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サハラ以南アフリカからの難民がリビア・チュニジア国境で立往生

チュニジアの港湾都市スファックスでは緊張が高まっており、アフリカ大陸の問題を抱えた他地域から到着した人々の追放を住民たちが求めている。(ロイター通信)
チュニジアの港湾都市スファックスでは緊張が高まっており、アフリカ大陸の問題を抱えた他地域から到着した人々の追放を住民たちが求めている。(ロイター通信)
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16 Jul 2023 02:07:58 GMT9
16 Jul 2023 02:07:58 GMT9
  • ヨーロッパを目指し、数多くのスーダン難民が北西のリビアやチュニジアへと向かった
  • しかし、EUは、チュニジアを移民流入に対する門衛に仕立て上げるべく、同国に経済的インセンティブを提供している

ロバート・ボシアガ

ジュバ:子供を伴った数百人のアフリカからの移民と亡命希望者たちが、チュニジア・リビア国境の人里離れた軍事緩衝地帯で支援も法的保護も得られぬまま立往生している。

この乾燥した土地で、人道的危機が急速に進展しつつある。スーダンを初めとする各母国での暴力や迫害から避難して来た人々が、リビアへの入国もチュニジアへ引き返すことも出来ずに、中途半端な状態に陥ったままになっているのだ。

ここ数日の間にネットに投稿されたビデオには、立往生している数百人に上る大人や子供たちの姿が映っている、援助物資を配布しようとする国連機関が現地への立ち入りを拒否されているため、この数百人の人々は、食料や水、避難所、医薬品も得られないままでいる。

この移民の内の多くは、チュニジアの首都チュニスの南東の港湾都市スファックスで、警察の取締りによって逮捕され、国家警備隊と軍によって300kmの距離を移送され、その後、リビア国境にまで連れてこられたのだ。

スファックスでは数ヶ月前から緊張が高まっていた。アフリカ大陸の問題を抱えた他地域から到着した人々の追放を地元住民たちが求め、その結果、両者の間で暴力行為や衝突が頻発していた。

国連によると、スーダン国内で退避した人々は220万人を越え、それに加えてさらに70万人近くが近隣諸国に避難している。ヨーロッパを目指し、数多くのスーダン難民が北西のリビアやチュニジアへと向かった。

「私は安全を求めてチュニジアに来ました、しかし、暴力や敵意で迎えられました」と、取締りの直前にスファックスから脱出した25歳のスーダン人男性のムハンマド・アハマド・ヤクブ氏はアラブニュースに語った。

ダルフール紛争を生き延びたヤクブ氏は、昨年、故郷の町アル・ファシールで地元の武装勢力からの迫害を受けて、危険な旅に出た。ヤクブ氏は家族が武装勢力に殺害されたのだと語った。

開始以来3ヶ月目となったスーダン紛争により、220万人近くが余儀なく退避している。ヨーロッパを目指す数千人のスーダン人は、リビアやチュニジアへと向かった。(AFP)

スーダンにおける暴力の恐怖から逃れたヤクブ氏は、チャドを経由した後、リビアでは不安定な情勢に巻き込まれ、現地の武装グループに拉致されたという。友人の助けで監禁から救出されたとヤクブ氏は語った。

ヤクブ氏のその次の目的地は、ヨーロッパに近いチュニジアだった。しかし、歓迎されることは無かった。ヤクブ氏や他の退避してきた多数のスーダン人たちは、避難所を見つけたり支援を得るどころか、追放の恐れに苛まされ続けている。

これまでの所、国際援助機関からの支援はまったく受けていないと語るヤクブ氏は、チュニスの国連事務所前の街路で寝泊りしている。

22歳のスーダン人であるマディボ・イスマイル氏も戦禍の恐怖から逃れた後にチュニジアで立往生を余儀なくされている。ヨーロッパでのより良い生活を夢見ながら、イスマイル氏は、リスクを承知で、どこに危険が潜んでいるか分からない地中海をボートで縦断する機会を待っている。

イスマイル氏が受けている心理的ストレスは明らかである。4月15日にスーダンで国軍と準軍事組織の即応支援部隊が戦闘状態となった直後、イスマイル氏は家族と連絡が取れなくなってしまった。

状況の不透明さに日々苦しめられながらも、安全な生活への願いとより明るい未来へのチャンスが前進する決意の推進力になっているのだとイスマイル氏はアラブニュースに語った。

29歳のナディア・アブドゥルラーマン氏もチュニジアに到着したスーダン人たちの1人だ。

危険な情勢にある、リビアやアルジェリアとの国境にチュニジア当局が移民たちを強制的に移送しているという噂が広まり始めた最近数週間、アブドゥルラーマン氏の不安は強まっている。

これまでの所、いずれの取締りも何とか避けてきたアブドゥルラーマン氏は希望を捨てていない。彼女は、「より明るい未来への安全な道筋が見つかる」事を祈っているのだとアラブニュースに語った。

スーダン紛争が、特にダルフールと首都ハルツームにおいて、激しさを増す中、国連や他の援助機関は、悪化する人道状況と退避する人々の激増に対応するための国際的な協調介入を呼びかけている。

国際社会が移民によって提起される複雑な課題と取り組む一方、専門家らは退避を余儀なくされたスーダン人たち特有のニーズと脆弱性への取り組みが肝要だと述べている。

「女性や子供を含むこうした人々は苦しみに耐えています。彼らが切実に必要としている保護と支援を彼らに提供するためには、緊急介入が必須なのです」と、チュニジアの元国会議員のイメン・ベン・モハメッド氏はアラブニュースに語った。

「チュニジア経由のヨーロッパへの移民は、合法、非合法に関わらず常に行われてきました」と、彼女は語り、最近のコミュニティ間の緊張の高まりはチュニジア政府高官による反移民的な発言に由来するのだと指摘した。

「以前にも問題はありましたが、最近までは移民への人種差別や攻撃が著しく高まることはありませんでした」

ベン・モハメッド氏は、食料や水、避難所、医療援助を国境で立往生している難民たちに提供するよう国際社会に対して呼びかけた。彼女は、また、チュニジアが人権関連の国際法を尊重し遵守するよう促すことの必要性を強調した。

「国際社会が沈黙し、激しい非難を行っていない事に非常に失望しました」と、彼女は付け加えた。

この地域の移民問題の専門家たちは、自国の経済への対処から国民の目を逸らすために退避してきた人々を身代わりにしているとして、チュニジアの政治家らを批判している。

ムハンマド・ハムダン・ダガロ中将の到着を待つ即応支援部隊の兵士の機関銃に取り付けられたスーダン国旗。(ロイター通信 / 資料写真)

「移民と難民が同じ地域で類似の状況下で動きが取れなくなったことが以前にもありました」と、ドイツのオスナブリュック大学の上級研究員であるフランク・デュベル博士はリビア国境で発生しつつある人道危機についてアラブニュースに語った。

「現在、私たちが目にしているのは、非アラブ系のサハラ以南アフリカからの移民や難民に対する人種差別的な暴力を扇動し、増々権威主義的になりつつある指導者層です」

「民主化のプロセスが進捗していない事や経済の停滞といった、移民問題の根本的原因に取り組む事が、その緩和に役立つのです」

船旅の危険を冒してでも地中海北岸を目指そうとする移民の流れを食い止めようと四苦八苦しているヨーロッパ各国の政府についても同じことが言い得ると、デュベル博士は語った。

「移民問題の根本的な原因を対象とする包括的な取り組みは、人権を守り、維持可能な経済機会を提供するものでなければなりません」と、デュベル博士は付け加えた。

現地のアナリストらによると、移民排除の措置に対して国際社会の批判が鈍い理由は、こうした動きがEU自体の移民政策と大筋で一致しているからだという。

「ヨーロッパとチュニジアの間で最近合意に至った取り決めでは、移民管理と取締りに焦点が置かれています。つまり、ヨーロッパへの移民を阻むためにEUがチュニジア政府を支援していることが如実に示されているというわけです」と、チュニジアを拠点とするメシュカル・ニュースの創業者兼編集長のファディル・アリリザ氏はアラブニュースに語った。

ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長は、先月、チュニジア政府にたいして「パートナーシップ・プログラム」を提案した。それは亡命希望者や移民をチュニジアのような国に送還することを目的としたヨーロッパの移民改革草案が公表されたたった数日後のことだった。

フォンデアライエン委員長は、9億ユーロ(9億7,100万米ドル)の経済支援策と1億5,000万ユーロ(1億6,850万米ドル)の当座の予算支援をチュニジアに提案した。それに加えて、さらに1億5,000万ユーロ(1億1,790万ドル)が国境管理と密輸対策活動のために追加される見込みであり、北アフリカからヨーロッパへの移民経路上の門衛としてのチュニジアの潜在的な役割が明白に示された格好となっている。

スファックスでの暴力行為からチュニジア・リビア間の軍事緩衝地帯に逃れ、ベン・ガーダンの寄宿学校内の臨時の避難所にバスで移動後、休息する負傷した移民。2023年7月12日。(AFP)

ヨーロッパの提案は、国際通貨基金(IMF)との融資協定に関連付けられたもので、チュニジアを経済危機から脱出させ得るものである。しかし、チュニジア政府は、不人気な改革を要するIMFの協定の条件の受け入れに前向きではない。

アリリザ氏は、各国政府が大量移民の根本的原因に対処し人権の擁護に注力するまで退避や虐待、ヨーロッパへの危険な航海は継続するだろうと語った。

「気候変動やビザの発給拒否もヨーロッパへの危険な旅程を試みる人々の増加の要因となっています」と、アリリザ氏は語り、安全で合法的な移民ルートの必要性を強調した。

紛争から逃れ街頭で虐待に直面している他の数多くの難民たちと同様、当局の敵意と国際社会による看過はヤクブ氏の窮状をさらに深刻にしている。

「状況は悪化していくばかりです。私たちは絶望と不安の中に取り残されています」と、ヤクブ氏は語った。

 

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