
ロバート・ボシアガ
南スーダン、ジューバー:アブドゥルファッターハ・アル・ブルハン将軍のスーダン正規軍とモハメド・ハムダン・ダガロ氏の即応支援部隊の4月15日の衝突から始まったスーダンの危機は、わずか3週間で、500人以上の生命を奪い、30万人近くの避難民を生じさせるに至った。
スーダンの近隣国であるアラブ諸国や中東各国、さらには欧米主要国が戦闘終結を強く求める中、スーダン国民は打開策をむしろ東アジアに求めていると多くの専門家が指摘している。
中国は中東の和平への取り組みにおいて仲介役を果たしてきている。そうした中国の仲介の取り組みで、特に顕著だったのは、4月初旬のサウジアラビアとイランの外交関係の回復での仲立ちやシリア政権とアラブ諸国との和解のための橋渡しである。
最近の中国の外交実績は同国がスーダンの紛争においても和平の仲介役として理想的な位置にあることを示していると、専門家たちは指摘している。
「対スーダンでは、中国は欧米諸国や周辺地域の機構よりも強い影響力を有しています。紛争がさらに深刻化する前に、中国はアラブ連盟の各国と協力して、和平に向けて取り組むことが可能です」と、政府間開発機構(IGAD)主導の和平プロセスに代理人として参加した南スーダンの平和活動家のマナセ・ジンド氏がアラブニュースに語った。
ジンド氏によると、欧米諸国は制裁を課すことを解決の手段としてしまう傾向があるのに対して、中国はスーダンの指導者とこれまでビジネスを行っていることから正規軍とRSFの紛争の終結を促す独自の機会を提供し得るという。
「スーダンの指導者たちは欧米諸国をあまり信用しておらず、中国主導の調停の方が信頼出来ると感じているはずです」と、ジンド氏は語った。
確かに、中国は、1950年代後半まで遡ることが可能なスーダンとの長期にわたる経済的な結びつきにより、現在の紛争を終結させる取引を仲介した上で危機の永続的な解決を図る既得権益を有しているというのが一般的に共有されている見方である。
長年、スーダンの石油産業に多額の投資を行い生産された石油の一部を買い上げた結果、中国はスーダンの最大の貿易相手国の1つとなった。
近年では、中国は投資対象を石油以外のインフラや鉱業、農業にも拡大している。中国は、また、ナイル川のメロウェ・ダムへの出資を行い、スーダンの水力発電開発も支援している。
スーダンのインフラ分野では、中国は、ハルツーム国際空港やハルツーム友好殿堂、青ナイル川のロセイレス・ダムといった主要な建設プロジェクトの支援を行っている。
こうしたプロジェクトは、総合的に、スーダンの運輸とエネルギーのインフラの強化に寄与し、経済発展に貢献している。
換言すれば、現在の戦闘が長引く紛争となり経済的な損失が発生し得ることは、中国がスーダンに張った投資の網が重大なリスクを抱えているということになる。
「スーダンにおける生産が途絶した場合、深刻な影響がスーダンや南スーダンに及ぶのと同時にある程度は中国にも及ぶ可能性が生じます」と、南スーダンのジュバに拠点を置くスッド研究所の研究責任者であるアウグスティノ・ティン・マイヤイ氏はアラブニュースに語った。
先月スーダンで暴力衝突が発生して以来、国連やアフリカ連盟、いくつかの地域機関が停戦と対話を提案し事態の鎮静化を訴えてきた。しかし、これまでの所、停戦協定の実施から数分を経ずして空爆や小火器の発砲が再開されてしまい、希望の持てる展開は皆無となっている。
繰り返される停戦協定違反を互いに非難し合う、スーダンの対立する2つの派閥は、かつては同盟を組んでいた。独裁者オマル・アルバシール元大統領が2019年に排除された後には、アブダッラー・ハムドゥーク首相を中心とした暫定的な軍民合同政権が樹立された。
準軍事組織である即応支援部隊(RFF)との戦闘が継続する中、ハルツーム南部の街路に配置された戦車の近くを歩くスーダン正規軍兵士。2023年5月6日。(AFP)
そして、わずか2年間でアルブルハーンとダガロ(通称ヘメッティ)は結束を固め、ハムドゥーク首相の政権を転覆させた。スーダンの文民統制への復帰の取り組みは新たに始められたが、スーダン正規軍とダガロのRSFの統合についての議論の結果、緊張が高まり、ハルツームやその他の都市で4月15日に爆発や銃撃が発生し、一触即発の状況が現出してしまったのである。
「スーダンが崩壊してしまった場合、武器の拡散を通じて、暴力的な衝突がリビアやソマリアを初めこの地域一帯に広がる可能性があります」と、北京に拠点を置くアフリカの専門家であるカイ・シュエ氏はアラブニュースに語った。
その南西部の国境線でスーダンに接しているリビアとアフリカの角に位置するソマリアは、長期にわたる内戦がいかにアフリカの国家を暴力の悪循環に陥らせさらには世界に悪影響を与え得るかを示す2つの好例である。
ハルツームの大統領付近に参集するスーダンの準軍事組織である即応支援部隊(RSF)。2023年5月1日。(RSFの動画からの静止画像 / ESN / AFP)
リビアでは、かつての独裁者ムアンマル・カダフィの2011年の失脚を機に小火器や軽火器が国内全域に拡散し、数多くの敵対勢力が終わりの見えない争闘を繰り広げている。
武器や弾薬、爆発物の歯止めの効かない蔓延は、リビア国内の紛争の継続の原因となるだけでなく、地域全体にも不安定化という影響を与えている。近隣のチャドやニジェール、スーダンといった諸国は、リビアから国境を越えて来る小火器や軽火器の誤用や集積、非合法な移送を食い止める事に苦闘している。
ソマリアでの内戦とそれに続く国家の崩壊と武装集団の出現は、近隣諸国にリビア内戦と同様の影響を与えている。小火器や軽火器の流用や不正取引は、今日も続くソマリア内戦の主要な原因となっている。
ソマリアからの武器や爆発物の密輸や移送もケニアやエチオピアといった近隣国に強い影響を及ぼしている。アルカイダと繋がりを持つテロリストグループのアルシャバブは、ソマリアから密輸された武器を用いてケニアとエチオピアの両国で激烈な戦闘を行っている。
アフリカ状勢の専門家によると、ソマリアやリビアに何らかの学ぶべき教訓があるとすれば、スーダンの紛争はスーダンの将来だけに留まるとは限らず、潜在的により広い地域の将来にも深刻な影響を及ぼし得るということである。
スーダンでの暴力衝突から逃れ、スーダン / チャド国境線近くのコウフロンの仮設のシェルターの傍に立つ避難して来たスーダンの人々。チャド。2023年5月6日。(ロイター通信)
国連は、スーダン国内の戦闘の結果、80万人が国外待避する可能性があると予測し、差し迫った人道的大災害を警告している。スーダン自体が既に100万人以上の難民と300万人以上の国内待避中の人々を抱えているという事実が、今回の危機を複合的に深刻化している。
スーダンの近隣諸国は貧窮化しており、また、既に膨大な人数の難民を抱え、政治的経済的に不安定な状態にあり、鉄砲水や干ばつに何年も悩まされ続けている。
「皆が平和を求めるのは良いのですが、皆が一役買おうとして調停の大渋滞が起きてしまうことがあります」と、元駐エチオピア米国大使のティボール・ナジ氏はアラブニュースに語った。
ナジ氏は、スーダンの文民統制への移行の取り組みに米国がより協力な支援を行わなかったことを残念に思うと述べた。
「米国がもっと迅速に行動していたら、恐らく(ハムドゥーク)首相の政権は転覆されなかったことでしょう」と、ナジ氏は語った。「とはいえ、最終的にはアルブルハーン将軍とヘメティのどちらも、実際には文民主導の政府など欲していなかったことが現在明らかとなったわけですから、この2人の責任は重大です」
ナジ氏は、中国については、「現在のスーダンの紛争のように突発的な危機の際には立派な声明を出す傾向があります。しかし、エチオピアの最近の内戦の時のように、中国は、他の諸国が実際に調停を行うのを一歩下がって待つ傾向もあります」と評した。
マレーシアのノッティンガム大学のベンジャミン・バートン氏によると、現況では、スーダンの紛争への中国の関与は受動的なものになる見込みが高いという。バートン氏は、危機の規模やスーダンの実態に言及した上で、中国は暴力衝突が鎮静化するまでは関与を控えるだろうと述べた。
「本当に全ては紛争の当事者次第です」と、バートン氏はアラブニュースに語った。「こうした紛争状況は、時として、中国が介入を為し得る能力をはるかに越えてしまうのです」
スーダンにおいて文民主導の政府を確立し民主的なシステムへの移行を促すという、欧米の掲げた賞賛に値する目標も現在では現実的ではないように見受けられる。そして、アフリカの一部には、政治的、経済的影響力を備えた中国が、少なくとも、現在の緊張状態を緩和し得るのではないかと期待する向きもある。
「中国はその外交チャンネルを用いて紛争当事者である両者を交渉の席に着かせることが出来るでしょう」と、アフリカ大湖沼 地域国際会議議会フォーラムのオニャンド・カコバ事務局長はアラブニュースに語った。「中国はどちらかの肩を持つようなことは避けるべきです。そんな事をすれば、現在の危機がさらに深刻化することでしょう」と、カコバ事務局長は付け加えた。
南スーダンのデン・ダウ・デン・マレック外務兼国際協力大臣代理もカコバ事務局長の見解に賛同し、「中国を含めあらゆる国際的パートナーが(スーダンでの戦闘を終結させるために)圧力をかける必要があります」と述べた。