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イスラエルによるラファ攻撃の可能性へのエジプトの懸念

イスラエルの攻撃により退避を余儀なくされたパレスチナ人を収容する仮設テントが拡がるガザ地区ラファの野営地。2024年2月27日。(AP通信)
イスラエルの攻撃により退避を余儀なくされたパレスチナ人を収容する仮設テントが拡がるガザ地区ラファの野営地。2024年2月27日。(AP通信)
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29 Feb 2024 09:02:01 GMT9

エジプトとの境界線に隣接するガザ地区の都市ラファを標的とするイスラエルの軍事行動の可能性から生じる脅威は、同市に退避中の約100万人のパレスチナ人にとっての大きなリスクというだけではなく、エジプト自体にも危険を及ぼす。

エジプト政府は、イスラエルによるラファ攻撃への反対を繰り返し表明し、それがパレスチナ問題と地域全体にとって危険足り得る結果をもたらすことを繰り返し強く訴えてきた。

特に現在の危機の解決策としてガザ地区全体からの退避を示唆する計画がイスラエルの一部政府機関からリークされたことから、退避する人々がエジプトとの境界付近に参集する可能性についての懸念が高まっている。エジプトは、そうした計画が恒久的な退避やパレスチナの大義の事実上の一掃へと繋がることを怖れ、それを激しく拒否している。エジプト政府は、1967年6月4日時点の国境線に沿って独立したパレスチナ国家を建国し東エルサレムを首都とする二国家解決の必要性を強く表明してきた。

イスラエルによるラファへの地上攻撃の脅威は、エジプトのラファとの境界線付近の地域の治安管理をイスラエルが取り戻す計画をベンヤミン・ネタニヤフ首相が発表した事を受けて浮上した。エジプト政府は、この件に関連した米国およびイスラエルとのいかなる協議も否定し、フィラデルフィア回廊としても知られるサラー・アルディン・アクシスに向けて前進しようとしているイスラエルの試みに対して深刻な懸念を表明した。エジプトとイスラエルの間には締結以来長い年月を経ている平和条約があるが、この一連の動きは両国の関係を著しく緊張させ得る。

エジプトの非公式な情報筋は、イスラエルがラファへの軍事侵攻を実行した場合、それは和平協定とその付属議定書の条項への違反となる事を確認した。この協定では、いわゆるエリアDに国連のオブザーバーを伴ってイスラエル軍が限定的に駐留しすることが規定されている。しかし、イスラエル軍がサラー・アルディン・アクシスに向けて移動しようとすることはどのような場合でも違反行為と見做される。

両国間の和平協定はかなり長期間にわたって存続しているが、状況の変化に応じて特定の条項が修正されている。例を挙げると、2021年にエジプトとイスラエルは、シナイ半島北部におけるテロの脅威に対処するため、エリアCにおけるエジプト軍の駐留を増強すると発表している。

ラファへの侵攻をシナイ半島でのテロ対策活動と同一視しようというイスラエルの試みは、いずれにせよ筋が通らない。ラファへの攻撃は、地理的様相や人口動態の状況を一変させてしまうことを目指している。これは、領土を保全し守ることを目的としたエジプトがテロ組織に対処するために行う軍事作戦とは全く異なるものである。

イスラエルによるラファへの侵攻をエジプトが拒否した事は、もしそれが実行されれば壊滅的な結果が生じかねないという国際社会やアラブ人社会からの警告が強まっていた事と同期している。

エジプト政府は、自国の安全や領土の保全が危機に瀕したり、パレスチナの大義が損なわれた場合には、単なる象徴的なジェスチャーだけで妥協しようとはしない。軍事的には、エジプトは5 kmの緩衝地帯を設け、地上と地下にコンクリート壁を建設し、ガザ地区との境界線を強固にした。こうした措置は、過激主義者による反政府活動が継続する中、シナイ半島のエリアC、特にイスラエルとの国境沿いで兵力の増強を図るというイスラエルとの2016年の合意に基づいたものである。

ラファへの侵攻をシナイ半島でのテロ対策活動と同一視しようというイスラエルの試みは、いずれにせよ筋が通らない。

アブデラティフ・エル・メナウィ博士

外交的には、エジプトは安全保障上の利益を守るために、数多くの総合的な外交戦略と外交手段を用いて、他国と共同戦線を張っている。イスラエルのラファ侵攻の提案を拒否する政治的路線を積極的に進める事でエジプトが得たアラブ諸国やイスラム諸国からの支持は、同時に、イスラエル側の軍事計画の実行をエジプトが制止するにあたって後ろ盾となる国際的支持でもある。EU諸国ですらラファでのイスラエルの軍事作戦の可能性を公式に非難しているのだ。

エジプトは、国際法や国際情勢を頼みとして、国連を初めとする諸機関や国連事務総長を通じて、イスラエルの行動を非難し、イスラエルによるラファ支配の不等性を強く訴えている。エジプトは、さらに、和平協定への違反行為と見做され得るイスラエルの行動への対応として、その画期的な和平協定自体を含むイスラエル政府との2国間協定の一時停止を選択するという方策も有している。この方策は、イスラエルに重大な損失を与え得るものの、中東における和平努力を弱体化させる。

あるいは、エジプトはイスラエルとパレスチナの仲介役を辞し、人質交換交渉に向けたイスラエルの取り組みを複雑化し、認定工業地帯協定といった貿易協定を危険に晒す可能性もある。

エジプトとイスラエルの間で公然とした批判合戦が起こることは滅多に無いが、イスラエルへの襲撃をエジプト政府の責任だと発言したべザレル・スモトリッチ財務相を初めとするイスラエルの要人たちをエジプトが非難した例はある。

エジプトは、1979年にアラブ国家としては初めてイスラエルを正式に承認し、その後、イスラエルのシナイ半島返還へと繋がる平和条約を締結した。和平プロセスにおけるエジプトの歴史的重要性は自明である。

とはいえ、イスラエルがラファに侵攻した場合に、エジプトが和平条約を無効にすると脅迫したとの報道も含め、最近の緊張は両国の関係の不安定さと状勢の悪化の可能性を明確に示している。

過去の危機を振り返り、エジプトは、イスラエルの壁が破られ数百人がエジプトとガザ地区の境界を突破した2008年の国境危機を思い起こさせるパレスチナ難民の流入の潜在的な影響を警戒し続けている。こうした展開は、エジプトの国力を圧迫し、地域の緊張を悪化させ得る。エジプトは、自制と合理的な対話を促す事で、本格的な危機を回避し、地域の緊張激化がもたらすリスクを軽減することを望んでいる。

  • アブデラティフ・エル・メナウィ博士は、マルチメディアジャーナリスト、ライター、コラムニストとして、世界中の戦争地域や紛争を取材し、高い評価を受けている。X @ALMenawy
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