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侵略から20年、イラクの救済は可能か

年金生活者らがデモを行う中、位置につく機動隊。2023年2月27日、バグダッド。(AP)
年金生活者らがデモを行う中、位置につく機動隊。2023年2月27日、バグダッド。(AP)
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20 Mar 2023 07:03:58 GMT9
20 Mar 2023 07:03:58 GMT9

嘘と詐欺的な動機に基づいたイラクへの破壊的侵略により、現在まで影響が及ぶような形で地域の均衡が打ち砕かれた。特に、続いて隣国シリアが破壊された後はそうだった。

バグダッド、そしてイラクは、何世紀にもわたってアラブ文明・文化の心臓部を成していた。しかし、イラク国民に約50万人の死者を出した侵攻の開始から20年経った今、アラブの要であるこの国は、大量の天然資源を有するにもかかわらず依然として粉々に破壊されたままである。

この戦争の遺産の一つは、イラクが世界で最も腐敗した国の一つになり、2003年以降3000億ドルもが国の資産から略奪されたことだ。一方、国民は貧困、失業、環境汚染、サービスの機能不全、薬物中毒の負の連鎖、宗派間の緊張などから抜け出せずにいる。

このような状況になる可能性について、ジョージ・W・ブッシュ元大統領とディック・チェイニー元副大統領は警告を受けていなかったわけではない。アラブの指導者らはこの侵略の帰結を最もはっきりと予測していた。侵略前夜、サウジの外相だった故サウード・アル・ファイサル王子は、「イラクを支配できると考える者は思い違いをしている」と警告した。しかし、アラブ世界はイラクを見捨ててこの国をアラブの中心から切り離すという致命的な間違いも犯した。同様に、レバノンとシリアに関しても重大な間違いがなされつつある。

危険なほどに歪んだアジェンダを持ったイラクの小さな陰謀団からの助言を米国が不釣り合いに聞き入れたことで、軍や政府官庁の大規模な崩壊が起こった。

バース党支持者の可能性があるという理由で数千人の教師、警察官、医療関係者、キャリア公務員が即座に解雇されたのだ。各宗派の暗殺部隊は、これら汚名を負わされた人々の一覧表を暗殺ターゲットリストとして再利用した。

2003年にイラクに帰還したシーア派準軍事組織は「米国に死を」というスローガンのもとで育成されていたが、これらの組織は権力を固めるための最善のルートは、にっこりと笑って米国の耳に耳打ちすることだと結論付けた。

その結果、イラク・イスラム革命最高評議会などの組織が米国の第一のパートナーとなった。これらの亡命組織は国民の大半から疑いの目で見られていたにもかかわらずである。

こういった傾向はヌーリ・アル・マリキ首相(当時)の在任期間に極端に進んだ。同首相の解釈では、バース党員排除とは実質的にスンニ派を一掃することを意味していた。

2005年~2008年の恐怖は強調しきれない。特にバグダッドでは毎月数千人の国民がシーア派民兵やスンニ派過激主義者によって虐殺され、人口構成が大きく変わることとなった。

米国はスンニ派組織「覚醒評議会」を動員することでアルカイダを解体することに成功したが、マリキ首相は覚醒評議会を脅威と見なして容赦なく根絶し、そこに生じた空白をダーイシュが完全に埋めた。

大量虐殺に関与する民兵組織は同首相の手で準軍事連合​ハシュド・アル・シャアビへと作り変えられた。

ダーイシュと戦うために作られたとされる勢力だが、長期的に見ればダーイシュが与えたであろう損害よりも大きな損害をイラクに与えたのは間違いない。

南部全域で発生した一連の大規模なデモは、ハシュドの準軍事組織による残忍な暴力とジャーナリストや活動家の暗殺によって鎮圧された。

対照的にスンニ派地域は最近は比較的静かだが、それは主に、これらの貧困にあえぐコミュニティーは政治から周縁化されており意味のある発言力を失っているからだ。

イラクの政治システムには矯正や救済の施しようがない。最近のイラク国民に話を聞くと、明らかに希望を失っており、何も良くならないという感覚を抱いている。

バリア・アラマディン

ハシュドの民兵組織は経済活動への大規模な関与を通してさらに腐敗し、違法な検問所、石油の密輸、恐喝、売春などから数十億ドルを稼いでいる。

2003年以前のイラクには薬物中毒はほとんど存在しなかったが、これらの組織がこの国を違法薬物漬けにした結果、今や蔓延のレベルにまで至っている。

これらの民兵組織は、これまでの選挙で国民から完全に拒否されたにもかかわらず、自分たちが選んだ政府を有権者に押し付けた。中央の政権のあらゆる部門を転覆させたうえ、この国をマフィアの領地として切り分けた。

サウジ・イラン合意はイラクにどのような影響をもたらすだろうか。私が聞かされたところでは、一連の交渉におけるサウジ側の最優先事項はイラク問題だったという(初期の交渉の一部はバグダッドで行われた)。

アラブ諸国は近年、イラクへの再関与に真剣に取り組んでいる。大使の復帰、野心的な電力プロジェクト、大規模な投資、汎アラブ的貿易の推進、(最近バスラで開催されたサッカー大会アラビアン・ガルフ・カップの大成功をモデルとした)イラクを再びアラブ世界に向け開くための旅行・観光の促進などだ。

イラクの人々は南部国境の向こうに目をやり、世界経済が崩壊しつつある中でも湾岸諸国が繁栄している様を見さえすれば良い。

大量の石油資源を有するイラクは、腐敗、民兵組織による支配、政治の機能不全といった問題に対処できれば、同様に繁栄する社会モデルになることを目指せるだろう。

イラクがまだ単一国家として存在し数年ごとに選挙を実施しているという事実について、2003年の侵略の帰結が悪いことばかりではなかったことを示していると解釈する国外の観測筋もいる。

しかし2023年のイラクはくすぶる火山だ。2022年、互いに敵対する民兵組織がバグダッド中心部で対峙して睨み合う緊張状態が発生し、この国は内戦の瀬戸際に追い込まれた。

双方が数万人の民兵を意のままにできることを考え、一歩間違えれば大虐殺が起こっていただろう。

イラクの政治システムには矯正や救済の施しようがない。最近のイラク国民に話を聞くと、明らかに希望を失っており、何も良くならないという感覚を抱いている。

イラクの政治諸派にとって危険なのは、彼らが統治システムへの信頼を破壊してしまったため投票や市民参加を通した改革の可能性を信じなくなった国民が、イラクを荒廃させたこれらの勢力を排除するためにより過激な手段を追求するようになることだ。

アラブ世界は、イラクの人々が彼らにふさわしい尊厳と繁栄を再獲得できるよう精力的に支援すべきだ。

イラク、レバノン、シリア、イエメンがアラブ世界に完全に復帰し、以前の繁栄と輝きを取り戻すために必要な緊急支援を提供されるまでは、我々は休むべきではない。

もしこの願いが実現すれば(いつの日かそうなると私は信じている)、アラブ世界全体の世界的地位や卓越性が大きく変わり、この地域は再び無視できない強力な存在になるだろう。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東およびイギリスのニュースキャスターである。『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
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