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アメリカがイランとの衝突を避けるには、賢明さが求められる

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師(中央)とハッサン・ルーハニ大統領(中央左)が、テヘランにてガーセム・ソレイマニ司令官の棺付近で祈りをささげている。(ロイター通信)
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師(中央)とハッサン・ルーハニ大統領(中央左)が、テヘランにてガーセム・ソレイマニ司令官の棺付近で祈りをささげている。(ロイター通信)
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11 Jan 2020 09:01:30 GMT9

ガーセム・ソレイマニ司令官の殺害に対し、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師が「厳格なる報復」の実行を誓ったことを受け、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イラン国内の文化遺産を含む52の標的を攻撃することを約束し、リスクをさらに高める姿勢を見せた。ちなみに52という数字は1979年にイスラム革命が発生した際に、イランで人質になったアメリカ人の数と同じである。イラン政府は、アメリカ軍が駐留する2つの空軍基地を攻撃する報復を実行した。

モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相は、これで報復は完了したとコメントしている。トランプ大統領は「万事順調である」という声明を発表し、双方が得点を得たとはっきり述べた。

木曜日に行ったスピーチの中では、イランが「拳を下ろそうとしている」ようだと発言し、一方のハメネイ師は、ミサイル攻撃がアメリカに「一撃を与えた」と言っている。少なくとも現時点においては、双方が間接的に緊張の緩和を表明したことから、事態の成り行きを見守っていた人たちには胸をなでおろしているようだ。しかし、この地域が抜き差しならない紛争状態に陥ってしまわぬために、持続的な戦略によって緊張緩和が保たれていかなければならない。

「イランが攻撃してきたら、我々はさらに強い反撃に出る」といった、単純な方法をアメリカが戦略として思い描いた場合、実に破滅的な状況を迎えることになるだろう。そのような戦略は終わりなき消耗戦を招きかねない。アメリカの政策担当者は、イラン側の政策担当者が論理的な思考を持っており、アメリカと対立した状況になるのは自殺行為だと考えている、という事実に依拠しているようである。トランプ大統領は「イランが米軍基地やアメリカ人を攻撃するなら、お返しに素敵な最新機をそちらに贈ろうと思う。躊躇なくだ」とツイートし、アメリカは全軍をあげる用意があるという脅しをかけている。

だが、アメリカの政策担当者はイランの同業者が自分たちと同じ理屈のもとに動いていると決めてかからない方がいいだろう。それというのも、イランの政策担当者はアメリカとは異なる立場にあり、異なるイデオロギーを背負っているからである。イランの経済は今アメリカの制裁によって悲惨な状態にある。イラン国民の生活はかなりひっ迫している。イランはどん底の状況にあるのだ。それゆえ、イラン政権はもう失うものはなく、国外との対立が国内の再結束をもたらすこともある。イラン国内の人々は現政権を好ましく思ってはいないとはいえ、イラクの二の舞にはなりたくないのだ。イランの指導部はこの思考を実に巧妙に国民へ宣伝する。どれほどハメネイ政権の政策が厳しく、どれほどつらい状況になっても、イラン国民にとっては、イラクに侵攻してサダム・フセインを権力から排除したように、イランも侵攻されて同じ結果になるよりはましなのである。

アメリカが理解しておかなければならないもう1つの側面は、イデオロギーについてである。イスラム共和制とは、イデオロギーを基礎に置く政治体制である。前最高指導者のルホラ・ホメイニ師は経済について尋ねられると、「我々はスイカを安値で売るために革命を起こしたのではない」と答えることがよくあった。それはつまり、核合意によって経済的誘因が得られても、イランはホメイニ師の語り口や行動方針を守っていくということだ。

それどころか、イラン国民がイデオロギーを曲げなかったことを示すために、この地域を委任された立場として動く姿勢を強めることで、核についての戦線での譲歩が埋め合わせができたのである。

イランの指導部は想像するよりも容赦なく、対立や報復に傾くかもしれない。私たちはイラン・イラク戦争において、イランの少年兵たちが何度も波のように押し寄せ、彼らよりも訓練が施された少年兵たちが設置した地雷を取り除いていく手法を取ったことを忘れてはならない。イランの人々はどちらかと言えば、捕らわれて恥をさらすくらいなら死を選ぶような戦士ばかりを送り込む方なのだ。

この2つのことを踏まえれば、イランがアメリカの誇示する軍事力に屈したり、この先及び腰になったりするとは思えない。実際に、イランの代理を務める立場のヒズボラのハサン・ナスルッラーフ議長は、ソレイマニ司令官が殺されてもイランの方針に変更はないと明言している。報復行動は終わったとザリーフ外相は述べているが、ナスルッラーフ議長は湾岸地域からアメリカ軍を追い出してソレイマニ司令官の復讐を果たすと誓っている。

こうした構造において、アメリカは合理的かつ包括的な戦略を持つことが重要となる。まず合理的戦略は予防手段であるべきだ。報復される可能性のある筋書きを計画したり、再報復を念頭に入れた戦略を立てたりしてはならない。報復の筋書きを阻止し封じ込める方法に注力を傾けるべきだ。ナスルッラーフ議長は演説の中で、湾岸地域のアメリカ軍に必ず反撃すると言っている。標的は軍事基地や戦艦や軍人であるとも言っている。このことから、アメリカと同盟国は、特に湾岸地域での安全保障体制を強化すべきだろう。

アメリカの政策担当者はイランの同業者が自分たちと同じ理屈のもとに動いていると決めてかかるべきではない。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

イラン政府の伝達ネットワークを監視する必要がある。アメリカは、戦略拠点に配備することで、国を越えた軍の招集を未然に防がなければならない。それと同時に、外交交渉の窓口も開けておく必要がある。イランに湾岸地域の民兵解体や、核および弾道ミサイル計画の断念など、アメリカが制裁解除の見返りに何か求めても、うまくいく見込みはない。そこで、特に日本という切り口から国際外交を再び活性化させる必要がある。日本は西洋の国ではないし、この地域に植民地を築いた過去もない。
突き詰めれば、現状において湾岸地域が血なまぐさい抜き差しならない状況に陥ることを防ぐには、繊細なバランス感覚と賢明さが求められる。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士は、ロビー活動を中心としたアメリカとイランの関係の専門家である。エクセター大学で政治学の博士号を取得後、ベイルートのIssam Fares Institute for Public Policy and International Affairs at the American Universityの学者となっている。

 

 

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