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シリア越境支援が延長されるも戦争避難民の救援には不十分

トルコ国境近くのキャンプで食べ物を求めて列を作るシリアの子供たち。 (AFP)
トルコ国境近くのキャンプで食べ物を求めて列を作るシリアの子供たち。 (AFP)
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12 Jan 2023 08:01:49 GMT9
12 Jan 2023 08:01:49 GMT9
  • 援助団体関係者は、反体制派が掌握する北西部における大規模な人道的ニーズを満たすには6ヶ月間の延長では不十分だと指摘する
  • 12年近く続く内戦により、この地域では約180万人が難民キャンプや非公式の居住地で暮らしている

アナン・テーロ

リーズ、イギリス:シリアへの越境支援を保証する国連安全保障理事会の合意の6ヶ月間延長が決定したが、反体制派が掌握する同国北西部における圧倒的な苦難に対処するには不十分だと、人道支援団体は警鐘を鳴らしている。

不透明な状況が数週間続いた末の1月9日、安保理はこの援助ライフラインを延長する決議を全会一致で採択した。

勃発からもうすぐ12年目となる内戦によって避難を余儀なくされている数百万人の人々に引き続き支援物資を届けることが可能になった。

決議が期限切れとなる僅か1日前、15ヶ国で構成される安保理は7月10日までの延長で合意した。

トルコ国境を越えてバブ・アル・ハワ検問所経由で支援物資を届けることが引き続き許可される。

この検問所経由で届けられる支援物資は反体制派掌握地域に暮らす人々のニーズの80%以上を満たしている。

バッシャール・アサド大統領の体制が支配する地域を通過せずに民間人に国連の支援物資を届けることができる唯一の経路だ。

シリア避難民キャンプに届いた支援物資。(AFP)

アサド体制の同盟国であるロシアは、同体制が支配する地域のみを通過して支援物資を届けるよう以前から要求しており、6ヶ月を超える越境支援延長に拒否権を発動してきた。

援助団体は延長を歓迎しているものの、持続的で有意義かつ費用対効果の高い人道支援を行うには6ヶ月間の延長では短すぎるという声が多い。

イギリスを拠点とする慈善団体「アクション・フォー・ヒューマニティー」のアドボカシーマネージャーであるニコラ・バンクス氏はアラブニュースに対し、「期間が短いと緊急時対応計画の繰り返しとなってしまい、必要としている人々に支援を届ける我々の能力が制限される」と語る。

「人道的状況は悪化している。援助団体が6ヶ月後より先の計画を立てられないことで、支援の効果が下がり費用が上がるリスクがある」

シリアでの支援に必要な供給物資のほぼ全てをバブ・アル・ハワ検問所経由で受け取っている「国境なき医師団(MSF)」も、6ヶ月間の延長が課す制限について懸念している。

MSFのシリアミッション責任者であるセバスチャン・ゲイ氏はアラブニュースに対し、「不安定な状況とアクセス制限により、ニーズの規模に見合った人道支援を提供する我々の能力は引き続き深刻な制限を受ける」と語る。

「食料と医療を中心とする人々のニーズを満たす援助団体の能力は、長引く経済危機、戦闘、長年にわたる人道資金の全体的な減少により弱まり続けている」

「越境支援があっても、シリア北西部における人道支援や医療に対するニーズは人道組織が提供できるレベルを超えている」

アサド体制による取り締まりが行われた後、ダマスカスの刑務所の外で待つ囚人の親族たち。(AFP)

越境支援決議の短期間延長により既に、過去1年間のシリア北西部での援助団体の活動にギャップが生じており、長期的なプロジェクトや人々のニーズの解決に取り組む能力が制限されているとゲイ氏は指摘する。

12月に発表された安保理のレポートによると、シリアにおける冬季支援に必要とされる2億950万ドルのうち僅か18%しか調達されていない。

このような確実性の欠如により、MSFのような団体は介入を引き延ばすことを余儀なくされている。

「シリア北部の避難民の今後を予測することは難しい。

紛争が続いて、極めて弱い立場にある彼らにとって不安定な状況が長引く間は特にそうだ」とゲイ氏は言う。

「過去2年間、様々な医療施設やプロジェクトが資金を失ったことで活動規模を縮小したり閉鎖されたりするのをMSFは見てきた。そのような背景から、MSFは重大なギャップを埋めるためにサービスを強化する必要があった」

「それらのサービスを縮小すれば、何千人もの妊娠中の女性・少女や新しく生まれる子供たちの命を危険に晒したり、コレラなどの水系感染症の蔓延を引き起こしたりすることになる」

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の最新データによると、12年近く続く内戦により、反体制派が掌握するシリア北西部では約180万人が難民キャンプや非公式の居住地で暮らしている。冬になり気温が低下し、ただでさえ厳しい状況がさらに悪化している。

これらのキャンプは一時的な避難所として作られた。しかし、暴力から逃れてきた数万人の民間人が不潔で過密な場所に閉じ込められ、食料、清潔な水、衛生設備、医療、適切な避難場所へのアクセスが限られる中で暮らしている。

「テントは雨漏りし、道はぬかるみ、凍える寒さが人々の体と心の健康を大きく害している」とゲイ氏は言う。

キャンプ内の家族の多くは未だに、10年前に援助団体が提供したキャンバス地のテントで暮らしている。

シリアのNGO「ヴァイオレット・オーガニゼーション」のヒシャム・ディラニCEOはアラブニュースに対し、「テントの中の気温は外と同じだ」と話す。「この状況は子供たちの命を脅かしている。

前の冬には夜の寒さで子供たちが亡くなるのを目の当たりにした」

冬の数ヶ月間は身を切る寒さ以外にも多くの危険をもたらす。呼吸器疾患、水系感染症、不適切な暖房方法が原因の火傷や煙吸入による合併症などだ。

ストーブと燃料を使える家族はまだ幸運だとされる。しかし、暖を取ることさえも命取りになりかねない。

火災が「冬ごとに数百回」発生しているとディラニ氏は言う。

「親たちは子供にもしものことがあったらと心配して夜も寝ず、何かを燃やして暖房を稼働し続ける」

例年、テント内を暖めるのに木、石炭、ピスタチオの殻などが燃やされる。

今年は全国的な燃料不足により、そういった基本物資さえ乏しいため、多くの人がごみや手に入るその他の物を燃やしている。

シリアとイギリスを拠点とする慈善団体「ハンド・イン・ハンド援助開発基金(HIHFAD)」の広報担当者は、「プラスチック、糞尿、石炭などを燃やした煙を吸い込むことは有害であり、具合が悪くなる子供も多い」と言う。

「冬の湿った空気に、過密な環境や、適切な衛生にアクセスできない状況が重なると、呼吸器系感染症、煙の吸入による健康問題、水系感染症にかかる人が増える可能性が高くなる」

キャンプの近くの病院では「子供の気管支炎や肺損傷の症例が増えている」と、この広報担当者は言う。

「この冬は適切な支援がなければ、低体温症やテント内の火事で亡くなる人が増える可能性が高い」

ゲイ氏によると、前の冬のイドリブ北部でMSFの医療担当者が治療した火傷患者は980人に上ったという。

UNHCRによると、この地域のキャンプでは2021年だけで345件の火災が発生し、12人が死亡、61人が負傷、516ヶ所の避難所が破壊された。

キャンプに暮らす人々が冬に直面する脅威は火災や有害な煙だけではない。

排水が不十分なため頻繁に浸水し、持ち物が駄目になったり、寒さに拍車がかかったり、水系感染症が蔓延したりするのだ。

前出の広報担当者によると、嵐や豪雨によりシリア北西部全体で6700張り以上のテントが破壊され2万2800張り以上が破損した。

病気も多くの犠牲者を出している。

9月にコレラ感染が急増し始めて以降、感染が疑われる人の数は、イドリブでは1万4000人以上、アレッポでは1万1000人以上に上り、それぞれ国内で2番目、4番目に感染者の多い都市となった。

 

これらの地域で特に感染者が多いのは、ユーフラテス川の汚染された水が飲み水や農業用水に使用されているうえ、反体制派掌握地域の保健部門が10年以上にわたる戦争で壊滅しているためだ。

人道援助団体が懸念しているのは、これらの状況による身体的な犠牲だけではない。

長年にわたる不透明な状況、劣悪な生活条件、治療されないままの心理的トラウマなどにより、避難民の間でメンタルヘルスの危機が起こっているのだ。

シリアの過密なキャンプでは、寒さ、飢え、避難所の不十分さにより多くの子供が犠牲になっている。(AFP)

HIHFADによると、これらのキャンプでは2021年初頭から2022年半ばまでの間に83人の自殺者が出ている。

寄付国が資金調達目標を満たさない限り、またバブ・アル・ハワ検問所経由の支援が一度に6ヶ月間以上保証されない限り、シリア北部における人命救助と苦痛緩和の能力が低下することになると、援助団体は警鐘を鳴らしている。

アクション・フォー・ヒューマニティーのバンクス氏はアラブニュースに対し、「我々は12ヶ月間の越境支援を引き続き要求する。また、それが今後の議題となることに期待する」と語る。

それが実現すれば援助団体は支援を拡大し、必要とされている支援を予測可能かつ長期的な形で提供できるようになると同氏は言う。

 

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