ジェッダ:放置された貯蔵船から100万バレルを超える原油を汲み上げ、代替タンカーに移送する国連主導の作業が着実に進展する中、イエメン沖で生態学的・人道的大惨事が発生するリスクは後退しつつある。
専門家が時限爆弾と称する状況を解消するため、1億4,300万ドルをかけた3週間にわたる作業が7月25日に始まった。もし、老朽化が進む浮体式貯蔵積出設備(FSO)セイファー号の状態がさらに悪化するのを許していたら、大量の石油が紅海に流出し、計り知れない環境的・経済的損害をもたらしていたかもしれない。
「114万バレルの原油を積載してイエメン沖に係留中の老朽化したFSOセイファー号で、待望の国連主導のサルベージ作業が開始されるのを目にし、非常に安堵しています」とグリーンピースMENAの事務局長ギワ・ナカット氏は7月28日にアラブニュースに語った。
「現在3日目ですが、着実に前進しています」
国際チームがセイファー号の原油を汲み上げ、セイファー号のサルベージを目的に国連が購入した別の船(ノーティカ号からイエメン号に改名)に移送している。この作業は、数か月にわたる現場での準備作業に続くものである。国連によると、作業は3週間以内に完了するという。
国連開発計画(UNDP)のアヒム・シュタイナー総裁は今週ツイートで、「紅海での原油流出を食い止めるための国連計画において、この極めて重要な段階に到達したことは、国際協力と外交の力を顕著に示す優れた実例です」と述べた。
シュタイナー氏は7月23日のメディアへのコメントで、作業が完了すれば、イエメン号は油田から原油を運ぶ海底パイプラインに接続されるだろうと述べた。
この海域を支配するイラン支援のフーシ派民兵組織が国連チームによる現場への立ち入りを拒否したため、原油回収作業の開始に向けた取り組みは当初遅延に直面していた。数か月にわたる外交努力の結果、最終的に作業が開始された。
原油の所有権と原油の移送先の船舶の所有権をめぐる争いはまだ続くと予想されている。とはいえ、多くのイエメン人はセイファー号問題の進展を明るい兆しと見ている。
2年前にセイファー号の代替船を提案したイエメンの実業家ファティ・ファヘム氏は、「これが和平プロセスの始まりとなることを願っています」とメディアに語ったという。
7月25日、アントニオ・グテーレス国連事務総長は声明で、「本日開始された2隻のタンカー間の原油の移送は、環境的・人道的大惨事を回避するための重要な一歩です」と述べた。
「国連は、世界最大の時限爆弾となりかねない事態を打開するための作戦を開始しました。これは2年近くにわたる政治的な地ならし、資金集め、プロジェクト開発の集大成であり、総力を挙げて取り組むべき任務です」
グテーレス氏は、セイファー号の廃棄と紅海に残る生態系への脅威の除去など、プロジェクトを完了するために必要となる追加資金2,000万ドルを求めた。
47年前に建造された浮体式貯蔵積出設備(FSO)セイファー号は、フーシ派が支配する戦略地域であるイエメンのホデイダ港とラス・イッサ港の北の紅海に係留されている。
1970年代に建造され、後にイエメン東部のマアリブ県の油田から汲み上げられた最大300万バレルの原油を積載する目的でイエメン政府に売却された。
全長1,181フィート、34の貯蔵タンクを持つセイファー号は、国連が原油移送作業を始める前、114万バレル以上の原油を積載していた。しかし、2015年にイエメン内戦が始まって以来、最小限のメンテナンスしか行われていないため、船体主要構造部が腐食し、原油漏れの可能性が高まっている。
国連によると、原油漏れが起きれば、脆弱な海洋生態系や、重要なスエズ運河やバブ・アル・マンダブ海峡を含む世界的な海運の要衝にある沿岸地域社会の生活に甚大な被害が及ぶという。
国連開発計画(UNDP)の広報担当サラ・ベル氏は、流出が起きれば「20万人の生計が瞬時に失われる」可能性が高く、「水産資源の回復には25年かかるでしょう」と述べた。
ベル氏は声明の中で、現在行われている作業は「緊急段階」のものであり、作業の「成功を確実にする」ために全力を尽くしていると述べた。
国連や地方政府、環境保護団体は何年も前から、爆発や原油流出が起これば世界の航路が寸断されるだけでなく、世界経済や海洋環境に壊滅的な影響を及ぼすと警告してきた。
サウジアラビアは7月25日、原油回収作業の開始を歓迎した。「国連がFSOセイファー号の問題を解決するための作戦計画を実施し、114万バレルと推定される原油の回収を開始したことをサウジアラビア王国が歓迎していることを外務省は表明します」との公式声明を発表した。
さらに、FSOセイファー号の原油回収開始を実現し、紅海の海洋安全保障と世界経済を脅かす海洋環境災害を回避した近年の国際努力と国連の努力を高く評価すると付け加えた。
また、「サウジアラビアは、FSOセイファー号問題に対処するために総力をあげて取り組んでいるアントニオ・グテーレス国連事務総長と国連作業チームの活動を高く評価します。また、FSOセイファー号の脅威を終わらせるための援助国からの寛大な財政支援にも感謝しています」と表明した。
「サウジアラビア王国は、(援助機関である)サルマン国王人道援助救援センター(KSrelief)を通じて、FSOセイファー号問題の解決に向けて国際社会を支援するために資金援助を提供した最初の援助国のひとつです」
UNDPによると、原油流出が起きれば、この地域のすべての港が閉鎖され、人口の80%が支援に頼っているイエメンへの食料、燃料、救命医療物資の供給が断たれる可能性がある。
さらに、このような大惨事は、すでに戦争や人道的・気候的危機に見舞われている紅海の生態系や沿岸地域社会に、取り返しのつかないダメージを与えかねない。
国連によると、セイファー号には、世界最悪の環境危機のひとつである1989年にアラスカ沖で起きたエクソン・バルディーズ号事故で流出した原油の4倍の量の原油が積載されているという。これで、起こりうる災害の規模が理解できるのではなかろうか。
「この危険な作業は3週間ほど続く見込みです」とナカット氏は明らかにした。「作業にはリスクが伴います。セイファー号の状況を考えると、この瞬間に、回避しようとしている大規模な原油流出や爆発が引き起こされるというシナリオも考えられます」
「とはいえ、そのようなリスクは、2015年以来メンテナンスもされずに放置されている錆びついた超大型タンカーに原油を放置するリスクと比べれば小さいものです」
「国連とサルベージ事業者であるSMITボスカリスが、必要となるあらゆる安全およびセキュリティの予防策を講じ、緩和計画を策定していると確信しています。乗組員の安全と作業の成功を祈っています」
UNDPのベル氏はさらに、「原油の移送が成功し、第一段階が無事に完了したとしても、老朽化が進むタンカーには粘性の高い油が残留するため、環境リスクは依然として残ります。そのため、国連は次の段階、つまりセイファー号の環境配慮型の船舶解体と原油の安全な貯蔵の段階に進む必要があります。この第2段階のため、緊急の追加資金が必要です」
国連イエメン常駐・人道調整官デビッド・グレスリー氏は7月24日の声明で、原油回収作業だけでは問題解決には至らないことを認め、「イエメン号への原油移送は紅海での壊滅的な原油流出という最悪のシナリオを防ぐものではありますが、それで作業が終わるわけではありません」
UNDPのシュタイナー氏によると、最終段階ではセイファー号は船舶解体ヤードに曳航され、リサイクルされる予定だという。