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イラン政権の抗議デモに対する弾圧の矢面に立たされる少数民族

イランのクルディスタン州の州都サナンダジでは、マフサ・アミニ氏の死後、デモが数週間にわたって広がり続けている。当局は抑制を呼びかけるも、デモ参加者は街頭に出る(AFP)
イランのクルディスタン州の州都サナンダジでは、マフサ・アミニ氏の死後、デモが数週間にわたって広がり続けている。当局は抑制を呼びかけるも、デモ参加者は街頭に出る(AFP)
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18 Oct 2022 02:10:48 GMT9
18 Oct 2022 02:10:48 GMT9
  • 非ペルシャ人は、憲法で守られているにもかかわらず社会の中で孤立し、差別されてきた
  • 2022年前半にイラン政権に処刑された者の大半はアラブ人、クルド人、バローチ人であった

ルーカス・チャップマン

ラッカ、シリア:9月16日、イランの道徳警察によってクルド人女性のマフサ・アミニ、あるいはジーナ・アミニが殺害された事件がソーシャルメディア上で大きな反響を呼んでいる。このことは長年国を統率してきた宗教指導者らの立場を脅かしている抗議運動を加速させている。

イランの法執行機関にとって、アミニ氏は数十年に渡って抑圧されてきた少数民族の人々のうちのひとりに過ぎなかった。彼女を手にかけたことが、体制をも転覆させうる大規模な反乱の火種となることなど彼らは知るよしもなかっただろう。

9月13日、アミニ氏(当時22歳)は、イランでは義務とされているヴェールを正しく着用しなかったとしてテヘランで逮捕された。彼女が会いに行っていた兄弟には、アミニ氏は留置所へと連行されるが、1時間後には解放されると伝えられた。しかしその2時間後、アミニ氏は昏睡状態に陥っていた。

そしてアミニ氏は3日後に死亡した。

当局はアミニ氏の死因は基礎疾患によるものだとしている。しかし留置場で彼女を見た人々の証言やCT検査の結果から、彼女は強く殴打され、頭蓋骨が骨折し脳出血していたことがわかっている。

アミニ氏の死後すぐに、イラン全国で抗議デモが巻き起こった。アミニ氏の出身地であるクルディスタン州で、中部のイランやシスタンで、南部のバロキスタン州で、内乱が起きた。

クルディスタンの活動家のひとり(本人の安全のため匿名)によると、アミニ氏の遺体が埋葬されたときから抗議活動は始まっていたという。

「彼女の葬儀に参列していた人々は、クルディスタンの掲げる『女性、人生、自由』をはじめ、さまざまなスローガンを唱え始めました。そして街頭デモを始め、知事のオフィスの前に集ったのです」と彼はアラブ・ニュースに話した。

抗議運動は数時間のうちにクルディスタンの他の街にも広がった。9月18日には、地域一帯がストライキに入った。人々は店を閉め、街頭へ繰り出し、抗議した。数日のうちに抗議運動は全国で行われるようになった。

イラン政府に反発する者たちへの弾圧はこの数十年間の中でも特に死傷者が多い。これはイラン政府が数十年間にわたって少数民族を抑圧してきたことの帰結だ。

イランの憲法の第2章15条は、教育機関やメディアで地域あるいは民族の言語を使用することを認めている。同法第3章19条では、「すべてのイラン国民は、同等の権利を享受し、人種、皮膚の色、言語、または信条を理由に差別を受けることはない」とされている。

非ペルシャ系の民族や言語集団がイランの人口の40%近くを占めており、彼らが憲法によって保護されているにもかかわらず、少数民族は政治的差別や弾圧を受け、恣意的な逮捕や処刑によって虐げられてきた。

クルド人はイランで3番目に大きな民族であり、人口の約10%を占めている。イラン、イラク、シリア、トルコに住んでおり、その数は約4000万人と推定されている。

国外に散らばったイラン人らは、世界中の都市でテヘラン政権に対する抗議行動を支持している(AFP)

「クルディスタンではどこもひどい状況なので、何からお話すればいいのか」と活動家は語った。

「イラン国民は、他の国の人たちの想像を超えるような最悪の状況に苦しんでいます。クルド人はイランでは3つの理由から三等市民とみなされています。それは第一にクルド人であること、第二に非シーア派イスラム教徒であるか、その他のクルド系宗教を信仰していること、第三に中央政府に反対していることです」

活動家はこう続けた。「私たちは、人間としての基本的な権利を奪われているのです。クルド語やクルド人の政党は制度上禁止されています。クルドの都市は極めて貧困で、失業に苦しんでいますが、これはイランがクルド人に対する差別的な政策を推し進めた結果です。クルド社会は政府によって疎外されているためクルディスタンは最も発展が遅れている地域のひとつになっています」

イラン在住のクルド人の苦しみが始まったのは1979年だ。イランのクルド人の政党は、1979年3月に行われたイラン・イスラム共和国創設のための国民投票をボイコットした。彼らはそれ以来、その代償を払い続けているのである。

イランの諜報機関は、クルド人ならば国外であっても迫害してきた。1989年には、イラン・クルディスタン民主党の指導者であるクルド人政治家がドイツで暗殺された。

クルディスタンの首都サナンダジをはじめ、イラン全土でデモが行われた(AFP)

暗殺から3年の間に、その政治家の後任を含め3人の反体制派クルド人が殺害された。1989年以降、イランのクルド人反体制者がイラン国外で暗殺されたケースは10件を下らない。今回の騒乱はクルド人女性の死から始まったが、イラン政権の少数民族への迫害は、少数民族のクルド人以外にも及んでいる。

2022年5月、経済状況の悪化に対する抗議デモがイラン全国で起こり、その影響で死刑執行が急増した。しかし、人権団体「イラン・ヒューマンライツ」(IHRNGO)によると、治安部隊の標的は少数民族の者に偏っていた。

イランの南部にあるバルチスタン州に住むスンニ派のイスラム教徒が主体のバローチ族は、人口の2%に過ぎない。

しかしオランダのグローバル・データ・ラボ(Global Data Lab)の2019年の統計によると、バルチスタン州の人間開発指数(Human Development Index)および一人当たりの国民総所得はイランの州の中でも最低であり、その経済的発展は長らく停滞している。にもかかわらず、バローチ族たちはひどい人権侵害を受けている。

イラン・ヒューマンライツの6月の報告書によると、イランでは今年、処刑の件数が5年ぶりのピークに達したという。その数は、2021年には全体で110人だったところ、2022年の最初の6ヶ月間だけで168人に急増した。少数民族であるアラブ人、クルド人、バローチ人が処刑された者の大部分を占め、そのうちの22%がバローチ人の囚人だった。

イラン国民の約2%を占めるアラブ人も、抑圧と差別にさらされてきた。アラブ人の多くは石油資源が豊富で産業の中心地であるクゼスタン州に居住している。

しかしアラブ系議員のムハンマド・サイード・アンサリ氏によると、クゼスタン州でも貧困と失業が蔓延しているという。同氏は、石油産業の労働者の約半数が州外から連れてこられているため、アラブ人はしばしば雇用機会を奪われると主張している。

英国のマイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル(Minority Rights Group International)は、政府の大規模なインフラプロジェクトによってクゼスタンのアラブ人が25万人近く退去させられていると報告した。

イランのアラブ人分離主義運動の指導者、アハメド・モラ・ニッシー氏は2017年にハーグの自宅前で暗殺され、イラン当局に外国で暗殺された数多くの少数民族の反体制派のひとりとなった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2021年7月、クゼスタン州で、清潔な水へのアクセスを求めて抗議した者らが殺害され、少なくとも9人が死亡した。

今なお続く騒乱の中、クゼスタン州では多くの石油施設や石油化学施設がストライキを行い、従業員が街頭に立つなどの抗議デモが行われている。10月12日には、州都アフバズで最高指導者アーヤトッラー・アリー・ハメネイ師が描かれた巨大な横断幕が何度も燃やされたと報じる映像がTwitterで公開された。

22歳のイラン人女性マフサ・アミニ氏が9月16日に死亡したことを受け、イラン全国の都市で抗議デモが起こっている。アミニ氏はイランの女性に対する厳格な服飾規定に従わなかったとしてテヘランで道徳警察に逮捕されたという(AFP)

「最も豊かな地域のクゼスタンに住むアラブ人が、最も貧しい。正式名称はクゼスタンですが、アラビスタンやアフワズと呼ぶほうが似つかわしいでしょう」と、テヘラン大学の元管理職でイラン作家同盟のメンバーであるアラブ系イラン人のユセフ・ヤセーン・アジジ氏はアラブニュースに語っている。

「王政時代とイスラム共和国の時代に、非アラブ人をこの地域に呼び寄せ、アラブの都市や村に定住させたのはアラブ人なのですから」

アジジ氏は、政権が意図的にアラブ人やその他の少数民族をイランの政財界から追い出してきたのだと考えている。

「アラブ人が公的機関で占める地位は全体の5%程度です」と彼はアラブ・ニュースに語った。「学校ではアラビア語は禁止されています。多くのアラブ人が、名前がアラビア語であるというだけで、石油化学工場に就職することができないのです」

「『あなたはアラブ人だから雇わない』と公然と言えるレベルにまでなっています。アフワズにあるアリー・ハメネイの石油会社では、この10年間で4000人の従業員を雇いましたが、そのうちアラブ人は7人しかいませんでした」

企業のこうした態度は、イランではアラブ人の命は安いと思われていることを示唆しているのかもしれない。

「アラブ人は何度も反乱を起こし、しばしば刑務所に入れられたり、殺されたりしました。私たちは常に当局の残忍な行為によって抑圧されてきたのです。つい10日前、活動家のエマド・ヘイダリがアフワズの刑務所で拷問され、死亡しました」と同氏は言う。

アフワジ民主人民戦線のウェブサイトによると、31歳のヘイダリ氏(マラシーエ地方の活動家、新婚)は9月27日に逮捕され、10月6日に獄中で死亡した。イラン当局は彼は脳卒中で倒れたというが、活動家たちは納得していない。

「アフワズ・アラブから始まり、そこから広がった2019年の燃料価格上昇に対する抗議デモの際は、200人のアラブ人が殺された。彼らはアラブ人に慈悲を与えなかった」とアジジ氏は語る。

「アラブの報道機関や市民社会は、私たちに何が起こっているかを知り、それを毎日報道しなければなりません。彼らはあらゆるチャンネルで、あらゆる本や会議それを伝え、私たちを支援しなければなりません。私たちは孤独なのだから。これまで、私たちの痛みを取材し、皆に見せてくれるチャンネルはなかった。それでも、私たちは抵抗を続けたのです。」

現在起きている内乱で少数民族が不当に標的にされていることは、イランが過去に少数民族をどう扱ってきたかを反映している。アメリカン・エンタープライズ研究所が2009年に立ち上げた情報分析プロジェクト「クリティカル・スレッツ・プロジェクト(Critical Threats Project)」によると、最も激しく暴力にさらされている地域はクルディスタン、シスタン、バロチスタンとのことである。

アミニ氏の死から2週間後、バローチ族が多数を占める都市ザヘダンでは、金曜日の礼拝後にデモ参加者が集まり、全国的な抗議行動への支持を示すとともに、イラン警察司令官による15歳のバローチ族少女への性的暴行容疑に対する正義を要求した。

アムネスティ・インターナショナルの報告によると、イラン治安部隊は催涙ガスと実弾で群衆に発砲したという。映像では屋根の上にいた射手がデモ隊を狙っていた。わずか数時間の間に66人から96人が死亡し、数百人が負傷したこの日は「血の金曜日」と呼ばれるようになった。

ニューヨーク・タイムズ紙はその後、目撃者や活動家、犠牲者の家族、150人以上の傷の治療を手伝った衛生兵など、ザヘダンの10人の住民に話を聞いた。

全員が、治安部隊は非武装のデモ参加者や市民に銃弾や催涙ガスで無差別に発砲したと非難している。目撃者によれば、ヘリコプターも投入されたとのことであった。

「住民によると、9月30日の暴力事件の2日前には、同じ州の別の都市チャバハルで小規模なデモがあった」と同紙は10月14日の報道で述べた。

保守的な神権支配の終結を求め、より多くを要求する抗議運動に対し、イラン政権は少数民族地域への強権的行為を激化させ続ける。

「私たちの問題を認識し、その解決に力を貸すよう国際社会に求めます。今、クルディスタンとイランの人々は、この政権を打倒するために全面的な支援を必要としています」と、アジジ氏はアラブ・ニュースに対して語った。

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