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ヨルダンで支援を受ける難民の虹彩スキャンに倫理的な問題はないか

食料品店で虹彩スキャンカメラを覗き込む、ダルアーから逃れてきたシリア人難民のハムダさん。ヨルダン。(WFP)
食料品店で虹彩スキャンカメラを覗き込む、ダルアーから逃れてきたシリア人難民のハムダさん。ヨルダン。(WFP)
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15 Dec 2022 07:12:49 GMT9
15 Dec 2022 07:12:49 GMT9
  • 2017年に導入された世界食糧計画の「ビルディング・ブロックス」イニシアティブは、ブロックチェーン技術を人道支援提供に応用した最初の例の一つ

アズラック、ヨルダン:ヨルダンのアズラック難民キャンプ内の食料品店のレジで、サメーラ・サッブーさんは目を大きく開けてスキャナーを覗き込むことで支払いを行っている。ブロックチェーン技術により、彼女の虹彩がスキャンされるとデジタル支援口座が解除され支払いができるようになっているのだ。

このキャンプに住む4万人近いシリア人の多くはこのキャッシュレスでカードレスな決済方法の便利さを認識している。国連のデータベースを参照することで利用者の身元を確認する方法だ。しかし、これを好きだという人はほとんどいない。

2015年にアレッポから避難してきた二児の母のサッブーさんは、「本当に疲れます。目をスキャンしても1回では認識しなくて、2、3回スキャンしなければりません」と話す。「指紋をスキャンする方がいいです」

2017年に導入された世界食糧計画(WFP)の「ビルディング・ブロックス」イニシアティブは、ブロックチェーン技術を人道支援提供に応用した最初の例の一つであり、現在ヨルダンとバングラデシュで100万人以上の難民にサービスを提供している。

このシステムは、現金、食料、水、医薬品など複数の種類の支援の追跡・調整・提供を可能にするものだ。WFPは、これまでに数百万件の銀行取引の手数料約250万ドルの節約につながったとしている。

しかし、デジタル権利団体はこのような新技術を難民のような弱い立場にある集団に使用すること、また彼らが不可欠な食料支援を受けるためにセンシティブな生体認証データを提供する必要があることに疑問を呈している。

「インターネットと社会のためのバークマン・センター」の研究員であるペトラ・モルナー氏は、「難民がモルモットにされている」と言う。このような「実験」が疎外された集団を対象に行われていることを知って心を痛めたという。

同氏は次のように語る。「あなたの地元の食料品店に突然虹彩スキャニングが導入されたらどうなるか想像してみてください。皆怒るでしょう。でも、どういうわけかそれが難民キャンプなら大丈夫だというのです」

支援に依存する難民がインフォームドコンセントを与えることができる状況にあるのかどうかを問題視する人もいる。

チュニジアを拠点とする独立系人権研究者のディマ・サマロ氏は、「インフォームドコンセントに関しては疑問符が付く」と言う。「彼らが同意したのは納得したからなのか、強制されたからなのか」

こうした批判に対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のローランド・シェーンバウアー報道官は、難民には個人データ収集の目的について知らせたうえで承認を求めていると反論した。

同報道官はアズラックキャンプでインタビューに応え、「UNHCRは生体認証データを誰にも提供することはない」と語った。このプログラムに参加しないことを選択した難民も同じレベルの支援を受けられるという。

戦争、貧困、迫害、環境災害から避難している人の数が世界中で過去最高の水準に達している中、各国は様々なデジタル技術を活用して人々の流れを監視し彼らのサービスへのアクセスを管理しようとしている。

それらの技術には、スマートID、GPSモニターのほか、暗号資産の基礎を成す分散型データベース技術であるブロックチェーンなどが含まれる。

しかし、これらの技術によって効率が上がり無駄が減ったと各国や支援機関が言う一方で、こういったシステムは弱い立場にある難民を監視や個人データの商業利用に晒すこともあるとの批判もある。

デジタル権利団体「アクセス・ナウ」の中東・北アフリカ地域政策マネージャーであるマルワ・ファタフタ氏は、「これが全て悪意を持った者の手に渡ったらと想像してみてください」と言う。また、強力なデータ保護法がない国では難民に対する法的保護や予防策が十分でないと警告する。

同氏は次のように語る。「個人を特定するために生体認証データを収集することは非常に侵襲的な方法です。必要でも適切でもないし、国連機関が遵守すべきプライバシーに関する国際基準に違反しています」

UNHCRは既に、バングラデシュの広大な難民キャンプに住むロヒンギャ難民のデータを収集したことをめぐって批判に直面している。

「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が昨年出したレポートによると、UNHCRは十分なデータ影響評価を実施しておらず、一部のケースではデータを(避難元の国である)ミャンマーへ提供することへのインフォームドコンセントを難民から得ていなかった。

同様に、アフガニスタンで2021年にタリバンが復権した際も、支援機関や政府が収集した生体認証データベースやセンシティブなデータがタリバンの手に渡り活動家や反体制派を追い詰めるために使用される可能性が懸念された。

ロイター

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