その光景を思い浮かべてほしい–40歳以上の人々で溢れかえり、若いカップルはほとんど見当たらず、乳母車を押したり、子供のお迎えを急いだりする幸せそうなペアはさらに少ない。東京やローマの一部の地域では、このような光景をすでに見慣れているだろう。しかし、そう遠くない将来、多くの都市や町の現実がもっと混沌としていたり、あるいはもっと無愛想であったりするとしたら、その理由には事欠かないだろう。
ひとつは、政策立案者や政府首脳はおろか、政府間組織も制御できない力によって、世界人口の高齢化と減少が不均衡なペースで進んでいることだ。この不均衡は、合法・非合法にかかわらず人の移住を急増させ、米国をはじめとする経済先進国の政治的不和やイデオロギーの偏向を引き起こしている。
また、納税者や生産的な国民のプールが減少することは、どの国にとっても、特に労働力の高齢化が進み、社会的支援や医療を必要とする人々の集団が増加する国にとっては、将来にとって良い兆候ではない。そのような国の若者は、自分たちが納めた税金の大部分が、年金や高齢者向けの公的医療サービスという形で国家から分配されることを知れば、勤勉に働き、雇用を創出し続けようという意欲を失うだろう。
明るい面を見れば、人々が以前よりずっと長生きするようになったという事実は、とてつもない偉業である。実際、天然痘、結核、ハンセン病、ペスト、ポリオを一掃するワクチンや薬剤を開発した背景には、平均寿命の延伸という強い動機があった。問題は、一部の国や地域で寿命が延び、あるいは延びつつあるのと同時に、その国の夫婦がますます少子化を選択していることだ。
このため、国家内でも国境を越えても、若年層と高齢層のバランスが大きく崩れている。
アルナブ・ニール・セングプタ
そのため、国家内でも国境を越えても、若年層と高齢層のバランスが大きく崩れている。世界保健機関(WHO)によれば、60歳以上の世界人口は2050年までに2倍、2100年までに3倍になると予想されている。しかし、2100年までには、世界の圧倒的多数の国が、その人口規模を維持するのに十分な高い出生率を保てなくなる。
『ランセット』誌に新たに掲載された研究によると、世界の出生率は、2021年には女性1人当たり生涯出生数2.2人だったのが、2050年には約1.8人、2100年には1.6人にまで低下するという。高所得国である経済協力開発機構(OECD)圏の平均出生率は、すでに女性一人当たり1.6人かそれ以下である。日本で昨年生まれた子どもの数は、世界最大の債権国である日本が1899年に統計を取り始めて以来、過去最低を記録した。同じくOECD加盟国で高齢化が進むイタリアでは、死亡者数が出生者数を大きく上回っており、1世帯あたりの子どもの数の中央値は1.2人にまで急落している。
自国の人口を維持することは国民個人の義務ではないと主張する人々の意見にも一理ある。現在の人類には、今後数十年間、地球レベルでの人口減少を食い止めるだけの十分な人口がいる。国連の2022年の人口見通しによれば、世界の人口は2080年代に約104億人のピークに達し、2100年までその水準で推移する。人口の高齢化と減少も、もしかしたら、若い男女が独身や子どものいないままでいる権利を行使できるようになるためには、許容できる代償なのかもしれない。
しかし、古い格言にあるように「人口動態は運命である」のだから、国全体の自発的な人口減少はコストがかからないわけではない。ワシントン大学健康指標評価研究所のスタイン・エミール・ヴォルセット氏は、ある国では「ベビー・バスト」、ある国では「ベビー・ブーム」によって、世界は「21世紀を通じて驚異的な社会変化」に直面していると言う。『Lancet』誌が引用した研究によれば、サハラ以南のアフリカでは、2100年までに「地球上で生まれる子どもの2人に1人」を占めるようになるという。このことは、「サハラ以南のアフリカで最も資源に恵まれない国々の多くが、地球上で最も政治的・経済的に不安定で、暑さに悩まされ、医療制度にひずみのある場所で、地球上で最も若く、最も急速に成長する人口をいかにして支えるかに取り組むことになる」ことを意味する。
この 「驚異的な社会変化 」によって北米と西欧が直面している課題は、ジョー・バイデン大統領が5月に主にアジア系アメリカ人の政治献金者の聴衆に対して、アメリカの経済が繁栄しているのは 「我々が移民を歓迎しているからだ 」と語った際には、さらりと受け流された: 「なぜ中国は経済的にひどく失速しているのか?なぜ日本は問題を抱えているのか?なぜロシアは?なぜインドは?彼らは外国人嫌いだからだ。移民はいらないのだ」
国全体の自発的な過疎化は、コストがかからないわけではない。
アルナブ・ニール・セングプタ
問題の4カ国はいずれも、留学生や移民を呼び込もうとしない、あるいは呼び込めないために苦境に立たされているのは事実だが、管理不行き届きや野放図な移民に煽られた分極化した政治の弾丸をかわした可能性もある。ギャラップ社が2月に発表した世論調査によれば、アメリカ人は移民をこの国が直面している最も重要な問題として挙げる傾向が強い。壁、国境警備隊の警官、混雑した収容施設など、(米国とメキシコの)国境のイメージは、危機への注目を集めるための強力な背景として、あるいは政治的敵対者を攻撃するために、ますますこの問題を取り上げるようになっている」と、『ニューヨーク・タイムズ』紙の最近のレポートは述べている。
より身近なところでは、国連人口基金アラブ諸国地域事務所とアラブ連盟が作成した2017年の報告書によると、2015年までに人口統計の窓(労働年齢層の人口比率が特に顕著になる時期)に入ったアラブ諸国のほぼすべてが、2050年までに60歳以上の高齢人口が20%を超えると予測している。同年には、湾岸協力会議の高齢化率は20.66%とアラブ地域で最も高くなり、マグレブ地域、マシュレック地域、後発開発途上国がこれに続くと予想されている。
アラブ諸国全体と同様、GCC市民も高齢になるにつれて経済的生産性が低下し、より多くの医療を必要とするようになる。しかし、PwC中東の最新レポートが指摘するように、「高度にデジタル化されたGCCの 「知識経済 」が、この地域の最良の伝統を重んじ、高齢の市民が最後まで充実した生活を送れるような社会にもなり得るのには、十分な理由がある」という。
政府、民間セクター、医療提供者、保険提供者、研究・学界はそれぞれ明確な役割を担っているが、報告書によれば、野心的な変革戦略のおかげで、GCC地域は 人口動態の急速な変化に対処するための政策と解決策を開発する世界的なイノベーターになる十分な位置にある。
1968年、アメリカの生物学者ポール・エーリッヒとその妻アンは、「人口爆弾」でよく知られるようになった。今日の世界経済は、それとは正反対の、より狡猾な問題に直面している。人口爆弾は爆発することなく、崩壊するまで何十年も時を刻み続けるのだ。