・7月、パナヒはテヘラン検察庁を訪れ、政府による抗議デモ弾圧で拘束された映画監督モハマド・ラスロフが逮捕されたことを問いただした。
・パナヒ自身も逮捕され、10年前の罪で6年の実刑判決を受けた。
ニューヨーク:イランの映画監督、ジャファール・パナヒは、2010年に反政府プロパガンダを作成したとして逮捕された後、20年間映画製作を禁じられた。その後、5本の長編映画を製作し、高い評価を得ている。
彼の最新作『No Bears』は、パナヒ監督が獄中にある中、米国の劇場でまもなく公開される。
7月にパナヒはテヘラン検察庁を訪れ、政府の抗議デモ弾圧で拘束された映画監督モハマド・ラスロフが逮捕されたことを問いただした。パナヒ自身も逮捕され、10年前の罪で6年の懲役を言い渡された。
政府の承認を得ずにイランで製作されたパナヒの映画は、芸術的な抵抗の巧妙な産物である。
彼は、自分自身で撮影した作品の中で、自分自身を演じており、遊び心と破壊性を兼ね備えた人間性でイラン社会の仕組みを密かに捉えている。パナヒは『これは映画ではない』を自分のアパートで撮影した。
『タクシー』は、ほとんどが車の中で撮影され、笑顔のパナヒが運転手を演じ、道中で乗客を乗せる。
「No Bears」でパナヒは、イランとトルコの国境沿いの田舎町で映画を撮りながら、架空の自分を演じている。今年最も高く評価された映画のひとつだ。
ニューヨーク・タイムズ紙とAP通信は、今年のトップ10作品のひとつにこの作品を選んた。ロサンゼルス・タイムズの映画評論家ジャスティン・チャンは、『No Bears』を2022年のベスト映画に選んだ。
イランの映画界に対する政府の弾圧がますます厳しくなる中、『No Bears』は発表された。ベネチア映画祭で『No Bears』がプレミア上映された1週間後、パナヒはすでに獄中にあったが、22歳のマフサ・アミニさんはイランの道徳警察によって拘束されている間に死亡した。
彼女の死は、イランの神権政治を揺るがす3カ月に及ぶ女性主導の抗議行動を引き起こし、抗議行動は現在も進行中である。
イランの人権活動家団体によると、9月17日以降の弾圧で500人以上の抗議者が死亡し、18,200人以上が拘束されている。
土曜日には、アスガー・ファルハーディー監督のアカデミー賞受賞作『セールスマン』で主演したイランの著名女優タラネ・アリドゥスティが、抗議活動中に犯したとされる罪で最近処刑された男性への連帯を表明するメッセージをインスタグラムに投稿した後に、逮捕された。
アリドゥスティの逮捕後の混乱の中で、『別離』と『英雄の証明』の監督であるファルハーディーは、「私の仲間である他の映画人ジャファール・パナヒとモハマド・ラスロフ、そして唯一の罪がより良い生活のための試みにすぎない他のすべてのあまり知られていない囚人たちの釈放とともに」アリドゥスティの釈放を求めた
「このような支援を示すことが犯罪であるならば、この土地の何千万人もの人々が犯罪者だ」とファルハーディーはインスタグラムに投稿した。
パナヒ監督の不在は、世界最高峰の映画の舞台で痛感された。『No Bears』が審査員特別賞を受賞したベネチアでは、映画のプレミア上映の際にレッドカーペット上で抗議のウォークアウトが行われた。映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラや審査員長のジュリアン・ムーアも、パナヒや他の映画監督の投獄に無言で抗議する群衆の中にいた。
また、『No Bears』により、長年批判されてきたアカデミー賞の方針が再び試されることになる。アカデミー賞の最優秀国際映画部門への応募は、その国の政府によってのみ行われている。
批評家たちは、それによって、もてはやされる賞を獲得するのをどの映画に競わせるのか、権威ある政権が決定することを許していると批判している。
濱口竜介の日本のドラマ映画「ドライブ・マイ・カー」を一昨年のアカデミー賞4部門にノミネートされるのに貢献したアートシアター配給会社のサイドショーとヤヌス・フィルムズは、『No Bears』の真価とパナヒの大義がその制限に勝ることを期待して、この映画の権利を取得した。
サイドショーの創設者であり、独立系映画会社のベテラン幹部でもあるジョナサン・セーリングは、「彼はこのようなことをするたびに、自分自身を危険にさらしているのです」と言う。「映画監督に映画を作らせないような政権があるにもかかわらず、映画を作るとなれば、それは感動的なことです。」
「イランからの出品でないことは分かっていました」とセーリングは付け加えた。「しかし、私たちはジャファールを監督賞や脚本賞など、さまざまな部門の候補として位置づけたかったのです。そして、この映画は劇場映画としても通用すると確信しています。」
映画芸術科学アカデミーは、国際映画部門の改革の可能性についてのコメントを拒否した。水曜日に発表された同賞の候補作15本の中には、イランを舞台にしたデンマークの作品『ホーリー・スパイダー』も含まれていた。イラン当局が許可しなかったため、監督のアリ・アバッシは、実際に起きた連続殺人をもとにしたこの作品をヨルダンで撮影した。
『No Bears』は12月23日にニューヨークで、1月10日にロサンゼルスで封切られ、その後全米で公開される。
この映画では、パナヒはアパートを借り、そこからインターネットの電波が不安定な中、アシスタントの助けを借りながら映画監督を務めている。彼らがカメラやメモリーカードを手渡す様子で、政府の規制下でパナヒがどのように仕事をしてきたかが分かるだろう。『No Bears』では、パナヒが偶然に危険な映像を撮影したと思われ、村当局からの圧力がますます強くなっている。
「そもそも映画を作るのは簡単なことではありませんが、密かに作るのは非常に難しいことです。特に全体主義的な政府が国を厳しく統制し、いたるところにスパイがいるイランでは」とイランの映画研究者でドキュメンタリー作家のJamsheed Akrami-Ghorvehは言う。
「これは本当の勝利です。彼は他の映画監督と比べることはできません。」
この映画の最も感動的なシーンのひとつに、パナヒが夜、国境沿いに立っている場面がある。遠くに見える明かりを眺めながら、彼はそこを渡ることを考えている。現実のパナヒが断固として受け入れなかった亡命生活だ。
この映画には、信じられないほど現実に近い部分がある。『No Bears』の一部は、映画の中の映画と同じようにトルコで撮影された。トルコでは、ミナ・カヴァニとバクティアル・パンジェイが演じるイラン人夫婦が、ヨーロッパに行くため、盗まれたパスポートを手に入れようとする。
カヴァニ自身は、この7年間、亡命生活を送っている。彼女はセピデ・ファルシ監督の2014年のロマンス映画『Red Rose』で主演した。カヴァニは、この映画でのヌードが原因でメディアの嫌がらせを受けることになり、パリで暮らすことを選んた。パナヒ監督が国境を越えてビデオチャットで監督するいう深い皮肉に、カヴァニは衝撃を受けた。
「これこそ、彼の芸術の神髄です。私たちは共に追放の身であるのに、別の場所にいるというアイデアは魔法でした」とカヴァニは言う。「彼は、イラン国外に亡命したイラン人に何が起きているのか、そのことを初めて語った人です。彼は自分の国で追放の身となりながら、彼の国を離れた人たちのことを話している、これは私にとって非常に興味深いことです。」
パナヒの同僚の多くは、刑務所の独房の中でも、パナヒがおそらく次の映画について考えているだろうと想像している(作ることができるかどうかは別として)。ニューヨーク映画祭で『No Bears』が上映されたとき、カヴァニはパナヒの声明を読み上げた。
「イラン映画の歴史には、検閲を押し返し、この芸術の存続を確保するために奮闘してきた独立系の監督たちの存在が常にありました」と、声明には書かれていた。「この道を歩む中で、映画製作を禁止される者や亡命を余儀なくされる者、孤立無援に陥る者もいました。それでも、再び創造するという希望が、存在理由なのです。いつ、どこで、どんな状況であっても、独立系の映画監督は創作しているか、考えているかのどちらかなのです。」
AP