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パレスチナ人の大義を支援することは道徳的に不可欠で、犯罪ではない

イスラエル軍の空爆後にガザ地区に立ち上る煙。2023年10月15日日曜日、イスラエル南部から撮影。(AP)
イスラエル軍の空爆後にガザ地区に立ち上る煙。2023年10月15日日曜日、イスラエル南部から撮影。(AP)
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17 Oct 2023 04:10:49 GMT9
17 Oct 2023 04:10:49 GMT9

表現の自由と人権擁護のための発言を基本的信条とする自由で民主的な西側社会で、ハーバード大学の卒業生が、親パレスチナの意見を主張したために就職ブラックリストに載せると脅迫されている。

フランスの内相は、親パレスチナのデモを禁止し、「反ユダヤ主義的行為」を行った外国人全員を国外追放するよう命じた。同様の措置がドイツなどでも導入されている。英国のスエラ・ブラバーマン内相は人種差別的見解を公然と表明したことのある女性だが、警察幹部に対し、パレスチナの旗を振ったり、親アラブ派のスローガンを唱えたりすることは犯罪行為になりうると述べた。 

ハマスによる子どもや年金生活者、市民の虐殺は、胸の悪くなるような行いで、間違っており、パレスチナの大義を損なうものだが、こうした惨状をパレスチナ国家全体のせいにしようとする陰湿な努力がなされてきた。欧米の政治家やメディアは最も悪質と思える親イスラエル的表現を声高に唱えているが、他方では、すでに進行中のガザ市民の大量殺りくに対して、道徳的に明確な発言をする勇気がない。

欧米のイスラエル支援が崇高で神聖なものとして称賛される一方、パレスチナ人への支援はたとえ明確でなくとも疑わしく、危険で、犯罪の可能性さえあるとされる。この紛争は両陣営による長く血なまぐさい残虐行為の歴史であることが、意図的に忘れ去られている。イスラエル人が殺害されるたびに、報復として限りなく破壊的な軍隊による不釣り合いな集団的懲罰が行われてきた。ここ数日、イスラエルの政治体制を無批判に受け入れている人々は、憎悪をあおり、将来の殺りくの舞台を整えたという点で、ハマスの残虐行為に喝采を送った人々と変わらない。

私たちは、両陣営に公平に責任を問う勇気を持たなければならない。

アメリカ、イギリス、ヨーロッパでは、ポピュリスト的なオルタナ右翼の政治家やメディアが、反リベラル文化戦争の延長として、パレスチナ問題を冷笑的かつ道徳的に利用している。緊張の高まりは両陣営の攻撃性を増し加え、ユダヤ教徒とイスラム教徒双方に対する卑劣な攻撃を誘発し、世界中の学校や礼拝所が標的となっている。ダーイシュやアルカイダの勧誘資料は欧米のイスラエル支援を、イスラム世界に対する「十字軍」戦争の続きと描いて悪用している。

ニューヨーク、パリ、ロンドンなどの都市では、親パレスチナと親イスラエルの大規模な対立デモが行われ、地域社会はますます分裂している。穏健派のユダヤ人たちは、ガザへの砲撃にきわめて率直に懸念を表明する一方で、治安維持に明らかな不備がある中、ネタニヤフ首相とその極右過激派内閣が共同体の緊張を沸点にまで高めたと非難している。

真の反ユダヤ主義は非難されるべきものだ。特に、アラブ人とユダヤ人は同じセム系のルーツを持ち、非常に近い関係にある言語を共有するいとこ同士なのだから。ところが、パレスチナの苦境に対する支援は実際には人権と国際正義を普遍的に支持することの必然的な結果であるにもかかわらず、あらゆる親パレスチナ的共感に反ユダヤ主義の汚名を着せ、排除しようとする努力が絶えない。

2つの主権国家の共存というビジョンを共有する穏健派ユダヤ人を含め、パレスチナのような人道的大義を平和的に支持する世界中の人々は、尊重されるべきである。

バリア・アラマディン

10月7日に何が起きたかに関する本物の証言もあるが、メディアやソーシャルメディアは根拠のないうわさ、誤った情報、フェイク映像の洪水を疑いもせずに流し、多くの場合、パレスチナ人を絶滅に値する「動物」や「人間以下の存在」と描く組織的目標を追い求めてきた。ソーシャルメディアのメッセージは、アラブ系イスラエル人の「裏切り者」がガザのフェンス突破を手助けしたと偽り、さらなる反アラブ暴力の舞台を整えた。ここ数日、過激派入植者たちはヨルダン川西岸地区のパレスチナ人に対する致命的な報復攻撃を行った。

ハマスが赤ん坊の首をはねたという伝染性の高いニュースがメディアを通じて広く流布し、ジョー・バイデン大統領はその残虐行為を非難したが、後にイスラエル政府とホワイトハウスはこの件が事実ではないことを認めざるを得なかった。BBCはハマスをテロリストと呼ばなかったとして非難される一方、「イスラエルの戦争犯罪への同意を醸成した」として、親パレスチナ活動家たちからは赤いペンキをスタジオにスプレーされてしまった。

歴史上のどんな権利運動においても、穏健派と過激派が共存していた。その中には、反アパルトヘイト活動家、アメリカの公民権運動、参政権運動、アイルランド共和国運動、そしてもちろんシオニズム運動も含まれる。シオニズム運動は、後のイスラエルの指導者の多くがテロ攻撃の根拠とした大義名分であり、1946年のエルサレムのキング・デビッド・ホテル襲撃に関与したメナヘム・ベギンや、1982年のサブラ・シャティーラ虐殺を監督したアリエル・シャロンもその一人である。 後者の事件は、ここ数日のものをはるかに凌ぐ残忍さを見せた。現在の極右閣僚たちは、バルーク・ゴールドシュテインが1994年にヘブロンのモスクで29人のパレスチナ人を虐殺した事件をたたえた。この行為は、パレスチナ人すべてはどのようにこの土地から追い出されるべきかを示すものとして、シオニストの極右勢力によって称賛されたのだ。

自分の子どもたちが生きているのか死んでいるのか、あるいは人質に取られているのかわからないイスラエルの母親たちの証言には、涙が出た。1982年のイスラエルによるレバノン侵攻の個人的な記憶のためだ。スクールバスが私の2人の娘を家まで送ってくれるはずだったのだが、混乱の中、運転手は娘たちを病院の近くの安全な場所に連れて行ってくれていた。丸一日、娘たちは死んだか、永遠に行方不明になってしまったのだと、気も狂わんばかりだった。狂乱じみたその数時間に、私たちはレバノンを離れて難民となる決心をしたのだ。一触即発の国境地帯から逃れたイスラエル人のどれほどの人たちが、同じように二度と戻らない、あるいはイスラエルを完全に離れることを選ぶのだろう。

過激派を根絶やしにするまでガザを絨毯爆撃するなどという非生産的な試みは、無差別復讐の幻想を抱く、恨みに満ちた新たな世代を育て、結局ヒズボラやハマスのような憎悪に満ちた派閥の力を増し加えて、イスラエルの安全保障を脅かすだけである。暴力は、憎むべき永続的な暴力しか生みださない。

ここ数日、イスラエルの自衛権、国家権、安全保障が声高に叫ばれてきた。実際、ますます多くのアラブ諸国がすでにこうした原則に同意を表明している。パレスチナ人が控えめに求めているのは、自分たちのための同様の権利の一部であり、法的拘束力のある国連決議に基づき、自分たち自身の領土を統治するといったことなのだ。

2つの主権国家の共存というビジョンを共有する穏健派ユダヤ人を含め、パレスチナのような人道的大義を平和的に支持する世界中の人々は、尊重されるべきである。西側諸国は、復讐心に燃える極右シオニストたちをなだめようとして、何百年もかけて苦労して獲得してきた政治的権利、自由、人権擁護の精神を、簡単に捨て去ってはならない。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼放送作家で、中東と英国で活動している。メディア・サービス・シンジケートの編集者であり、数多くの国家元首をインタビューしてきた。
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