナリストは、積極的にこれらのメッセージを世界に報道した。
現在、イスラム革命防衛隊(IRGC)は、政治的検討課題を設定し国内の反対を攻撃するため、ファールス通信やタスニム通信などの一連のメディアを利用している。
IRGCはまた、これらのプラットフォームを使って、体制が現地の代理組織を通して支配しているイラクやシリアや中東のその他の地域での作戦についてのプロパガンダを広めている。
同時に、国営英語放送局「プレスTV」では、イラン当局の政策や世界観を支持するアメリカ人や欧州人のコメンテーターをしばしば起用して、欧米の視聴者にもアピールしている。
今年3月、イラン文化省のデジタルメディアセンター元所長のルホラ・モーメン・ナサブ氏は、情報の流れを妨害し活動家の評判を失墜させるための体制のやり口を暴露した。
同氏は自分の仕事を「心理戦」と表現し、偽アカウントを使ってツイッター上の世論を操作するためのソフトウェアや「サイバー部隊」 を開発したことを自慢した。
歴史と中東の専門家である、ニューヨーク大学のアラシュ・アジジ氏は、イラン体制は10年以上前からインターネット上の情報を操作する技術を開発してきたと指摘する。
同氏はアラブニュースに対し、「恐らく最初のツイッター革命が起こったのは、イランで数々の出来事があった2009年だ」と語る。これは、この年にマフムード・アフマディネジャド大統領(当時)が不正を疑われつつ再選されたことを受けて勃発した大規模な抗議行動「グリーン・ムーブメント」のことを指している。
「近年のイラン国民は様々なオンラインツールを使って自分たちの声を国外に発信している。政府がインターネットを完全に遮断しようとしたのはそのためだ」と同氏は言う。
「しかし、この国で起こっていることについてのメッセージをソーシャルメディアに拡散させるうえで、国外のイラン人や多くのテクノロジー専門家が積極的な役割を果たしている」
国内外を拠点とする10人のイラン人活動家のグループが運営するツイッターアカウント「@1500tasvir」が最初に作成されたのは、イランをデモの波が席巻していた2019年だった。
今回のデモが勃発して以来、このアカウントはデモ参加者が撮影した動画を何千本も投稿してきた。「@1500tasvir」への投稿者の一人は、体制によるモバイルインターネットサービス制限によってデモが弱体化しかねないと警告する。
「他の人も同じように感じていると分かれば勇気がわきます。この状況のために何かしなければという気持ちが高まるのです。インターネットが遮断されれば、一人ぼっちだと感じてしまいます」と、この人は言う。
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、イラン体制によるインターネット遮断を受けて、米国政府は「イランの人々が孤立し暗闇の中に置かれないように支援する」と宣言した。
米財務省は9月23日、「イランに関する一般許可D-2」を発行した。これは、イラン国民が体制のプロパガンダに対抗できるように、制裁ルールを調節して、テクノロジー企業が安全な国外プラットフォームやサービスのさらなる選択肢を提供することを可能にするものだ。
体制は、ネット上の情報拡散を完全に抑えることができないため、代わりに、投稿が広い支持を得たソーシャルメディアユーザーを拘束するという昔ながらの戦略に訴えている。
国営通信IRNAによると、有名サッカー選手のホセイン・マヒニ氏が、「自身のソーシャルメディアページで暴動を支持・奨励したとして、司法当局の命令により」逮捕された。
他にも拘束され注目を集めている人物がいる。アミニさんの死や抗議についての人々のツイートを使って曲を作った人気歌手シェルビン・ハジプール氏だ。先週、インスタグラムでこの楽曲の視聴回数が4000万回に達した後に拘束されたと伝えられている。
当局はすぐにはハジプール氏の逮捕を認めなかったが、テヘラン州のモフセン・マンスーリ知事は「デモを煽った有名人に然るべき処置を取る」と宣言した。
インターネット遮断をかいくぐるために、予定されているデモの日時と場所を伝えるチラシを配るという手段に出た活動家もいる。体制はデモの鎮圧に失敗したということだ。
アジジ氏はアラブニュースに対し、「体制は世論をコントロールする術をまだ手にしていない」と語る。「今やイラン国民の大多数が、この腐敗した体制による残虐行為をはっきりと見ることができる。コムやマシュハドのシーア派神学校の学生たちからさえも、デモへの連帯を綴った手紙が届いている」
「国際的にも、何千人もの人々がデモへの支持を表明している。いつもは体制を擁護する一部の欧米メディアも今回は沈黙している」