
ベイルート:シリア国内を分断している戦線はここ最近落ち着きを見せているが、バッシャール・アサド大統領と隣国との間で急速に進む関係改善について、国内の両陣営での見方はまったく異なる
政権が掌握する地域の住民はインフレの高まりや燃料・電気の不足などに苦しんでいるが、関係改善によって貿易や投資が促進され、深刻な経済危機が和らぐことを願っている。
一方、反体制派が掌握する北部地域では、大統領の統治との戦いにおいてアラブ諸国を味方と考えていた人々が、孤立して見捨てられているという思いを強くしている。
大統領に対抗する武装勢力を主に支えていたトルコは、数か月にわたってシリア政府と協議を重ねている。直近の例は25日で、トルコ、ロシア、イラン、シリアの国防相がモスクワで会談した。
ダマスカスで仕立屋を営む49歳の男性(ニックネームは「アブ・シャディ」)は、湾岸諸国との関係改善によって経済が回復し、国の再建に弾みがつくことを願っていると語った。
「戦争はもうたくさんです。12年も苦しんできました。できれば、すべての湾岸諸国と関係を改善し、両陣営のすべての人が恩恵を受けられればいいのですが。願わくは、さらなる動きがあり、安全環境などすべてが改善しますように」
反体制派が支配する北部では、関係改善が不安を招いている。反体制派の活動家たちは「アサドとの関係正常化は裏切り」とのアラビア語のハッシュタグを使い、SNSに投稿している。ここ2週間ほど、大統領との関係を修復するアラブ諸国の動きに対し、数百人が抗議活動を行っている。
北西部の非政府組織で働くハリド・ハティーブさん(27歳)は、残っている反体制派の拠点を政権が奪回する可能性に不安を募らせているという。
「平和的なデモに初めて参加した日から今日まで、殺害や負傷、誘拐のリスクに晒されてきました。空爆の犠牲になる可能性もありました」。中東地域でシリア政府との関係修復の動きが見られることは「シリア人の希望を損ない、恥ずべきことで、心が痛む」という。
今月からイドリブでの抗議活動に加わったラシッド・ハムザウィ・マフムードさんはこう語る。「(国連)安保理は期待を裏切りました。アラブ諸国や人権団体、イスラム組織もそうです」
2011年の市民蜂起の際、アサド大統領がデモ隊に暴力的に対処したことで、アラブの各政府はシリアを追放した。その後、国内は内戦状態となった。しかし近年、大統領が国内のほとんどの地域の支配を固める中、隣国は関係修復に動いている。
今年2月6日にトルコとシリアの地震で死者が出ると、その機運はますます高まった。
イタリア・フィレンツェにある欧州大学院を研究拠点としているスイス系シリア人のジョセフ・ダヘーア教授は、アサド大統領が次回のアラブ連盟サミットに招待される可能性を指摘している。仮に5月に招待されなくても、「そうしたことは時間の問題」だという。
シリアの政府高官や政権側の人物は、アラブ連盟への復帰よりも二国間関係の回復の方に意義があると語る。
「この問題に関して、アラブ連盟の役割は象徴的なものに過ぎない。それほど決定的な役割は果たしていない」。議会少数派のシリア社会民族党の政治局に所属するタレク・アル・アフマド氏はそう語る。
AP