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シリアの変化が2024年のブラックスワン・イベントとなる可能性

2024年1月1日、アレッポでシリアの反乱勢力が政府軍にロケット弾を発射した。(AFP)
2024年1月1日、アレッポでシリアの反乱勢力が政府軍にロケット弾を発射した。(AFP)
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06 Jan 2024 04:01:01 GMT9
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「ブラックスワン・イベント」とは、予期せぬことが壊滅的な結果を引き起こす事象を指す。中東の情勢を見ると実に多くのシナリオが描かれ分析されているが、予期せぬ出来事など起こらないとかなりの確信を持って言える。なぜなら私たちはすべてを―そして常に最悪を予期しているからだ。

しかし問題が山積みになってくると、重要な出来事よりも緊急性の高い出来事に注目が集まりがちだ。そこでブラックスワン・イベントを広義に捉え、2024年に起こり得る事件や出来事の中で、多くの人の予想に反して中東地域の力関係や未来を変える可能性のあるものは何か考えてみたい。

ガザの戦争による波及効果で、イスラエルとヒズボラおよびフーシ派との間で緊張が高まり続けている。しかし別の舞台で最悪の事態を引き起こす嵐となり得る国、それはシリアである。

端的に言うと、ガザの戦争には独立したサイロ(ミサイル格納庫)が複数あり、すべての当事者によって既存の交戦規定が守られている状態といえる。だから紛争が中東全域や世界に広がるリスクを抑えられているのだ。このことは、度重なるイスラエルの攻撃に対するヒズボラの反応を見れば一目瞭然である。同じことが紅海の情勢にも当てはまり、何十年も続く「ルール」が激化している状態だ。2016年(米国の選挙年でもある)に米国海軍の指揮艦がイスラム革命防衛隊によって拿捕された後、解放されたエピソードを思い出してみると良いだろう。イラクもこのリストに加えられる。こうしてみると、それぞれのサイロ同士で利害を共有したり争ったりしながら、互いに牽制し合っていることがわかる。

シリアは最後にして最大のサイロであり、予期せぬ結果を生む可能性のある場所だ。この国にはイラン、トルコ、米国、ロシア、中国、イスラエルなど、直接的、間接的当事者すべてが現場に人員を派遣している。

またシリアは独自の交戦規定や奇妙な同盟関係が存在する紛争地帯である。それが最も顕著に表れているのがクルド人民防衛隊(YPG)とアラブ人部族の敵対的な立ち位置だ。前者は米国、後者はトルコが支援しているが、トルコはNATO加盟国でもある。同様にイランとロシアは味方同士であるにもかかわらず、ときおり緊張が生じている様子も見える。2011年以降ずっと、すべての当事者にとって共通の敵であるダーイシュとの戦いが、問題の「冷却剤」の役割を果たしてきた。

しかし現在、シリアは他のどの戦場よりも衝突の激しさと頻度が増してきている。土曜日、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領の軍隊がイドリブ県の混雑したマーケットを標的にし、2人を殺害した。イドリブは現在も反シリア勢力が支配する最後の砦だ。人口450万人のイドリブは、シリア北西部で最も人口密度が高い地域と考えられており、そのうち190万人が国内避難民キャンプに住んでいる。

米国とトルコの不和により、政府に対する脅威となり得る反体制勢力の再浮上が妨げられている。

ハーリド・アブー・ザフル

この攻撃の数日前、トルコはクルド人が支配するシリア北東部に新たに空爆を行うと発表した。イラク北部のトルコ人基地に対して別々に2回攻撃を加え、12人の兵士を殺害したことに対する報復だという。メディアの報告によると、トルコ政府はクルド人武装勢力による攻撃だと非難していた。また、イスラム革命防衛隊(IRGC)の上級軍事顧問ラジ・ムサビ氏殺害から1週間が経過した火曜日、イスラエル国防軍はシリアで標的を空爆したのは、その前日の夜にイスラエル北部を狙ったミサイル攻撃の報復だと述べた。他にもまだある。同じく火曜日に、自由シリア軍とYGPがデリゾール県東部にある7つの地区で熾烈な戦闘を繰り広げた。シリア政府は上記に挙げた分裂により大きな利益を得ることになった。領土全体の支配権を取り戻すことはできなくとも、現政府を維持するだけの余裕はあると自信を回復した。より正確に言うと、敵対側の同盟関係に亀裂が入ったことで、アサド氏と彼の部族に二重のレバレッジが与えられたのである。

米国とトルコの不和により、政府の脅威となり得る反体制勢力の統合と再浮上が妨げられている。そしてロシアとイランの争いによって、シリア政府はさらに自由な決定権を獲得し、ひとつの強国の支配下に置かれずに済んでいる。とはいえ、シリア政府は常に―トップ記事の陰で―イスラエルにとって軽微な軍事的脅威であり続けた。そしてイスラエルは常に最大の敵であり続けるだろう。最後にダーイシュ復興の可能性も加味すると、状況は完全なクモの巣となってシリア政府を保護し、シリアが再び浮上してくることを許すだろう。

結局のところ、これらはすべて(暗黙の了解か否かにかかわらず)地域的な協定であり、これらの協定の変更だけが、秩序の変化を引き起こす触媒となる可能性がある。最もあり得るシナリオは以下の2つだ。1つ目は、米国とトルコの間で合意が成立し、シリア政府は団結した反対勢力の深刻な脅威にさらされ、国が完全な混乱状態に逆戻りするリスクにさらされることだ。2つ目は、ウクライナにおける変化と現在言及されている交渉結果の可能性を考慮すると、米国とロシアの合意が挙げられる。もちろん他にも可能性はあるが、現状ではこれら2つが最も現実的である。

 

もし両方が同時に起これば、シリア政府にとって最大の試練となり、植民地解放と独立の時代以来見られなかったような形に中東の様相が変化するかもしれない。

 ハーリド・アブー・ザフル氏は宇宙に注力する投資プラットフォームSpaceQuest Venturesの創業者。EurabiaMediaの最高責任者、Al-Watan Al-Arabiの編集者を務めている。

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