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イスラエル、歴史の真実を恐れユネスコに憤慨

イスラエルにとって、ユネスコによるエリコの世界遺産認定は、パレスチナを消し去るというイスラエルのミッションを複雑にする (AFP)
イスラエルにとって、ユネスコによるエリコの世界遺産認定は、パレスチナを消し去るというイスラエルのミッションを複雑にする (AFP)
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26 Sep 2023 07:09:30 GMT9
26 Sep 2023 07:09:30 GMT9

ジェリコはパレスチナ人だけのものではない。それは人類すべてのものだ。しかしイスラエルにとって、先週ユネスコがジェリコを「パレスチナの世界遺産」として認定したことは、パレスチナの存在を物理的にも象徴的にも消去するというミッションを複雑なものにする。

イスラエル外務省はこの決定を、ユネスコを政治的に利用しようとするパレスチナ人による「ひねくれた」策略だと述べた。イスラエルは長い間、パレスチナ遺産の一部と解釈できるものをすべて消し去る一方で、おそらくイスラエルだけに属するとされる自己中心的で大部分が捏造された歴史観を植え付けることで、歴史を政治に利用してきたことを考えると、これは皮肉なことだ。

イスラエルはその巨大な軍事力のおかげでパレスチナの土地を物理的に支配することに成功したが、パレスチナの歴史を支配することにはほとんど失敗してきた。アパルトヘイトの壁、軍事検問所、不法なユダヤ人専用居住地は簡単に建設できる。しかし、嘘、半端な真実、省略が散りばめられた歴史の物語を作り上げ、それを持続させることはほぼ不可能である。

これらすべては、ユネスコをめぐる長期にわたるイスラエルと米国の戦いの一部である。2019年、米国とイスラエルは反イスラエルの偏見を理由にユネスコから正式に脱退した。この脱退は、さまざまな米国政府による度重なる脅迫と、2011年のオバマ政権による拠出金の削減という流れを受けたものであった。

しかし、なぜ「教育、芸術、科学、文化における国際協力を通じた平和と安全」の推進者を自称する組織に対して、これほど激しく断固とした戦いを仕掛けるのだろうか?実際、ユネスコは、過去とその遺構や伝承はすべて私たち全員に属する共通の遺産であるという信念に基づいていることから、国連関連のすべての国際機関の中で最も政治とは縁遠い機関に挙げられる。このような主張は世界中のほとんどの国に受け入れられるかもしれないが、パレスチナ人に対するユネスコの差しさわりのない姿勢は、イスラエルにとっては単に異端的なものである。

イスラエルは長い間、パレスチナの遺産の一部と解釈される可能性のあるものをすべて消し去ることで歴史を政治に利用してきた

ラムジー·バロード

ジェリコとテル·アッスルターンは、世界遺産のリストに含まれているというだけでなく、実際のところリストのトップに来るはずである。これはスタンドプレーでも、「ひねくれた」歴史の利用でもなく、単純に、ジェリコは人が住み続けている世界最古の都市であると考えられており、テル·アッスルターンは紀元前1万年まで遡る世界最古の町であるという事実によるものだ。

たとえば、紀元前8300年頃に建てられたテル·アッスルターンにある先土器新石器時代の塔は、夏至を示すために使われていたと考えられている。この塔は6000年近くの間、世界で最も高い人工建造物であった。しかし、これはテル·アッスルターンに関する数多くの驚くべき事実の1つにすぎない。

パレスチナ全土がそのような歴史の宝庫であり、私たち共通の祖先をたどれば、他の文化と融合した古代文明へと行き着き、人類という魅力的なタペストリーを現代に伝えている。

そして、パレスチナの歴史は人類の歴史であるため、厳粛なパレスチナの歴史学者、考古学者、知識人は、その歴史に対して「自分たちのものである」というような民族中心的な考えをほとんど示さず、ゆえに他の文化に対する優位性を主張するようなことはない。「あらゆる考古学的、歴史的証拠は、パレスチナに多くの人々が住んでいたということを示している」と、著名なパレスチナ人考古学者のハムダン·タハ博士は、最近出版された『Our Vision for Liberation』の中で書いている。

パレスチナ人の歴史は「ホモ·サピエンスの初期から21世紀までの期間におよぶが、この歴史を通じた特徴として、多くの戦争、侵略、改宗が挙げられる…しかし、この先住民族は決して完全には排除されなかった」とタハ博士は書いている。博士のコメントを注意深く読めば、パレスチナとパレスチナ人が信頼できる歴史物語に結びつけられるたびに、イスラエルがパニック寸前の恐怖を抱くことを十分に説明できる。

ここでは2つのポイントが注目に値する。1つ目は、「戦争、侵略、改宗」すべてをもってしても、パレスチナの「先住民族」の人口の流れと継続を遮断することはできず、最終的に今日の現代パレスチナ人につながったことである。そして2つ目は、一部の侵略者が先住民族の排除を達成しようとしたが、それらの先住民族が「完全に排除されることはなかった」ことだ。

イスラエルは、単に歴史を書き換え、パレスチナの歴史物語の主役たちを疎外しようとしてきただけではない。先住民族を完全に排除しようと積極的かつ継続的な試みを行ってきたのだ。

数世代にわたるパレスチナ人考古学者は、古代と現代のパレスチナの歴史の多くを蘇らせることに貢献してきた

ラムジー·バロード

しかし、それは失敗に終わった。現在、歴史あるパレスチナに住むパレスチナ人の数は、ヨーロッパなどからやって来たイスラエル系ユダヤ人移民の数と少なくとも同等であり、一部の推計によればそれよりも多いという。

歴史の「排除」部分に失敗したイスラエルは現在、民族浄化と人種分離、つまりアパルトヘイトという二本柱の戦略に頼っている。今やこの行いについては、アムネスティ、ヒューマン·ライツ·ウォッチ、その他多くの国際人権団体による認識が深まっている。

過去の亡霊はイスラエルが直面するもう一つの問題である。タハ博士などの優秀なパレスチナ人歴史学者および考古学者グループは、イラン·パッペ氏をはじめとする勇敢で同様に優秀なイスラエルの歴史家と合流し、パレスチナの歴史とイスラエルの干渉についての真実を明らかにしようとしている。ナクバに続いてイスラエルがでっち上げたものと並行する歴史が浮上したのは、このような立派な人物たちのおかげである。

テル·アッスルターンとは別の「テル」(アラビア語で丘を意味する)が最近発掘された。今月初め、イスラエルの新聞ハアレツは、テル·ケデシュの発掘は、それほど遠くない過去を明らかにするという「この種の初めてのプロジェクト」であると報じた。レバノン国境に近いこのパレスチナ人の村では戦争犯罪が横行し、不運な村民たちはシオニスト民兵に全力で抵抗したにもかかわらず、避難を余儀なくされた。村人たちが二度と戻らないようにするために、イスラエル当局は村全体をブルドーザーで破壊した。

「これは、パレスチナ人がナクバとして記憶している遺産を考古学的に調査することに特化した、イスラエル初の発掘である」とハアレツは書いた。

何十年もの間、パレスチナ人はまさにそれを行ってきた。数世代にわたるパレスチナ人考古学者は、古代と現代のパレスチナの歴史の多くを蘇らせることに貢献してきた。「考古学のルールは、未来を築くために過去を再構築することだ」とタハ博士はいう。

しかしイスラエルとは異なり、タハ博士のビジョンは、「パレスチナの地に住んでいたすべての人々、民族、文化、宗教の声を取り入れる」ことを目指している。この包摂的なビジョンは、軍事的支配と文化の消去を前提としたイスラエルの排他的かつ選択的で、しばしば捏造される「ビジョン」とは真っ向から対立する。

先週リヤドで開催された世界遺産委員会の会合で、ユネスコはパレスチナのビジョンの正当性を認めた。当然のことながら、侵略者は真実を嫌うので、イスラエルは憤慨している。

  • ラムジー·バロード氏は20年あまりにわたって中東の記事を書き続けている。彼は国際的に記事の同時配給を行うコラムニスト兼メディアコンサルタントで、数冊の著書があり、PalestinChronicle.comの創業者でもある。X: @RamzyBaroud
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