Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 中東
  • 通貨崩壊により危機に瀕し得るイラン政権の社会的正当性

通貨崩壊により危機に瀕し得るイラン政権の社会的正当性

イラン政権の国際的な孤立は増々深まり、イラン通貨リヤルの価値暴落という深刻な事態が引き起こされた。専門家らは、経済的な問題がイラン国内各地で反体制的な抗議行動の発火点になっていると指摘している。 (AFP)
イラン政権の国際的な孤立は増々深まり、イラン通貨リヤルの価値暴落という深刻な事態が引き起こされた。専門家らは、経済的な問題がイラン国内各地で反体制的な抗議行動の発火点になっていると指摘している。 (AFP)
Short Url:
27 Jan 2023 12:01:29 GMT9
27 Jan 2023 12:01:29 GMT9
  • 抗議行動と政権側からの厳しい弾圧が始まって以来、イラン通貨のリヤルはその価値を29%減じた
  • 通貨安と高インフレの2重の打撃により、生活費危機がもたらされ、 国民の不満が高まっている

ポール・イドン

イラク、クルディスタン、エルビル: イラン通貨は米ドルに対して記録的安値を更新し続けている。観測筋は、この通貨安を、国際的な舞台でイラン政権が増々孤立していることと、EUによって準軍事組織のイラン革命防衛隊に対して最近課された制裁の厳しさの反映と見ている。

昨年9月のジナ・マフサ・アミニ氏 (22歳) の警察による拘束中の死亡に端を発する抗議行動の継続に加えて発生した通貨の暴落には、先月の中央銀行総裁の交代などの措置も効果が無く、2023年中にイラン政権が不安定化しさらには崩壊すらするのではないかという憶測を呼んでいる。

昨年後半に反政府抗議行動とそれに対する政権側の厳しい取り締まりが始まって以降、イラン・リヤルはその価値を29%減じた。1月22日、1米ドルに対して45万イラン・リヤル前後の取引となっており、過去最低値を更新している。

マウント・アリソン大学の政治国際関係学部准教授のジェームズ・ディバイン博士は、抗議運動参加者の残忍な取り締まり、ウクライナとの戦争を行っているロシアへの軍事的支援、2015年核合意の復活の不透明な展望により、イランが政治的な孤立を深め、その結果イラン・リヤルの価値が下落したのだと確信している。

「これらすべては、現政権発足以来のイランの経済計画に巣食う運営ミスと腐敗によって悪化しています」と、ディバイン博士はアラブニュースに語った。

イランの経済状況は現在特に希望の無いものではあるが、リスク情報会社RANEの中東・北アフリカ担当の上級アナリストであるエミリー・ホーソーン氏は、イラク・リヤルの価値の下落は深刻であるものの「前例のないことではまったくない」と解説する。

「高インフレや国際社会からの孤立、投資家と消費者の信頼感の低下により、経済力が低下しています」と、ホーソーン氏はアラブニュースに語った。

リヤル安と高インフレの2重の打撃により、生活費危機が引き起こされ、 その結果、不満が高まり、政権への怒りが掻き立てられている。

イラン国内の一般消費者向け物資の価格は上昇し供給も不足しており、さらに多くの抗議行動が予想されている。 (AFP)

「影の司令官: ソレイマニ、米国、そしてイランの国際的野心」の著者で、ニューヨーク大学の歴史学の博士過程に在学中のアラシュ・アジジ氏は、イラン通貨の下落は「イランにおいて長きにわたって見過ごせない心理的な重荷となり」、政治的、経済的な影響に繋がり得ると述べている。

「例えば、1979年以前のイランを懐かしむ人たちは、当時1米ドルが70イラン・リヤルに過ぎなかったことについて、45万リヤル以上となってしまった現在と対比して、語ることを好みます」と、アジジ氏はアラブニュースに語った。

「賃金上昇はインフレや通貨価値の下落に追いついておらず、実質的な賃金の低下という効果が継続しています」。

「イランには多くのものが輸入されています。そして、輸入品への支払いが個人にとっても企業にとっても増々困難になっているのです。通貨安により、ほとんどのイラン国民にとって、国外旅行も難しくなっています。近隣のドバイやトルコへの旅行すら難しいのです。トルコも通貨危機に陥ったにも関わらずです」。

ホーソーン氏によれば、「貧しく脆弱」な世界経済環境がこれまでよりも現在を困難な状況にしており、「イラン経済へのより一層の外圧」となっているという。

「また、イラン人たちの一部は、政府に対する怒りの高まりを感じています。それはマフサ・アミニ氏の死に関連した抗議行動や最近行われたた組織的な労働者ストライキに反映されているのです。こうしたことが、経済的不安感の一因になっています」と、ホーソーン氏は述べた。

しかしながら、ホーソーン氏は、EUがイスラム革命防衛隊を対象として最近課した制裁が、「ヨーロッパによって他のイラン人やイランの組織に対して課されている既存の制裁がイラン経済を押し下げる圧力以上に、イラン通貨リヤルに対して大きな影響を与えている」かどうかは疑わしいと考えている。

ディバイン博士は、一方、厳しさを増す制裁は、「累積効果を発揮し、政権にとって無視できない影響力を有し始めている」と確信している。

しかし、通貨価値の下落がイラン政権への圧力の増加に繋がっているにせよ、それが同政権の「最も脆弱な箇所」に加えられているとディバイン博士が確信しているわけではない。

「通貨の暴落や制裁がイスラム革命防衛隊にとって最後の一撃となっているという兆しはまだ見えていません」と、ディバイン博士はは言った。「イスラム革命防衛隊はイラン経済の25%から40%を掌握しています。そのため、イスラム革命防衛隊はイラン国内で物資やサービスに依然事欠かないのです」。

この特権的な地位を勘案すると、イスラム革命防衛隊はブラックマーケットや密輸を利用するのに最適な立場なのだととディバイン博士は言う。そして、圧力を確かに感じつつも、その指導者も隊員も、方針を変更したり、政権側から離脱したりすることを考えることはあり得ない。

「イラン政権が消え去るならイスラム革命防衛隊も一緒に消え去ることになります。イスラム革命防衛隊はイラン・イスラム共和国無しに存在意義がありません。さらに、もし政権が変われば、イスラム革命防衛隊の指導層はイラン内外で起訴される可能性が高いのです」と、ディバイン博士は付け加えた。

「イスラム革命防衛隊の下位の隊員たちは、同様のイデオロギー的な確信も無ければ、それほどの特権も享受していないかもしれません。それでも、彼らは平均的なイラン国民よりも恵まれており、彼らにとっても現政権後の将来がどうなるのかについては不確実なのです」。

「つまり、イスラム革命防衛隊と治安部隊を政権から引き離すのは非常に困難だということになります」。

イランへの対応について国際的な合意は高まりつつあるが、そこに中国とロシアは含まれていない。非西欧的な2大国がイラン・リヤルの価値下落を逆転させ得る能力を有しているかについては疑問だ。

「中国とロシアはイランと同じく特定の国や機関から一方的に制裁を課せられることに嫌悪感を持っています。そのため、イランとの取引を継続する見込みが強いです。特にロシアは、ウクライナ侵攻に関連して国際社会の中で孤立しているため、イランとの取引を継続するはずです」と、ホーソーン氏はアラブニュースに語った。

「しかし、それが十分に強い命綱となってイラン・リヤルの価値を反転上昇させるといったことはないでしょう。むしろ、ある程度の貿易や、物資や機材の交換に留まり、経済そのものを救うほどにはならないと考えられます」。

イランは、日々「堅実な」バーレル数の石油を主に中国に売っているものの、それがイラン・リヤルを「生き返らせる」のに十分とは考えにくいと、ディバイン博士は考えている。

さらに、米政府は、イランによる隣国イラクからの米ドルの密輸の取り締まりを開始している。これもリヤルの価値に好ましからぬ影響を与えている。

「ロシアと中国は、リヤルを救い出せないかもしれませんが、イランがこれまでのように経済的に孤立してしまうことが無いようにしていくことは出来ます」と、ディバイン博士は言った。

ホーソーン氏は、2023年を通じて「経済的動機に基づく抗議行動」がイランでさらに頻発すると予測している。しかし、イラン政権が今年や近い将来に崩壊し得るかについては、「経済的困窮によって同政権がさらに不人気になり得るにせよ」、疑わしいと同氏は考えている。

アジジ氏も、また、「イラク政権は長期にわたって厳しい経済危機を生き抜いて来ています。そして今回が例外になるということはありません」と述べている。「政権にとっての問題の数は増えることになりますが、政権崩壊に至ることはまだ無さそうです」と、アジジ氏は付け加えた。

ディバイン博士は、イランの一般消費者向けの物価の上昇と物資の不足を原因とする抗議行動の増加を予見している。それにより、イラン政権の社会的正当性がさらに揺らぎ、支配の維持のために強制執行力にさらに依存することになるとも、同博士は予想している。

しかし、現在の状況がイラン政権にとって転換点となるかどうかははるかに複雑な問題である。

「イラン政権は、現在の程度の社会不安であれば乗り切ってしまうだけの制度的能力と強制執行力を有していると私は思います。まだある程度まではおそらく持ち堪えられるでしょう」と、ディバイン博士は言った。「しかし、政治的な間違いをしてしまえば、支配力を失うかもしれません」。

イランの通貨リヤルは、その価値を29%減じた。 (AFP)

「例えば、抗議行動に過剰に反応し、街頭でイラン市民特に若い女性を殺害し始めた場合などです。反体制派の処刑も反発を引き起こす要因になり得ます」。

「複雑化因子」は「イラン政権の統一性」であると、ディバイン博士は確信している。

「ライシ (イブラヒム、大統領) は、抗議運動参加者に対して厳しすぎると改革派と穏健派から非難され、強硬派からは寛大に過ぎると批判されています」と、博士はアラブニュースに語った。

「やがて、穏健派のメンバーが非難に留まらず政権を投げ出すかもしれません。十分な人数の政権のメンバーがそれに続いた場合、雪だるま式に危機が生じるかもしれません。特に正規軍がそれに加わった場合は可能性が非常に高くなります」。

その一方で、抗議運動の参加者たちはより高度な組織化を必要としていると、ディバイン博士は言う。「多少の騒ぎ」を引き起こすことは可能でも、政権による「国と経済の支配」に実際に挑めるような組織力を抗議運動の参加者たちは有していないように見受けられると、ディバイン博士は付け加えた。

「おそらく通貨危機がそうしたことが起こるきっかけとなるのかもしれませんが、まだ私にはそれが見えていません」と、同博士は述べた。

特に人気
オススメ

return to top