
ピーター・ハリソン
ドバイ:10年以上にわたる内戦で疲弊し、また今月6日にわずか数時間の間隔で相次いで発生した大地震で多数の死者が出ているシリアで、コレラが流行する兆しが見られており、人命を脅かす新たな脅威に警戒が強まっている。
シリア北部ではすでに昨年末、コレラの発生が疑われ、赤十字が監視を行っていた。
しかし、今月6日にトルコとシリアの国境付近で地震が発生し、数万人に及ぶ犠牲者が出ていることで、コレラ流行への懸念も更に高まっているという。赤十字国際委員会のジル・カルボニエ副総裁が、ドバイで開催中の世界政府サミット(World Government Summit、WGS)の席でアラブニュースに対して明らかにした。
被災地域では、何十年も前から使われている給水システムが続く内戦のため長年放置され、すでに脆弱な状態にあり、大地震の発生時に、その衝撃に耐えることは不可能であった。
さらに、シリアでは内戦の影響で、人口の移動が起きていた。各勢力が戦闘を続ける中で、家を追われる人々が増えていたのだ。
人々の継続的な移動は、給水システムや排水処理設備への負担を増大させていた。
加えて、シリアでは、大地震の発生後、期待された支援が得られていないという声も聞かれている。
しかし、カルボニエ氏は、赤十字はその中立的な立場を活かして各勢力と交渉し、反政府勢力、政権派、ジハード主義者などあらゆる勢力の支配地域で赤十字スタッフの援助活動を実現しつつある、と語っている。
赤十字がシリアの最も被害の大きかった地域に入ることができるということは、地域社会に必要不可欠な薬や医薬品、医療機器が届けられるということだ、とカルボニエ氏は述べ、さらに、水の浄化に必要な化学物質の一部も持ち込みが許可されたと付け加えた。
もちろん、シリアのような場所では、状況は単純ではない。敵と味方に二分するだけでは片付かない複雑さが存在しているのだ。
そのため、地域へのアクセスを得るには、しばしば命がけの状況での粘り強い努力が必要となる。
赤十字は、いかなる政治団体にも、国にも属さない組織である。厳正に中立の立場で活動し、支援対象者だけでなく、支援対象者が住む地域に存在する敵対勢力からも信頼されることを重視している。
「シリアについても同様で、私たちは常に秘密裏に対話を続けています」とカルボニエ副総裁は語る。
「私たちは何かを支持する団体ではない。私たちの役割は、公の場で発言することではなく、現場で役に立つことなのだ」
赤十字の代表団は先週シリアに滞在し、大地震の被災者たちへの援助活動の許可を得るための交渉を行ったという。
カルボニエ氏は「今私たちが言いたいのは、人道支援は政治化されてはならないということだ」と指摘している。
人道的な支援をしようとするならば、支援を必要とする人々を助けることに集中するべきで、それがどこの誰であるかは問題ではない、と同氏は強調した。
「大地震に襲われた地域は広大で、瓦礫の下にどれだけの人が閉じ込められているのか、正確には分かっていない。シリアの長年の内戦によって、どれだけの人が行方不明になったり死亡したりしているのか、正確に記録することがほぼ不可能になっているのだ」
人的被害の実態の把握は、戦火から逃れるために継続的に移動している数百万人の国内避難民の存在により、さらに難しいものになっている。
しかし、赤十字では、近しい人々との連絡が途絶えてしまった人々を支援することで、何らかの力になろうとしている。連絡の途切れた人々が見つかる保証はないし、まだ生きているかどうかすら分からないのだが。
しかし、カルボニエ氏は、行方不明の親族の身に何が起こったかを知ることは、大変なショックを受けてしまう可能性もあるが、ある程度の区切りをつけ、真実を知らないという辛さに終止符を打つことができると指摘する。
「私たちが目にしてきたところでは、家族にとって最悪の状況は、何も知らされずに何年も耐え続けることなのだ」とカルボニエ氏は言う。
「受け取る知らせが、たとえ愛する人の死を告げるものだとしても、何年も知らされずにただ願い続けて過ごすよりは、できるだけ早く真実を知って悲嘆と悼みに向き合うほうが、結局は自分のためになるのだと思う」
今回の大震災の死者数が最終的にどの程度になるかとの質問に対し、カルボニエ氏は推測で語ることは避けたいとしたが、今後も死者数は増え続ける可能性が高いと述べ、「事実その数は日々増え続けている」と指摘した。
カルボニエ氏はまた、シリアには膨大な規模の援助と支援が必要だと語り、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)およびその他のアラブ諸国によるこれまでの援助を高く評価し、これらの諸国の反応を 「グローバルな連帯の動き」だと称賛した。
さらに、「惜しみなく人を助けようとする、善意の大きな波が起きている。その中で、私たちが支援をしっかりと届けていくことが大変重要になっている」と同氏は決意を示した。
カルボニエ副総裁はまた、シリアで赤十字が「既存の年度予算枠」を基本に活動しているため、その意味でも援助は不可欠だと述べた。
「追加の予算が必要なのは間違いない」と同氏は付け加えた。