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「OPECプラス」はすぐに増産要求に応じるべきではない

ロイター通信のイラスト写真
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14 Aug 2021 07:08:26 GMT9
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コーネリア・メイヤー

原油供給が逼迫している際や、原油市場が暴落している際に、米政府が石油輸出国機構(OPEC)に対し増産を要請することは、今に始まったことではない。これまで歴代米大統領、ジョージ・H.W. ブッシュ氏、ビル・クリントン氏、ジョージ・W・ブッシュ氏の3人は、原油市場が逼迫している際に、OPECに対し原油増産を要請した。新型コロナウイルスのパンデミックが発端となり原油市場が崩壊し、米WTI原油先物価格がマイナスを記録した際に、ドナルド・トランプ前大統領が、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国でつくる枠組みの「OPECプラス」に対し、大幅な減産を迫ったことは有名な話である。水曜日、米国のジョー・バイデン大統領は、OPECプラスに対し、原油の増産を要請した。

バイデン氏が懸念しているのは、特に米国で、いわゆる「ドライブシーズン」が本格化する中で、ガソリン価格が高騰することである。パンデミックで経済活動が事実上停止した2020年4月以来初めて、米国では人々が再び国内を移動し始めた。

米国政府は、他の政府と同様、自国の利益を第一に考えており、バイデン大統領、ジェイク・サリバン国家安全保障顧問、ブライアン・ディーズ国家経済会議委員長は、商品価格の高騰に起因するインフレを懸念している。特にディーズ氏に関しては、米連邦取引委員会のリナ・カーン委員長に対し、原油価格の変動に対抗するため、あらゆる手段を講じるよう働きかけたほどである。これらのことは、バイデン大統領が国民に約束した「ガソリン価格を手頃な金額に保つ」という文脈で考えなければならない。

また、サリバン氏の場合は、イランとの核合意を巡る協議の進展が予想よりも遅れているという懸念も反映されているだろう。核協議の遅れは、最大日量100万バレルの原油が予想よりも遅れて市場に出回ることになることを意味する。また、米国のシェールオイル生産量の回復は予想以上に遅れている。

つまり、米国政府という立場から状況を見てみると、ガソリン価格の高騰に対する違和感を理解することができる。原油市場は非常に逼迫していると言われており、改善の兆しはほとんど見られない。また、商品価格の上昇によりパンデミック後の経済回復が阻害されるのではないか、という懸念も理解できる。

OPECプラスは23の主権国家で構成されており、それぞれの国家は、米国と同様に、自国の国益、国家予算のバランス、国民や経済の福祉を第一に考えなければならない。

コーネリア・メイヤー

しかし、OPECプラスの視点から見ると、状況は異なって見えるかもしれない。昨年の4月、OPECプラス加盟諸国は日量970万バレルの減産措置を行い、原油史上最悪の月となり、多大な経済的損失を被った。サウジアラビアはOPECプラス加盟諸国の中で最も被害を受けた加盟国である。サウジアラビアは今年初旬、原油市場の安定化のために日量100万バレルの追加自主減産を行った。

それから半年経った今、状況は変化している。スエズ運河以東では、感染力の高いデルタ型が依然として経済回復の脅威となっているが、ワクチン接種率の高い米国などでは健全な経済成長を遂げている。先月開催されたOPECプラスの閣僚会議では、毎月日量40万バレルずつ生産量を回復することが決定された。これにより、OPECプラスの原油生産量は2022年半ばまでにパンデミック以前の水準に回復し、今年末までには世界の生産量の約2%に相当する日量200万バレルまで生産量を回復させる予定である。

しかしバイデン政権は、これでは遅すぎると主張している。市場が厳しい状況にあることを考慮し、米政権の視点から状況を見ると遅すぎるかもしれない。しかし、サウジアラビアのエネルギー大臣を務めるアブドル アジーズ・サルマン王子が何度も繰り返し強調しているように、OPECプラスはこれまで原油市場のリバランスに対して一貫して慎重なアプローチをとってきた。サルマン王子は、新型コロナウイルスに関する世界の動向を把握してから行動を起こしたいと考えている。

デルタ株が世界経済にどのような影響を与えるかについては、まだ明確な見通しが立っていないため、慎重なアプローチが必要であることは間違いない。中国、インド、日本など、一部の主要国ではワクチン接種率が低く、これも懸念事項となっている。ゴールドマン・サックス社は、今後数ヶ月間の中国の原油需要予測を日量100万バレル引き下げた。これらのアジアの巨大企業は、多くのOPECプラス加盟諸国にとって重要な顧客である。それに加えて、OPECプラスにはチェック・アンド・バランスの仕組みが組み込まれている。OPECプラス加盟諸国は、2022年末まで月1回の頻度で会合を行い、生産戦略の軌道を再確認することに合意した。9月初旬に開催される次回会合で、世界経済の回復状況を確認することになる。

OPECプラスは23の主権国家で構成されており、それぞれの国家は、米国と同様に、自国の国益、国家予算のバランス、国民や経済の福祉を第一に考えなければならない。1年半前に崩壊した原油市場を回復させるため、23カ国のOPECプラス加盟国はこれまで多くの困難を乗り越えてきた。2020年4月の状況と比較すると、現在の問題はまだ乗り越えることができる問題だろう。

コーネリア・メイヤー氏は、投資銀行や産業界で30年の経験と、博士号を持つエコノミストである。

メイヤー氏はビジネスコンサルタント会社Meyer Resourcesの会長兼代表取締役を務める。Twitter: @MeyerResources

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