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イスラエル財務相がヨルダン川西岸地区を統治 批判者は恒久的支配に向けた措置と見る

パレスチナ人統治区域の入り口を示す道路標識に張られた、イスラエルの極右議員ベザレル・スモトリッチ氏(現財務相)の選挙ポスター。ヨルダン川西岸地区の町ナブルス近郊。(AP)
パレスチナ人統治区域の入り口を示す道路標識に張られた、イスラエルの極右議員ベザレル・スモトリッチ氏(現財務相)の選挙ポスター。ヨルダン川西岸地区の町ナブルス近郊。(AP)
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14 Sep 2023 11:09:21 GMT9
14 Sep 2023 11:09:21 GMT9
  • スモトリッチ財務相は占領下の同地区に対する新たな権限を軍から引き継いだ
  • ヨルダン川西岸地区の市民生活を監督する最初の閣僚としての同財務相の役割は、イスラエルによる占領が一時的なものではなく恒久的なものであるという認識を意味する

アサエル、ヨルダン川西岸地区:論争の的となっている司法改革に注目が集まる中、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政府はヨルダン川西岸地区に対するイスラエルの支配を(おそらくは恒久的に)強固なものにするための前例のない措置を静かに講じている。

入植運動の指導者であるべザレル・スモトリッチ財務相は、ネタニヤフ首相との連立合意において、占領下の同地区に対する新たな権限を手に入れた。同財務相は迅速に動いた。入植地に住宅数千戸を新たに建設することを承認し、これまで無許可だった非合法前哨基地を合法化し、パレスチナ人による住宅建設や移動をより困難にしたのだ。

ヨルダン川西岸地区の市民生活を監督する最初の政府閣僚としての同財務相の役割は、イスラエルによる56年にわたる軍事占領が一時的なものではなく恒久的なものであるという認識を意味すると観測筋は言う。

ヨルダン川西岸地区の民政を監督する軍事組織「イスラエル民政局」の元局長であるイラン・パズ氏は、「スモトリッチ財務相が4年間この地位を維持すれば、後戻りできないところまで行ってしまうだろう」と言う。

汚職裁判に直面しながらも政権に返り咲きたいと願っていたネタニヤフ首相は昨年、スモトリッチ財務相などの入植推進派議員に全面的な譲歩を申し出ることで連立政権を発足させた。この連立合意により、イスラエルが支配するヨルダン川西岸地区の60%において、ユダヤ人とパレスチナ人双方による建設を管理する同財務相管轄のイスラエル入植者機関が国防省内に新設された。

人権派弁護士のマイケル・スファード氏は、「これは一種の革命であり、占領下の人々の福祉に法的義務を負う軍から、イスラエルの利益のみにコミットする者たちに権限を移譲するものだ」と指摘する。

スモトリッチ財務相は、入植者の人口を倍増させ、道路や区域を建設し、ヨルダン川西岸地区とイスラエル国内のイスラエル人の生活の格差をなくそうと努めると発言している。その過程で、独立を望むパレスチナ人の希望を打ち砕きたいと考えているのだ。

スモトリッチ氏は財務相として、納税者の資金をヨルダン川西岸地区のインフラプロジェクトに回すことができる。イスラエルの2024年度予算では、イスラエルとヨルダン川西岸地区の接続性を高める幹線道路網のために過去最高の9億6000万ドル(運輸省の全資金の4分の1)が計上されている。入植者はイスラエルの人口の5%強である。

スモトリッチ財務相とその支持者たちはヨルダン川西岸地区をユダヤ民族の聖書の故郷とみなしており、ヨルダン川から地中海までの単一国家を思い描いている。そこでは、パレスチナ人は二級市民の地位を得て静かに暮らすか、さもなくば出て行くことになる。

スモトリッチ財務相の報道官を務めるエイタン・フルド氏は、「我々は住んでいる場所のせいで国が我々を優先してくれないと感じていた。スモトリッチ財務相はそれを変えようとしている」と述べた。

スモトリッチ財務相の新しい入植者機関は現在ヨルダン川西岸地区の土地使用問題を扱っているが、民政局を監督する軍事機関COGATは200万人以上のパレスチナ人に対する特定の責任を保持している。人権団体などは、この民族的境界線に沿った分割を「アパルトヘイト 」と比較している。

イスラエルが1967年の中東戦争で東エルサレムおよびガザ地区とともに占領したヨルダン川西岸地区には約50万人の入植者が住んでいる。国際社会の圧倒的多数はこの入植地を違法とみなしている。

専門家や関係者に言わせれば、スモトリッチ財務相の政策は既にパレスチナ人の苦境に拍車をかけ、暴力的な入植者を増長させ、イスラエル軍部内の混乱を解き放った。最近の入植地拡大はネタニヤフ政権とホワイトハウスとの関係も緊張させている。同財務相はインタビューの要請を拒否した。

元ヨルダン川西岸地区軍司令官のガディ・シャムニ氏は、「スモトリッチ財務相はイスラエルが事態を沈静化させるための唯一の手段である民政局を引き継いだ」と指摘する。「ヨルダン川西岸は爆発するだろう」

国連が発表した数字によると、入植者によるパレスチナ人に対する攻撃の月間平均件数は今年、2022年と比較して30%以上も急増している。また、反入植監視団体「ピース・ナウ」によると、イスラエル政府は入植地における1万3000戸の住宅建設を承認し、無許可で建設された前哨基地20ヶ所を合法化した。これらは同団体が2012年に集計を開始して以降で最多だという。

イスラエル当局はスモトリッチ財務相のもと、パレスチナ人によって無許可で建設された建築物の取り壊しを押し進めている。COGATは7月、パレスチナ人による許可申請の95%以上を却下していることを認めた。

イスラエルの人権団体「ベツェレム」によると、今年の取り壊し件数は、少なくとも2006年以降で最も多かった昨年より僅かに増えている。

一方、入植者らによると、イスラエル当局は無許可のユダヤ人前哨基地の住民を立ち退かせる活動を縮小しているという。

ヘブロンの南、乾燥した丘陵にある前哨基地アサエルに住むシュラミット・ベン・ヤシャールさん(32)は、「この政府は今までで最高の政府です」と語る。スモトリッチ財務相の兄トゥビア氏を含む90世帯が住むこの前哨基地は、9月6日に法的に承認された。

アサエルではリノベーション熱が高まっている。公園にいた母親たちは、がたがたのトレーラーハウスや異音を立てる発電機をコンクリートの家やイスラエルの全国送電網で置き換える計画を夢中で語った。

彼らの隣人であるパレスチナ人(マサフェル・ヤッタと呼ばれる埃っぽい斜面に住む牧畜民)は、イスラエル当局による立ち退かせと入植者による攻撃の増加に直面している。イスラエル軍が接収を計画しているこの田舎地域の住民らは、スモトリッチ財務相とその同盟者らが彼らの地域社会を絞め殺そうとしていると言う。

サミール・ハムデさん(38)は、「私たちは息をするのがやっとです」と話す。先月、彼のラクダ2頭がトリップワイヤーにかかって死んだ。入植者が設置した罠だと彼は言う。住民らによると、パレスチナ人の車や家畜を傷つけるなどの入植者による挑発行為は、政府が彼らに植え付けた、何をしても罪に問われないという感覚を反映しているという。

スモトリッチ財務相とその同盟者らは、入植地建設のペースを速めることも宣言している。政府は7月、入植地建設を進めるに必要な6段階の承認を同財務相と計画委員会の2段階に削減した。

同財務相が率いる政党「宗教シオニズム」のズヴィ・イェディディア・スコット議員は、「これにより、ずっと多くの建設が可能になる」と述べた。

同党は、入植地の住宅の改築や新しい病院・学校の建設のために1億8000万ドルを割り当てることを提案している。当局は、イスラエル人入植者がパレスチナ人の町を回って素早く移動できるよう、数百万ドル規模の新しいバイパス道路2本を舗装している。

これらの道路の1本はハワラを回っている。この町では衝突が多発しており、今年初めには入植者2人が射殺された事件を受けて入植者らが暴れて数十の家や車に放火した。スモトリッチ財務相は当時、この町を「消し去る」べきだ と発言した。

イスラエルが2005年に住民を退去させた4つの前哨基地の一つであるホメシュに新設されたイェシヴァ(神学校)で教鞭をとるラビのメナケム・ベン・シャシャール氏は、「領土からの撤退がテロへの賞金であることを我々の政府はようやく理解した」と言う。

国会議員らは今年、入植者のホメシュ訪問を禁じていた法律を廃止した。最近、50人以上の学生が同地を訪問し、このイェシヴァで揺れながら祈りを捧げた。

このような決定はイスラエル国防軍を動揺させている。入植者らによると、イスラエル軍は5月、新しいイェシヴァを建設するために重機を運ぶ彼らを止めようとした。しかし、スモトリッチ財務相が圧力をかけると、政府は突如として軍に対し、入植者による建設を許可するよう命じた。

かつてヨルダン川西岸地区で指揮を執った退役将軍のニツァン・アロン氏は、「政治階層は軍階層に対し法に従うなと命じた」と語る。

軍とCOGATはこの事件についてのコメントを避けた。しかし、この件について匿名を条件に語ったある治安当局者によると、スモトリッチ財務相の介入によって無許可の前哨基地で計画されていた取り壊しがいくつか中止されたという。

先月、イスラエル当局がヘブロン南部の井戸にセメントを注入し、夏の暑い盛りにパレスチナ人の水源を永久に封印しているところを撮影されたことで、スモトリッチ支持者らと治安志向の軍人らとの間の綱引きが突如として公然のものとなった。パレスチナ人らはイスラエルからの(めったに出ない)許可を得ずにこの井戸を掘っていたのだ。

この動画がソーシャルメディアで拡散されCOGATは不意を突かれたと、この治安当局者は語る。COGATは、今後の貯水設備の取り壊しについては「原則に基づいて調査する」と約束した。

スモトリッチ支持者らは「全てのラインを越えている」とパズ氏は言う。「彼らは何も気にしてはいない」

AFP

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