Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

スーダンの軍政から文民主導の民政への移行が最初から絶望的だったと言える理由

スーダン国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍(左)と、同将軍の副官で即応支援部隊(RSF)トップのモハメド・ハムダン・ダガロ将軍。(AFP)
スーダン国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍(左)と、同将軍の副官で即応支援部隊(RSF)トップのモハメド・ハムダン・ダガロ将軍。(AFP)
Short Url:
19 Apr 2023 05:04:25 GMT9
19 Apr 2023 05:04:25 GMT9
  • スーダン専門家のエリック・リーヴス氏:「一つの絶望的な国の中に二つの軍と二人の敵対する将軍が共存することはできない」
  • 軍事的な対立がスーダンの文民統治への移行と経済回復を妨げたとアナリストは言う

タレク・アル・アフマド

ロンドン:スーダンの国軍と即応支援部隊(RSF)の間のここ数日の衝突で少なくとも185人が死亡したことで、軍政から文民主導の民政へ移行するという夢は塵と消え、移行計画は最初から絶望的だった可能性が高いことが明らかとなった。

2019年の出来事を思うと隔世の感がある。現在互いに戦っているまさにその軍隊が、当時は協力してスーダンの独裁的支配者オマル・アル・バシール大統領(当時)を追放したのだから。当時のアナリストは、この国で起こりつつあった文民主導の民政への移行を「一筋の希望」と表現した。

スーダン研究において25年以上の経験を持つ学者のエリック・リーヴス氏はアラブニュースに対し次のように語る。「ほとんどの人は、2019年8月の憲法宣言がいかにしてRSFとスーダン国軍の間に持続不可能な緊張をもたらしたかを無視している。両方がスーダンの正式な軍隊として認められたのだ」

(左)群衆の声援に応えるスーダン国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍。2019年6月29日、ハルツームの双子都市オムドゥルマン。(右)支持者の声援に応える即応支援部隊(RSF)トップのモハメド・ハムダン・ダガロ将軍。2019年6月22日、ハルツーム郊外のアプラグ村。(AFP、ロイター)

国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍は、スーダンの統治に当たる暫定機構「主権評議会」の議長を務めている。一方、RSFトップのモハメド・ハムダン・ダガロ将軍(通称ヘメッティ)はブルハン将軍の元副官である。その両将軍が現在戦っているのだ。

リーヴス氏は語る。「この場合の問題は、一つの絶望的な国の中に二つの軍と二人の敵対する将軍が共存することはできないし、これ(平和的な移行)も期待できないということだ。経済の壊滅的な経済低迷を経験し、酷い栄養失調や失業などなどに苦しんでいる不幸な国民がたくさんいるのだからなおさらだ」

「憲法宣言によって認められている二つの軍事組織のトップ二人が国のトップを務めているのだ。今回のような事態は遅かれ早かれ起こるはずだった」

スーダンで行われている戦闘は、ただでさえ悲惨な同国の人道状況に追い打ちをかけている。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、同国では現在約1580万人の国民が人道援助を必要としている。これは2017年から1000万人増えている。

スーダンの首都での戦闘が3日目に突入し食料危機が起こる中、パン屋の外でパンを求めて並ぶ人々。2023年4月17日、ハルツーム南部。(AFP)

しかし、ここ数日は援助物資の配布が中断している。国連世界食糧計画(WFP)の職員3人が戦闘に巻き込まれ死亡したことで同機関が活動を停止したためだ。それにより、この国に打撃を与えている深刻な栄養失調の影響がさらに悪化している。

リーヴス氏は、「良いか悪いかの話ではなく、悪いかもっと悪いかの話だ」と語る。「二人の将軍の間に対立がある限り、スーダンが文民統治に移行し壊滅的な経済崩壊から回復する可能性が犠牲になるだろう」

2019年にアル・バシール大統領(当時)が打倒された後、2021年10月の軍事クーデターで全ての文民機関が解体され、導入されていた文民・軍の権力共有協定が覆された。国民からの大規模な抗議を受け、軍と文民の当事者らは2022年12月に文民主導の民政を目指す路線への復帰を視野に入れた包括協定を結んだ。

しかし、RSFが国軍に統合されると明記された包括協定をよそに、スーダンの二大軍事勢力の間の権力闘争は続いた。

アル・ブルハン将軍の国軍はこの統合を2年以内に完了するよう求めたが、へメッティのRSFは10年かけて行うべきだと頑なに主張した。

オンライン操作への対処を専門とするメディアテック・スタートアップ「ヴァレント・プロジェクツ」の研究責任者を務めるズーヒル・シマレ氏はアラブニュースに対し次のように語る。「今回の衝突が発生する以前から、移行プロセスの歩みは遅かった」

「協定への署名が行われて2021年10月以降の政治闘争に終止符が打たれると多くの人が考えた。両軍事勢力が比較的協力的な姿勢を示したからだ」

街頭に繰り出し、2021年のクーデターの指導者らに文民政府への権力移管を要求するデモ隊。2022年10月、ハルツーム。(AFPファイル)

移行プロセスに関わった文民は、軍隊の統合だけでなく、農業・商業部門におけるいくつかの主要な(そして利益をもたらす)国軍の保有資産を文民管理下に移行することも要求した。これらは国軍にとって権力と利益の大きな源泉となっている。そのため、リーヴス氏は民政移行の実現可能性に懐疑的だ。

「アル・ブルハン将軍とへメッティが戦っている限り文民統治は実現しない」と同氏は言う。「そして、どちらかが勝っても文民統治への移行は実現しない。彼らが弱体化し、文民が今以上の権力を行使できる立場に立てば話は別だが。しかし文民は無力だ。現時点で文民にできることは何もない」

17日、ハルツームの米大使館が、米国の外交官の車列がRSFに襲撃されたと発表したことで緊張が高まった。これを受けた米国のアントニー・ブリンケン国務長官はへメッティとアル・ブルハン将軍の両方と個別に電話会談し、停戦を訴えた。両者はこれに同意したという。

国軍トップのアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍に忠実な兵士たちを歓迎する市民たち。2023年4月16日、紅海に面した都市ポートスーダン。(AFP)

専門家は、今回の戦闘が本格的な内戦へとエスカレートすることはないと確信している。スーダン国軍は制空権を持っており、RSFよりも戦略的に極めて優位だからだ。

リーヴス氏は、「私はRSFが軍隊としてどのように発展してきたかを見てきたが、空軍は持っていないし、重武装もあまり供給されていない」と指摘する。「高いモチベーションを持った軍隊ではなく、動機は強欲だけだ。文民統治には何の関心も持っていない」

シマレ氏も、RSFには権力の掌握を目指す持続的なキャンペーンを行う意欲もリソースもありそうにないというリーヴス氏の見方に同意する。

シマール氏は語る。「今回の闘争においてはスーダン国軍が優位に立っており、RSFを打ち負かすことに成功するだろう。時間はかかるかもしれないが」

「首都での戦闘はたぶん終わるが、地理的に南に移動すると思う。そこ、つまりへメッティの主要な支持基盤でありRSFの本部があるダルフールで長期的な戦闘がしばらく続くだろう」

国際社会はスーダンの状況を注視し続けている。サウジアラビアの外相であるファイサル・ビン・ファルハーン王子は両将軍に対し戦闘を止めるよう呼びかけている。

特に人気
オススメ

return to top

<