エルビル(クルディスタン):最盛期にはイラクの主要都市や油田のいくつかを含む国土の約3分の1を支配したダーイシュだが、現在イラクにおけるダーイシュのテロ組織の残党は末期的衰退の段階にあると示す兆候がますます明らかになっている。
減少する人員を補うために新規募集をすることもできず、また大規模な攻撃的作戦を仕掛けることもかなわず、2014年には独自の「カリフ国」樹立を宣言したダーイシュは、今日では過去の勢力のように思われる——少なくともイラクにおいては。
3月12日、イラクのカイス・アル・モハマダウィ将軍は、国内にダーイシュの活動中の武装勢力約500名が残存していると明かした。もっとも、将軍が強調するところによれば、残存勢力は人里離れた砂漠地帯と山岳部から出ることができず、「新規の人員を引きつける能力」を失っている。
翌日、アメリカが主導する連合軍はツイッター上で、イラク治安部隊とペシュメルガ(クルディスタン自治政府軍)が2月だけでダーイシュの戦闘員「少なくとも55名を戦場から駆逐した」として、ダーイシュのネットワークは「依然強い攻撃を受けている」と明らかにした。
イラク文化や歴史、政治を紹介するブログ“Musings on Iraq”(イラクについての物思い)の著者、ジョエル・ウィング氏はイラクでダーイシュが起こした治安関連の事件を追っているが、最近の投稿で、3月に入ってからの事件の記録からは、ダーイシュが「イラクでは断末魔」の状態にあり、「国内ではほとんど活動していない」ことがあらためて分かると書いている。
3月の1週目にダーイシュが原因で生じた事件はわずか3件で、2月最終週の8件から減少している。さらに、2023年に入ってからは、9週のうち8週で治安関連の事件数は1桁を記録している。ウィング氏によれば、2022年も過半数の週でダーイシュによる攻撃は10件未満であったが、この傾向が今年に入ってからも続いていることになる。
「ダーイシュが近いうちに復活するとは思いません」とウィング氏はダーイシュの別名を用いてアラブニュースに語った。「モスルでの敗北以来、挽回するための時間は5年もありましたが、すべての兆候はダーイシュが勢力を挽回するどころか、弱体化していることを示しています」
モスルはイラク第2の都市で、ダーイシュの自称「カリフ国」に併合された中では最大の都市圏であった。ダーイシュは最盛期を迎えた2010年代半ばには、イラクとシリアのそれぞれ3分の1の領土を支配下に置いていた。
イラク軍は数か月にわたる激しい戦闘の末、アメリカが主導した連合軍の支援の下、2017年7月にモスルを奪還した。その年の12月、イラクは対ダーイシュ勝利宣言を行っている。
領土の上で「カリフ国」を失ったダーイシュは、辺境や山岳部の要塞から反乱を起こすようになった。数年間は、ダーイシュが2014年以前の反政府勢力に戻ったものの、またいつ広大な領土を奪取するかもしれないという懸念が続いた。
だが今や、そのような恐ろしい予想が実現する見込みは非常に低いようである。
「彼らは、自分たちの大義のためにイラク人を新たに集めることができていません」とウィング氏は話した。「主な活動は、シリアからイラクへメンバーやその家族を密入国させることと、現在支配している農村部を死守することのようです。もはや攻撃的作戦はほとんど行われず、イラクの大都市からはほぼ姿を消しています」
現在ダーイシュが活動する地域では、人口が非常に少なく、政府の影響力も最小限にとどまるため、彼らは今の状態を今後何年も続けることも可能ではあるが、ウィング氏によると、ダーイシュは「イラクではほとんど力を持たないも同然」だという。
ワシントン研究所の近東政策部門のジル・アンド・ジェイ・バーンステイン特別研究員であるマイケル・ナイツ氏は、今後の展開として2つの異なったシナリオが考えられると話した。
「現在の状況が続けば、ダーイシュはアルジェリアのテロ組織と同じ道を辿ることになるでしょう。分裂して犯罪ギャングとなり、国家を揺るがす力は持たなくなり、時折テロを起こすものの、すぐに忘れ去られるような存在になるということです」と氏はアラブニュースに、ダーイシュを別の呼称で指しながら話した。
「問題は、2011年から2014年の間のように、イラク政府が治安部隊を政治的に利用し、派閥対立を問題として取り上げ、結果としてダーイシュが息を吹き返すことになるか否かという点です」とナイツ氏は指摘した。
ヌーリー・アル・マーリキー元首相の政府は2011年にアメリカが最後の部隊をイラクから引き上げた後、まさにこのような方策を取った。その結果、2014年6月にダーイシュがモスルに入った際、イラク治安部隊は兵力で圧倒的に優勢だったにもかかわらず、不名誉なことに反撃しなかったのだ。
2014年、激しいシリア内戦による混乱の最中、シリアに大きな拠点を得たダーイシュはイラク北部に侵攻した。シリア東部の治安が再び悪化すれば、イラクに縮小して残存するダーイシュが力を取り戻すのではないかという懸念がある。
アメリカ中央軍(CENTCOM)を統率するマイケル・クリラ中将は今月、数千名のダーイシュ戦闘員を収容するシリア北東部の刑務所を視察した後で、これら収容者による「来るべき脅威」について警告を発した。
「シリアとイラクで服役中の者の間には、まぎれもない『拘留中のダーイシュ軍』が存在する」と中将はCENTCOMが出した声明の中で述べた。「仮に釈放されれば、このグループは中東でもその外部でも大きな脅威となりうる」
シリア東部のアルホル収容所にも、ダーイシュの武装メンバーであるとの疑いがかけられた人物の親族数万人が収容されているが、その約半数はイラク市民である。
2022年1月、シリア北東部の都市ハサカのガワイラン刑務所で、ダーイシュの囚人が外部から脱獄を助ける勢力と協力して反乱を起こし、クルド人主体の治安部隊と10日間にわたる戦闘を繰り広げた。ダーイシュはこれと類似の計画をアルホルでも考えていたと言われている。
「アルホルから収容者を脱出させ、イラクに入国させることが彼らにとって最優先事項です。というのも、イラクではダーイシュの大義を掲げても人を集めることが困難になっているからです」とウィング氏は説明した。「ですから、勢力を維持するためにメンバーをシリアの収容所から脱出させることに依存していますが、それによって戦力を高めることにはまったく成功していません」
リスクマネジメント企業RANEで中東・北アフリカを担当するアナリスト、ライアン・ボール氏は、「ダーイシュが将来勢力を取り戻すことが可能になる条件についてよりよく理解する」ためには、ダーイシュが最初に登場した時の状況を思い起こすことが重要だと説いた。
「彼らは権力の空白を埋める形で登場しました。まずは、アメリカによるイラク侵攻で生じた空白、次いで2011年に始まったシリア内戦によるものです」とボール氏はアラブニュースに語った。「過激なスローガンを掲げて地方の不満を吸い上げ、成長することができたのは、競合相手が分裂し、アメリカやトルコ、ロシアといった主要国の注意も引かなかったからです。
現在、イラクは深刻な政治の機能不全と暴力に悩まされていますが、2014年にダーイシュがイラクを急襲する直前のような分裂状態には陥っていません。シリア内戦も沈静化しており、こちらにも彼らが成長する余地はないでしょう」
だが、ダーイシュのような集団を完全に根絶やしにすることは不可能ではないにせよ、イラク当局にとって依然難題である。
「オンラインで採用活動が行われ、局地的な不満が高じて小規模な組織が生まれたり、過激化した個人による攻撃が起きたりといったことは続くでしょう」とボール氏は説明した。「イラクにおける社会契約には亀裂が入ったままであり、強力で持続的な統治に関する合意が成立するまでは、あらゆる種類の過激派がイラクを拠点とするでしょう」