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世界の大国は、宇宙安全保障への取り組みを協力して開始しなければならない

米国は自国の衛星の安全性を懸念しており、衛星の能力を保護し更新するための措置を講じている。(AFP)
米国は自国の衛星の安全性を懸念しており、衛星の能力を保護し更新するための措置を講じている。(AFP)
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22 Feb 2024 01:02:40 GMT9
22 Feb 2024 01:02:40 GMT9

2月第3週、米下院情報委員会のマイク・ターナー委員長の声明により、ワシントンは沸き立った。ターナー委員長は、米下院情報委員会が「米国の国家安全保障上の重大な脅威」に関する情報を有していることを明らかにしたが、それが何なのかについては開示しなかったのだ。ターナー委員長は、ジョー・バイデン米大統領に「その脅威に関連する全ての情報を機密解除する事」を要請した。

ターナー委員長の声明は、ジム・ハイムズ下院議員の表現を借りると、「地獄の全てが解き放たれた」かのように不気味だった。ハイムズ下院議員は、「ウエストバージニアの丘に向かう必要があるかどうか、電話が何本もかかってきた」事を明かした。ウエストバージニアの丘とは、冷戦時代の米国政府の核戦争発生時の隠れ家を意味する。

マスメディアは、その脅威とは「ロシアの対衛星核兵器」だと即座に報じた。その結果、衛星破壊の実験という問題が戦略的に不安定な現代における宇宙安全保障関連の議論の最前線に浮上したのだった。

この件に関する報道は混乱に陥っている。ロシアが宇宙に投入し得る「核兵器」について米政府関係者が恐れをなしていると述べる人々もいれば、ロシアは「この計画の完了には依然程遠い」、またはそうした核兵器の使用は「今すぐというわけではない」と言う人々もいた。

パニックに陥りつつある中、米政権は迅速に状況を鎮静化した。国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、ロシアが衛星攻撃兵器という「不安を感じさせる」軍事的能力を有しているという情報を米国は持っていることを認めた上で、そうした兵器は未配備であり、「いずれかの国家の安全に対する即時的な脅威」ではなく、「地球上での物理的破壊を引き起こす」ことも無いと明言した。

あらゆる事柄を政治闘争に持ち込もうとする米議会と米政権の傾向は、目前の真の問題に影を落とした。

アマル・ムダラリ博士

カービー報道官はその発言の中で核兵器に言及しなかった。マイク・ジョンソン米下院議長もこの脅威を重要視せず、アントニー・ブリンケン国務長官も、また、「これは実戦配備されている軍事能力ではありません」と述べた。しかし、ほんの数日後、ブリンケン国務長官は、ミュンヘン安全保障会議においては、その対衛星核兵器は、中国とインドの外相に問題として提起するのに十分現実的な脅威であると考えたのだった。ロシア側は、宇宙における新たな核能力に対する米国の警告を「悪意に基づく捏造」と表現した。

ターナー委員長の所属する共和党の同僚議員たちは、ターナー委員長の行った情報開示を「無謀」だとした。アンディー・オグレス下院議員は、ターナー委員長には隠された動機があると非難し、同委員長の情報開示はウクライナへの資金の確保を目的としたものだったと述べた。オグレス下院議員は、また、議会においてその更新が反対されている外国情報監視法第702条の可決を保証しようとしているとして、ターナー委員長を糾弾した。

あらゆる事柄を政治闘争に持ち込もうとする米議会と米政権の傾向は、宇宙安全保障という目前の真の問題に影を落とした。人工衛星、そしてその機数の増加と先端技術の数々によって、将来の宇宙戦争への懸念が高まりつつあり、スペース・ドット・コムの発表によると、米国は、最近数ヶ月間、ロシアと中国の両国が宇宙を「戦闘領域」に変貌させようとしていると警鐘を鳴らしているという。

米国は自国の衛星の安全性を懸念しており、衛星の能力を保護し更新するための措置を講じている。偶然とされてはいるが、スペース・ドット・コムによると、宇宙におけるロシアの新「兵器」についての報告書が発表されたのと同日に、「ミサイル発射の探知・追跡」が可能な衛星6機を米国宇宙軍が打ち上げたという。

ニューヨーク・タイムズ紙は、米国は「中国やロシアが開発した宇宙における脅威に対抗するために、より小型で安価な衛星群を軌道投入する」新システムに移行しつつあると報じた。この新しいシステムは、小型かつ安価な衛星群で地球低軌道を「覆う」ことを中核としたものだとニューヨーク・タイムズ紙の記事は述べている。

対衛星兵器は、大国間がしのぎを削る宇宙を舞台として、開発が進められている。ロシアを初めとして対衛星兵器を既に配備している国もある。

ロシアの対衛星兵器の実験能力は良く知られている。最新の実験は2021年に行われ、ロシアの古い衛星1機を軌道上で破壊した。この実験は、地球低軌道上に追跡可能なスペースデブリを1,500個以上発生させ、国際宇宙ステーションを危険に晒した。これらの宇宙ゴミは、今後数年間にわたって他の衛星や宇宙船の脅威となり続けるだろう。

米国や中国、インドも破壊的な対衛星実験を実施している。これらの国々も数千のスペースデブリを作り出し、宇宙の安全性と持続可能性への脅威を増大させているのだ。

米国は、最近になって、宇宙の安全性を確保し、スペースデブリの発生や宇宙物体に対する深刻な影響を阻止する事を目的として、対衛星実験を中止することに非常に前向きな姿勢を見せている。

2022年12月、米国は国連総会の説得に成功し、対衛星ミサイル実験の一時禁止を求める決議案を圧倒的多数で可決させた。150ヶ国以上が賛成票を投じ、中国やイラン、ロシアを含む9ヶ国のみが反対し、棄権した9ヶ国にはインドが含まれていた。

米政権も、また、「破壊的な直接上昇対衛星ミサイルの実験を行わない」事を誓い、片側的な一時停止を確約した。

ロシアが核兵器を宇宙に配備しつつあるという見解が正しかったとしたら、危険度は次のレベルへと上がる。

1960年代に米国とロシアのいずれもが宇宙での核兵器実験を行い、その後、協議が開かれ、核兵器その他のあらゆる種類の大量破壊兵器の宇宙への設置を禁じる宇宙空間条約が1968年に締結された。

米国とロシアの間の「戦略的安定」対話がウクライナ情勢が足枷となって保留されているタイミングで、このロシアの対衛星兵器についての申し立てはなされた。冷戦の最中であっても米国とロシアは意見の相違を整理し、軍備管理体制について合意することが可能だったことを鑑みると、ロシアが戦略的安定対話を凍結したことは残念である。この対話の拒否は、ロシア政権が述べたように、「米国が批准しなかった」事を理由として、ロシアが包括的核実験禁止条約の批准を「取り消し」た後に決定された。

しかし、ロシアの意図に対する懸念はあるものの、専門家たちはロシアが宇宙で核兵器を使用するのかという点については疑問を抱いている。セキュア・ワールド財団のブライアン・ウィーデン氏は、ロイター通信の取材に応えて、ロシアが「核兵器を起爆させれば、同国の信頼は損なわれることになります」と語った。

ロシアと中国は、国連で米国による対衛星実験の一時禁止の決議案に反対票を投じた際、両国の懸念、そして宇宙安全保障に対する主たる脅威は宇宙に兵器を配備する事なのだと主張した。さらに挙げれば、ロシアと中国の政府は、2008年に宇宙空間への兵器配備の防止に関する条約草案を提示し、2014年にそれを更新している。しかし、米国は、「根本的な欠陥」を抱えているとしてこの条約を拒否した。

国連、そして、その多国間プロセスは、宇宙の安全保障と宇宙での戦争の防止に関する実効的なプロセスに取り組む協議の場を提供し得る。しかし、2023年の国連総会第一委員会(軍縮・国際安全保障)の会合が今後の宇宙安全保障関連の議論の暗喩となっているのだとしたら、たとえ国連であっても期待出来ることはあまり無い。2023年10月に開かれた第一委員会の年次会合では、2つの対立的な決議草案が提出された。1つは英国が発起し米国とその同盟国が支持した、宇宙における責任ある行動の規範と原則についての草案だった。もう一つは、宇宙での軍拡競争を防ぐための法的拘束力のある国際文書に合意することを目指す、中国や他の同盟国の支持を受けたロシアによるものだった。双方は異なる作業部会の設置を提案した。

このような多国間レベルでの分断や2月第3週のワシントンで発生した「パニック」は、宇宙を地球上の紛争とは関係の無い別個の領域として扱い、宇宙安全保障を他から影響を受けず他に影響を及ぼさない1つの独立した議題として協議を開始することの重要性という喫緊の教訓を示している。また、現在は、宇宙についての慣行的規範や自主的な規定から、法的拘束力と強制力を有する文書化された宇宙についての法律へと移行するべき時期でもあるのだ。

  • 元レバノン国連大使のアマル・ムダラリ博士は、グローバル問題のコンサルタントである。
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