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ロシア・ウクライナ戦争1周年も和平の兆しなし 双方は紛争長期化に備える

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25 Feb 2023 01:02:52 GMT9
25 Feb 2023 01:02:52 GMT9
  • 2022年2月24日の戦争開始以来、数百万人の避難民、数十万人の死者が出ている
  • GCC加盟国は一方への支持表明を自制し、代わりに外交を後押ししている

ナディア・アル・ファウル

ドバイ:ちょうど1年前、ロシアは国境の向こうのウクライナ北部・東部・南部に軍隊を送り込んだ。首都キーウを素早く包囲してウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政府を転覆することが狙いだった。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、この「特別軍事作戦」の目的はロシア系住民を保護し、ウクライナのNATO加盟を阻止し、同国をロシアの影響圏内に留めるために同国を「非軍事化」「非ナチ化」することだと述べた。

蓋を開けてみれば、ロシア軍はウクライナ国民とウクライナ軍からの激しい抵抗にあい、首都への進軍を阻まれ、北東部ハルキウ州や南部ヘルソン州の各都市からの全軍撤退を余儀なくされた。

ロシアの軍事戦略家はものの数日で終わると踏んでいたであろうこの戦争は12ヶ月続いており、ウクライナ東部を南北に1500キロにわたって貫いている戦線に沿って両軍が塹壕を掘ってにらみ合う悲惨な膠着状態に陥っている。

ロシアはウクライナ4州(東部のルハンスク州、ドネツク州、および南部のヘルソン州、ザポリージャ州)の併合を試みたが、これらの地域を完全には掌握していない。そして過去1年間の出来事によって示されたように、ロシアが2014年に併合したクリミア半島でさえ安泰ではない。

ロシアが昨年2月24日に「特別軍事作戦」を開始して以来、約800万人のウクライナ国民が欧州やさらに遠くの地域に避難し、双方の軍でそれぞれ数千人の兵士が死亡している。欧米の様々な情報源は双方の死傷者をそれぞれ15万人と推計している。ロシア軍兵士の死者数は15万人にのぼる可能性もある。

昨年2月の侵攻開始以来、数百万人が国外に避難している。(AFP)

ウクライナのドミトロ・セニック駐UAE大使は、ロシア・ウクライナ紛争開始1周年を前にアラブニュースに対し次のように語った。「ロシアは21世紀に19世紀の植民地化戦争の戦術を使っている。これでは上手くいかない。手段としても、やり方としても、大義としても」

戦争が長引くにつれ、ロシアはイランなどの友好的な同盟国からの武器弾薬調達を余儀なくされている。広く信じられているところでは、イランは中東各地の代理組織に供与しているものと同じ型の自爆ドローンをロシア軍に提供している。

ここ数ヶ月の、ウクライナ各都市の電力施設や集合住宅などの民間インフラを狙った攻撃には、この種のドローンが多数使用されている。

セニック大使は語る。「ロシアの将軍たちが認めたように彼らは戦場で失敗続きなので、ウクライナの重要なインフラや火力発電所を標的にし始めた。ウクライナ国民から熱、電力、水力発電を奪うことが目的だ」

「『救出』のために来たと彼らは主張しているが、その代わりに行っていることは殺戮と生活の破壊だ。ロシアは我々を凍死させること、我々の生活条件を悲惨なものにすることを狙った。ジェノサイド条約2条に対する違反だ。ロシアは再三にわたって国際法に違反している」

ナチズムというロシアの筋書きについては、セニック大使は次のように語る。「ロシアの考えでは、将来の国家建設を独自に計画する隣国やロシア帝国の植民地になりたくない隣国は全てナチだということになる」

一方、親ロシア派からはロシア政府に対し、より大きな賭けに出て戦争の戦略目標を達成するよう求める声が上がっている。

昨年10月にロシアとクリミア半島を結ぶケルチ海峡大橋(クリミア大橋)が爆発で損壊した後、ロシア国営ニュースチャンネル「RT」の編集長であるマルガリータ・シモニャン氏はソーシャルメディア上で、ロシア政府がどのような対応を取るのかという疑問を口にするように、「それで?」と投稿した。

ロシアの行動に対して違法な侵略行為という焼き印を押している欧米は、ロシアの政府高官、経済、炭化水素産業に対して制裁を重ねることで、世界的インフレ危機と燃料価格高騰の一因を作っている。

この戦争のもう一つの有害な帰結は、地域の農業や黒海からの輸出が妨げられたことで、世界的な穀物不足の恐れが高まり食料価格が高騰したことだ。特に中東やアフリカの輸入に依存する国々では影響が大きく、国連が仲介役として介入せざるを得なくなった。

国連の仲介によりウクライナとロシアの間で合意が結ばれたことでウクライナからの穀物輸出は昨年7月に再開されたものの、それらの穀物の到着を数ヶ月待たなければならない国もあった。エジプト、チュニジア、イエメン、レバノンなどはインフレのせいでパン価格の安定化に苦慮している。

アトランティック・カウンシルのフレデリック・ケンプ会長は、この戦争は政策立案者に対する「警鐘」であり、将来の世代に「多大な影響」を与える決定を下す機会を指導者らにもたらす「歴史の転換点」だと述べた。

しかし、ウクライナへの武器弾薬(最近には現代的戦車も)の供与を含む、この戦争に対する欧米の関与は、ロシアと米国の関係を冷戦以降で最も冷え込ませている。

プーチン大統領は21日に行った年次教書演説の中で、ロシアと米国が2010年に署名した、両国間で唯一残されている核軍備管理条約である「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を表明するとともに、核実験再開の用意があると述べた。ただロシア外務省は、同国は今後も核数量制限を厳格に遵守するとともに、大陸間弾道ミサイルの発射実験に関する事前通告も続けるとした。

米国のジョー・バイデン大統領は20日、キーウを電撃訪問した。侵攻開始以降初となったこの訪問中、同大統領はゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナに対する支援の継続を誓った。

バイデン大統領は22日、ポーランドの首都ワルシャワでNATOに加盟する欧州諸国の首脳らとも会談し、「バルト海から黒海までの東翼全体の抑止・防衛態勢をさらに強化する」ことで合意した。

同じ頃、プーチン大統領はモスクワを訪れた中国の外交トップ王毅氏と会談していた。米国とNATOが、中国がロシアへの武器供与を検討している可能性があるとの懸念(中国は否定している)を表明した後のことだった。

ドイツやイギリスなどの欧米諸国はウクライナに戦闘車両を供与している。(AFP)

会談後に出された声明によると、王氏は「我々は第三者からの脅迫や圧力に屈することはない」としたうえで、ロシアとの「政治的な相互信頼を深め」「戦略的協力を強化」していく意向を表明した。

中国はこの戦争に関して、戦略的同盟国であるロシアとの緊密な関係を維持しながら中立的な立場に身を置こうと努めている。先日には、紛争が「激化し制御不能となることを深く懸念している」と述べた。

ロシア政府は会談後、中国側がウクライナにおける「政治的解決」へのアプローチに関する見解を提示したことを明らかにした。

一方、ニューヨークでは22日、国連総会がウクライナとその同盟国を交えて緊急特別会合を開き、「公正で永続的な和平」を求める決議への支持を呼びかけた。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ウクライナ紛争は「我々が共有する良心に対する侮辱」であり、この1周年は「ウクライナの人々にとっても国際社会にとっても厳しい節目」であると述べた。

この戦争に関して、国際社会は依然として分断されている。昨年10月の国連総会では、ウクライナの一部の州の併合を非難する決議に143ヶ国が賛成票を投じた。ロシア、ベラルーシ、北朝鮮は反対し、中国やインドなど35ヶ国は棄権した。

サウジアラビアやUAEなどの湾岸協力理事会(GCC)加盟国は、この紛争に関して一方への支持表明を自制し、代わりに危機を終結させるための外交を後押ししている。しかし、ウクライナの領土一体性と主権の尊重を求める決議には賛成票を投じた。

ロシアが昨年2月24日に「特別軍事作戦」を開始して以来、約800万人のウクライナ国民が欧州やさらに遠くの地域に避難している。(AFP)

捕虜交換の仲介役を務め、紛争の全当事者との関係を維持してきたサウジアラビアは、今でもロシアとウクライナ・欧米諸国との間の橋渡しをできる立場にある。

双方に消耗が見られるものの、ウクライナ、米国、欧州諸国の当局者は、ロシアが膠着状態を打開するために戦争開始1周年を機に数十万人の軍勢による新たな攻勢を開始するのではと懸念している。しかし、セニック大使は憂慮していない。

同大使はアラブニュースに対し、「数は問題ではないと思う。重要なのは質であって量ではない」と言う。「ロシア軍は自信を持っていたが機能しておらず、人間を砲弾の餌食として使うという第二次世界大戦時の戦術を用いている。ロシアは民間人9000人が住む小さな町ソレダルを占領しようとして2万人以上の兵士を失った。プーチン大統領は国民の命を何とも思っていない」

同大使の考えでは、ウクライナ国民も同じくらい戦い続ける覚悟ができている。「ロシアは何世紀にもわたってウクライナの文化を根絶しようとしてきた。この戦いは300年前から今まで続いている」

「我々は世界で二番目に強いと思われる軍隊に立ち向かっている。これからも戦い、不屈の精神を示していく。我々は勝つ。灯りや暖房なしで過ごすことは厭わないが、ロシアによる支配は御免だ」

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