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米バイデン政権のフーシ派に対する稚拙なアプローチ

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17 Jan 2024 01:01:29 GMT9

紅海は既に数ヶ月にわたって監視下に置かれている。フーシ派民兵組織がこの重要な水路の海上航行を脅かし始めて以来のことである。イスラエル船籍やイスラエルに向かう船舶が継続的に標的にされたことが深刻なパニックを引き起こし、数多くの船舶運航者が紅海を避け、より時間とコストを要する迂回路である喜望峰回りのルートを選択する決定を下した。

こうした情勢の展開と世界的な供給路の混乱を、そしてこの水路の戦略的性質と世界市場におけるパニックの拡大を考慮すると、欧米諸国、特に大国からの反発は不可避だった。最近の米英による空爆は既に燃え盛っている炎に油を注ぐ結果となっており、この紅海危機がどのように展開して行くのか、また、空爆がフーシ派の軍事能力に大打撃を与え得るのか、現在多くの議論が交わされている。さらには、フーシ派の活動の激化が、ガザ地区の紛争やイエメン会談、サウジアラビアとイランの和解協定に及ぼす影響といったより広範な関連問題についての議論が活発となっている。

この問題の核心について論じる前に、欧米側メディアには、フーシ派が紅海の海上交通を標的化した動機についての事実誤認や誤解があることに触れて置く必要がある。欧米のメディアでは、イスラエルによるガザ地区への進行と西側諸国による停戦の失敗がフーシ派の今回の行動の主因であるとされている。フーシ派がアラブとイスラムの大義を擁護して直接的な行動を取っているかのように、欧米メディアは報じているのだ。しかし、フーシ派を知る中東地域の者であれば誰であっても、フーシ派の行動の背後にある動機が中東地域を見据えた戦略的計算とは程遠いことを見抜くだろう。

イラン指導部が戦略的方向性を変更し、フーシ派をより重用することが中東地域では懸念されている。

モハメド・アル・スラミ博士

フーシ派は自国内で厳しい状況に置かれている。フーシ派の統治下にあるイエメン国民は、社会経済状況が悪化の一途を辿っている事やフーシ派が良好なガバナンスを実践出来なかった事に怒りを覚えている。こうした現実を前提として、フーシ派は自らを合法的な政治主体として演出し、イエメン和平交渉においてさらに影響力を強めたいという願望から、紅海危機を引き起こし、それをガザ地区の危機を根拠として正当化することが最善だと判断したのだ。紅海での行動を正当化するために便乗出来たという点で、ガザ危機は、恐ろしく惨酷ではあるものの、フーシ派にとっては都合の良い時期に起こったとも言い得るのである。

フーシ派の真の動機について考察してきたが、ここからはフーシ派の行動が前述の様々な問題に及ぼす影響について検討してみよう。

紅海でのフーシ派の好戦的な行動は、ネタニヤフ政権にガザ紛争での方針の転換を強いるものとはなり難い。フーシ派による紅海での船舶に対する襲撃や妨害行為の開始以降も、イスラエルは躊躇なく武力行使や宗教施設に対する侵害行為を継続していることを私たちは目にしてきた。

米バイデン政権は、ガザ危機と紅海の状勢の激化との間に一線を引いて、これら2つの事案を個別のものとして扱おうとしている。フーシ派がそのナラティブや言説の中でガザ危機を大々的に利用している事を勘案すると、ガザ危機と紅海危機を個別に考えることは実際には不可能だという議論も成立し得る。しかし、米バイデン政権は、2つの事案を分離することで、ガザ危機の拡大に対する中東地域における、そして、国際的な懸念を和らげようとしている。

米国のアントニー・ブリンケン国務長官の最近の中東訪問はこうした米国の姿勢を反映したものであり、一部の地域諸国の怒りを招いた。そうした国々は、米政権が臆してその頭を砂の中に隠しているのだと確信しているからである。ガザ危機を解決しさえすれば、フーシ派のナラティブや言説は破綻し、その真の動機や意図が白日の下に晒されるため、フーシ派を即座に孤立させることに疑いの余地なく繋がるはずだとそれらの中東諸国は考えている。

バイデン米政権が、中東地域の安定と安全に資する和解プロセスを見過ごしつつ、地域の声に耳を傾けず、熟考の結果とは言い難いアプローチに固執するというこれまでの米政権と同様の軌跡を辿っているのでないかという懸念を中東地域の多くの人が抱いている。

サウジアラビアは、和解プロセスを率先的に開始し主導してきた。イランとの和解プロセスすらサウジアラビアは開始した実績があるのだ。サウジアラビア政府側の懸念が払拭できなかったり、イラン側の信頼不足の問題を克服するためのさらなる努力要請を行ったりということはあったものの、大使の交換や領事館の開設などサウジアラビは相当な成功を収めてきた。サウジアラビア政府としては、これまでの努力が水泡に帰し、イエメンでの米英による軍事作戦の後始末に追われるような状況は避けたい。イラン指導部が戦略的方向性を変更し、フーシ派をより重用することが中東地域では懸念されている。特にイエメンに対する空爆が継続し、イランがフーシ派の軍事能力が大打撃を被る事を察知してイエメン国内におけるイランの前進防衛戦略の後退が余儀なくされる場合にはその懸念が高まる。

これまでのところ、イラン側は、米英の攻撃を、植民地支配の継続とイエメンの主権侵害であるとして批判している。他方、サウジアラビアは、緊迫した状勢であることを鑑みて自制することをすべての当事者に求めてきた。バイデン米政権は、フーシ派の罠に嵌められてしまったこと、そして、米英の空爆が実際にはイエメン国内、そして中東地域におけるフーシ派の軍事能力と影響力を強化していることを理解する必要がある。

バイデン米政権はもっと抜け目がないと期待したいところだ。しかし、バイデン米政権は、現実からは完全に乖離し、そして、地域の声、特にイエメンやフーシ派と長年対峙してきた湾岸諸国の意見からは遮断されている模様である。

現時点では、イエメン和平やサウジアラビア・イラン協議が頓挫する可能性は無いものの、米英による攻撃が継続すれば、そうした取り組みの決裂への地域的、国際的な懸念が一層高まることに疑いの余地は無い。この可能性を鑑みると、欧米諸国は、イエメンへの支援を通じてフーシ派への対応のみならず紅海危機の解決を図ることを中東地域諸国に一任した上で、イスラエルに決定的な圧力をかけてガザ危機を終結させるという最重要課題に取り組む必要がある。

欧米諸国は、イスラエルに決定的な圧力をかけてガザ危機を終結させるという最重要課題に取り組む必要がある。

モハメド・アル・スラミ博士

米英がフーシ派に対する戦略を欠如していることに加えて、バイデン米政権はイランに対してやや柔軟なアプローチを取っており、いかなる形であれイランとの対決には消極的である。したがって、イエメンの民兵組織であるフーシ派に対するイランの断固とした支援を考慮すると、イランに対処しない限り、フーシ派に対するどのような行動も十全な有効性を持ち得ない。

米国の取り組みを検証してみるとさらに不可解な点がある。スカイニュース・アラビアによると、米国はフーシ派に事前に空爆を通知し、軍需物資や装備、技術機器を移転する時間を与えていたという。この米国の動きについては様々な解釈があり得るが、明確なことは、米政権が対フーシ派戦略を欠いており、現在の取り組み方がフーシ派による紅海の不安定化に影響を及ぼしたり抑制したりする可能性は低いということである。

  • モハメッド・アル=スラミ博士は、国際イラン研究所(Rasanah)創設者兼所長である。X: @mohalsulami
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