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ラファ攻撃、バイデン氏とネタニヤフ氏の脆弱な関係を壊す恐れ

2023年10月18日、イスラエル・テルアビブで会談するジョー・バイデン氏とベンヤミン・ネタニヤフ氏。(ロイター)
2023年10月18日、イスラエル・テルアビブで会談するジョー・バイデン氏とベンヤミン・ネタニヤフ氏。(ロイター)
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14 Feb 2024 07:02:01 GMT9
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イスラエルがガザ地区のエジプト国境近くに位置する人口密集地ラファへの地上攻撃を計画していることで、ジョー・バイデン米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との関係は転機を迎える可能性がある。ネタニヤフ氏は、140万人以上のパレスチナ人が避難し、凄惨な状況下で生活するラファへの侵攻計画に対する米国の警告を無視し、ホワイトハウスの怒りを買っている。

バイデン氏はすでに、イスラエルによる4か月間のガザ攻撃について、28,000人以上のパレスチナ人が死亡し、民間インフラの少なくとも60%が破壊され、180万人以上の人々が家を失い、避難生活を余儀なくされていることに言及し、イスラエルの対応を「度を越している」と形容するなど、トーンを変化させている。また同氏は、非公式にではあるが、人質の解放と交渉による長期停戦を実現しようとする米国の試みに対するネタニヤフ氏の拒絶を、汚い言葉で表現したと伝えられている。ネタニヤフ氏は、同氏がハマスの「妄想的な要求」と呼んでいる、条件付き停戦とイスラエルのガザ撤退を含む要求を拒否し、決定的勝利を手にするためにラファに攻め入ることを誓った。

イスラエルはラファで地上作戦を計画していると発表したが、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトだけでなく、EU、英国、国連もこれを受け入れていない。すべての国が、そのような侵攻は恐ろしい人的被害をもたらすと警告している。ラファはテント村と化し、何万人ものガザ人がガザ市、ジャバリア、ブレジ、その他の難民キャンプや、イスラエルがハマスの主要な作戦本部を壊滅させ、数千人もの戦闘員を殺害したと発表したハーン・ユーニスから逃れてきている。イスラエルは現在、ラファに入り、ハマスの最後の4個大隊を排除する必要があるとしている。また、イスラエルの人質のほとんどがラファで拘束されているとみている。

今やラファに100万人以上のガザ人が住むようになったことを受け、ネタニヤフ氏は軍に大まかな避難計画の作成を命じた。同氏はラファの住民をガザ北部に向かわせるよう提案したが、国連やその他援助機関は、北部の大部分は人道援助が届かない荒れ地になっていると警告した。すでに栄養不良や病気に苦しんでいる膨大な数の民間人を移動させる計画は、軍が民間人の安全を最優先にしているというネタニヤフ氏の主張を否定するものだ。

最近、数百人ものパレスチナ人が、いわゆる安全地帯に逃げ込む際にイスラエル軍に殺害されている。

しかし、バイデン氏とネタニヤフ氏の関係を緊張させているのは、流血の恐怖だけではない。10月7日のハマスによる攻撃以来、バイデン氏はイスラエルへの明確な支持とバランスを取るため、二国家共存、すなわちパレスチナ国家の創設実現に向けて明確な道筋を開くことを約束した。ネタニヤフ氏はバイデン氏のこの前提を一蹴し、イスラエルがヨルダン川西岸の全領土を全面的に支配することを誓った。

さらに同氏は、ガザは将来のパレスチナ国家の一部であり、ハマスの敗北後はパレスチナ自治政府が後を引き継ぐべきだというバイデン氏の提案も一蹴した。ネタニヤフ氏は、イスラエルがガザを完全かつ無期限に治安維持することになると断言している。同氏の極右連立政権は、ヨルダン川西岸地区でも治安維持作戦を実施し、数百人のパレスチナ民間人を殺害し、インフラを破壊し、ユダヤ人入植者が暴れ回ってアラブ系住民を恐怖に陥れている。

イスラエルの過激派閣僚は、パレスチナ自治政府を弱体化させ、資金を枯渇させる措置をとっている。同時にネタニヤフ首相自身は、パレスチナ自治政府を創設したオスロの歴史的過ちを繰り返さないと述べている。

バイデン氏はアラブの同盟国の圧力に直面している。エジプトにしてみれば、ラファ攻撃で数万人のパレスチナ人が国境を越えてシナイ半島に押しやられることになるのはほぼ確実だ。そのため、エジプトは国境近くに戦車と防空システムを配備しており、懸念材料となっている。また、エジプトはイスラエルに対し、いわゆるフィラデルフィア回廊を支配することは容認しないと伝えている。この最近の警告は、いかなる違反も両国間の平和条約の停止につながりかねないことを示唆している。

バイデン政権は、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉を再開させることで、ネタニヤフ氏をその気にさせようと考えていた。しかしサウジアラビアは、イスラエルがまずガザの紛争を終結させ、パレスチナ国家創設への明確な道筋を約束しなければ、そのような会談を開始することはできないと強調し、ワシントンの期待に水を差した。

アラブの米同盟国は現在、米国に逆らって恥をかかせ、いら立たせているネタニヤフ氏に対してバイデン政権は影響力を持っていないと考えている。そして、特にイスラエルによるガザでの犯罪行為が民衆の感情を煽り、レバノン南部、紅海、イラク、シリアで緊張を高めている中、地域の緊張緩和を望んでいる。

しかし、バイデン氏にとってイスラエルの戦争は、決定的な選挙の年における国内問題でもある。世論調査によれば、民主党の若い有権者は圧倒的にバイデン氏のイスラエル支持に反対し、即時停戦を支持している。

世論調査はまた、バイデン氏がガザ紛争のために、11月にアラブ系米国人やイスラム系米国人の票を失うおそれがあることを示している。

一方、国際司法裁判所が先月下した初めての裁定は、イスラエルの最も親密な同盟国、特に米国に大きな打撃を与えた。同裁判所は、イスラエルが行ったと南アフリカが主張する行為の少なくとも一部は、ジェノサイド条約の規定に該当する可能性があると結論づけた。そして、イスラエルに対し、ガザの民間人を保護し、国際法を遵守する措置を講じるよう要請した。また、そうした措置を講じたことを示す報告書を2月23日までに提出するよう求めた。

しかし、イスラエルのガザでの行動は、同裁判所の裁定後も変わっていない。無差別爆撃、民間人への狙撃、住宅や学校、モスク、避難所、病院の爆破によって、裁定後も数千人もの民間人が殺害されている。また、救命援助物資の輸送も妨げられている。

ネタニヤフはバイデンこの前提を一蹴し、イスラエルが全領土を全面的に支配することを誓った。

オサマ・アルシャリフ

ネタニヤフ氏に圧力をかけようと、バイデン政権はヨルダン川西岸の過激なユダヤ人入植者に制裁を課した。そして先週、アメリカの軍事援助に人権に関する条件を付ける指令を出した。この指令は、民間人の国際的保護に違反した国に対する軍事援助を速やかに打ち切ることを認めるものとなっている。

にもかかわらずネタニヤフ氏は反抗的な態度を崩さず、バイデン氏の懸念に無関心なままで、自身の政治的命運が今やガザ攻撃の成否にかかっているイスラエル国内にのみ関心を向けている。国際刑事裁判所による起訴の可能性は言うに及ばず、たとえそれがバイデン政権との不和を意味し、イスラエルと西側同盟諸国との関係に深刻な傷が付くとしても、政治的・経済的コストにかかわらず、完全な勝利こそがネタニヤフ氏の唯一の関心事なのである。

仮にバイデン氏が本気で厄介なネタニヤフ氏に対峙するにしても、盤石とはいえないバイデン氏が先に弱気を見せ、米議会でイスラエルの味方がバイデン氏に救いの手を差し伸べることにネタニヤフ氏は賭けている。同氏の最初の一手はうまくいっているようだ。

  • オサマ・アルシャリフ氏はアンマンを拠点とするジャーナリスト、政治評論家である。X: @plato010
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