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ガザでジェノサイドを行うイスラエルの心理状態

イスラエル軍による爆撃後、遠くハーン・ユーニスの建物の上で煙が立ち上る。2024年2月5日撮影(ファイル/AFP)
イスラエル軍による爆撃後、遠くハーン・ユーニスの建物の上で煙が立ち上る。2024年2月5日撮影(ファイル/AFP)
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07 Feb 2024 10:02:48 GMT9
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イスラエルの政治家モーシェ・フェイグリン氏がテレビのインタビューで「イスラム教徒はもう我々を恐れていない」と語った時、文脈から外れていないとしても、奇妙に思われた。フェイグリン氏が10月25日に行ったこの発言は、パレスチナの「アルアクサの洪水」作戦とその後に起きたジェノサイド(民族集団虐殺)的なイスラエルの戦闘開始から3週間も経っていない。

2012年、イスラエルのリクード党首をめぐりベンヤミン・ネタニヤフ首相に挑戦した元国会議員である同氏はこのインタビューの中で、イスラム教徒の間に恐怖心を復活させるために、イスラエル軍は「即刻ガザを灰にすべきである」と提案していた。

フェイグリン氏はガザ地区について、365平方キロメートルの土地という以上のはるかに大きな意味をもつと認識している。同氏はきちんと理解しているのである。この戦いは戦闘能力だけでなく、認識をめぐる戦い―ガザ住民、パレスチナ人、アラブ人のみならず、すべてのイスラム教徒を巻き込んだ戦いだということを。

10月7日の出来事は、イスラエルは本質的に脆弱な国家であることを露呈させ、アラブ人やイスラム教徒、実際には世界の他の国々に、イスラエルの「無敵軍隊」と思われていた威力は幻想にすぎないという認識をもたらした。

現在、認識の問題がイスラエル最大の難題となっている。フェイグリン氏はいつもの極右的な見方でこの二分論を表現したが、最も「リベラルな」イスラエルの指導者でさえフェイグリン氏の不安を共有している。

107日の出来事は、イスラエルの「無敵軍隊」と思われていた威力は幻想にすぎないという認識をもたらした

ラムジー・バロード

たとえば、イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領が10月16日、ガザには罪のない市民などいないと断定したことで、彼は自国の社会と米国など西側のイスラエルの同盟国に史上最大級の軍事的報復を準備させただけではない。イスラエルの敵と思われている人々の心に恐怖心を復活させたいと考えたのである。

イスラエル公安庁の元長官カルミ・ギロン氏は先週行った最近の発言の中で、パレスチナ人は10月7日のような攻撃を再び行うことはできないだろうと主張した。ギロン氏の発言は合理的な軍事的評価に基づくものと誤解されかねない。しかし、この評価は当てはまらない。理由は単純で、そもそもイスラエルは「アルアクサの洪水」作戦の阻止に無惨にも失敗したのである。

ギロン氏が語っていたのは、心理についてだった。彼の頭の中では、ガザでの紛争は常に復讐のひとつである。パレスチナ人の集団心理からイスラエルに刃向かうという考えそのものを引き出すことを目的としている。

イスラエルの存在とイスラエル軍の力、あるいはイスラエル軍の能力の認識との間の関係性を理解するためには、イスラエル建国のイデオロギーであるシオニズム初期の政治的言説を検証しなければならない。

ネタニヤフ首相のリクード党は、初期のシオニスト思想家、ウラジーミル・ジャボチンスキーがその大半をまとめ上げた、右翼的、実際にはファシズム的なイデオロギーを直接継承している。ジャボチンスキーの政治観は深い民族主義的なものだったが、彼の思想は最終的に宗教的シオニズムのイデオロギー的集団に枝分かれし、あるいは少なくとも影響を与えた。ジャボチンスキーは当時のリベラル寄りのシオニストとは異なり、パレスチナにおけるシオニズムの意図と究極的な目的について明快であった。

「我々とパレスチナ系アラブ人との間で自発的に合意に至ることはない。現在も、将来的展望においてもありえない」。ジャボチンスキーは1923年、『The Iron Wall(鉄の壁)』の中でこう著した。さらに、「すでに人が住んでいる土地に入植したいのであれば、代わりに駐留地(garrison)を提供しなければならない」

ガザで進行中のジェノサイドは、イスラエルが何とかしてパレスチナによる抵抗の代償を大きくしようとして起きたのである

ラムジー・バロード

ジャボチンスキーにとって、すべてはこの格言に集約される。「シオニズムとは入植を進める冒険的体験である。故にその成否は軍事力で決まる」。これ以降、イスラエルは現実または想像上の「鉄の壁」の建設に投資を続けているのである。

ジャボチンスキーの鉄の壁は象徴的なものであった。彼の鉄の壁とは、暴力と容赦ない先住民の服従で強固にした、軍事力でつくられた難攻不落の要塞であり、その先住民の排除を目的として設計されている。

イスラエルの閣僚や有力政治家たちが、10月7日の直後からガザの民族浄化の計画を進めているという事実は、シオニズムがこの初期の考えを決して諦めていないことを示している。実際に、イスラエルにおいてジェノサイドという言葉は、イスラエル国家そのものよりも前から存在する。

しかし、もしジャボチンスキーが生きていたら、自らの継承者のことを心から恥じているだろう。パレスチナ人を檻の中に閉じ込め、拡大し続ける鉄の壁に押しつぶされるままにして、この継承者らは警戒心という切り札を出すという個人的利益を実現させたのである。にもかかわらず、物理的な鉄の壁は10月7日に破壊され、その時から心理的な壁も破壊されたままだ。物理的な損傷は簡単に修復できるが、心の傷を治すのは難しい。

ガザで進行中のジェノサイドは、イスラエルが何とかしてパレスチナによる抵抗の代償を大きくしようとして起きたのである。だから、最後には抵抗が実際には無駄であるという結論に達するかもしれないが、そう上手くはいかないようだ。

だが、イスラエルはパレスチナ人の集団心理に再び恐怖を植え付けることができるのか。そもそも、なぜそのような恐怖がイスラエル存続の前提条件になるのか。

「ユダヤ人国家の廃墟にアラブ国家を建設するというアラブ人の希望が叩き潰されたときにのみ、和平が達成される」と、イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相は先週、SNSに投稿した。「アラブ人」はいかなる人の破滅も求めていないにもかかわらず、パレスチナ国家の構想そのものが、人種的純度というシオニストの幻想を自動的に破壊することになると、スモトリッチ氏は信じているのである。

スモトリッチ氏がアラブの政治的言説については語らず、アラブの「希望」についてどのように語ったのかについて注目すべきである。パレスチナにおいて正義は実現可能であるというパレスチナ人とアラブ人の集団的認識が問題だと、異なる角度から言っているのである。

繰り返すが、このような認識は10月7日の出来事とは何ら関係ない。実際、ネタニヤフ首相がこの紛争の3カ月前、主権国家樹立というパレスチナ人の希望を「排除しなければならない」と発言した時は、スモトリッチ氏と同じ考えをさらに露悪的に説明している。これは現在、ガザとヨルダン川西岸で実行に移されている。

今回、イスラエルがさらに極端なジャボチンスキーの鉄の壁戦略をとっているのは、ネタニヤフ首相の言葉を借りれば、イスラエルが「国の存続をかけた戦いの真只中にある」と支配層が本気で信じているからだ。ネタニヤフ首相の言う「存続」とは、人種差別主義者、人種至上主義者、入植者による入植地拡大、暴力の独占の状態を維持するイスラエルの能力を指している。イスラエルはこれを抑止力と呼んでいるが、世界中の多くの国や法律の専門家はこれをジェノサイドと呼んでいる。

このジェノサイドでさえ、実際には、パレスチナ人が反撃するだけでなく、最後には勝利することができる主体性を持っているという新たな認識を変えることはほぼないだろう。

  • ラムジー・バロード博士はジャーナリスト、作家で、パレスチナ・クロニクルの編集者。「イスラムと世界問題センター」の非居住の上級特別研究員でもある。最新刊はイラン・パッペ氏との共編著『Our Vision for Liberation: Engaged Palestinian Leaders and Intellectuals Speak OutX @RamzyBaroud
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