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サウジアラビアの気候行動は地域紛争の緩和に貢献できる

MGIワークショップでプレゼンテーションを行うFAOのアブドゥルハキム・エルワエル博士。2022年9月19日、サウジアラビアのリヤド。(写真:国連)
MGIワークショップでプレゼンテーションを行うFAOのアブドゥルハキム・エルワエル博士。2022年9月19日、サウジアラビアのリヤド。(写真:国連)
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31 Mar 2023 01:03:40 GMT9

干ばつ、砂漠化、水不足などの深刻な気候状況と内戦や越境紛争の間には関連があるという明確な証拠が存在する。逆に言うと、紛争のせいで、それらの気候状況を緩和し、気候変動に対抗し、開発や生活に対する壊滅的影響を食い止めるための持続的な取り組みを行うことが難しくなっている。サヘル地域とアフリカの角という2つの地域はそれらの気候状況によって暴力、経済的苦境、飢饉が助長されている明確な例だが、環境に起因する紛争の脅威は世界の他の多くの地域でも高まっている。

気候変動対策の必要性に対する意識の高まりは、そのような悪循環を断つ機会を提供する。サウジアラビアの「中東グリーン·イニシアティブ(MGI)」などの近年の気候イニシアティブは、砂漠化を防ぎ、耕作可能地を取り戻し、気候変動を食い止めるための現実的な解決策を提供する。その過程で、紛争や内戦に対処するためにこれらの解決策を動員することができるかもしれない。つまり気候行動は、戦争や対立の根本原因の一部に対する解決策を提供することで調停の手段として役に立つ可能性があるのだ。

国連政治·平和構築局とEUは今月ブリュッセルで、気候状況が関わる紛争を含む紛争の調停における地域組織の役割の増大に関する重要な会議を開催した。ハーバード大学交渉学研究所が開発した有名なものを含む従来型の調停手段·原則が重要かつ有用であることに変わりはないが、今の調停者は土地や水資源をめぐる争いなど、気候状況が実際に与える影響を考慮に入れる必要がある。紛争への解決策は天然資源の希少性の増大に対する解決策を含んでいなければならないのだ。

気候変動は長い時間をかけて起こるため、紛争との直接の因果関係の実証や定量化は短期的には容易ではない。しかし、気候変動が異常気象を長期化·悪化させることで間接的に紛争に影響を与えることを示すのは可能だ。また、気候変動が「脅威乗数」(より直接的な他の要因の影響を促進剤·触媒·原動力として倍加させる要因)として、あるいは緊張激化や紛争長期化における重要な要因として機能する場合があることが研究で明らかになっている。

こういった特徴にもかかわらず、気候行動は長期的な気候課題と短中期的な環境悪化の両方に対処することで紛争や戦争の調停に貢献することができる。

気候行動は異常気象·気候変動と紛争·対立との間の悪循環を断つ可能性を秘めている。代わりに、好ましい環境条件の回復と紛争の激化抑制との間の好循環を作り出すことができるのだ。

私はブリュッセルの会議で「サウジ·グリーン·イニシアティブ(SGI)」を、土地係争や水不足に根ざした紛争の解決にも貢献し得る、環境破壊を食い止めるための積極的な方法論の新たな例として提示した。

サウジアラビアはMGIによって、気候変動に拍車をかけられ互いに助長し合っている環境悪化と紛争から打撃を受けている地域における気候行動の最前線に立っている。中東·北アフリカでは、気温上昇により干ばつや水不足などの異常気象災害が悪化している。砂嵐による地域の経済損失は年間推定数十億ドルに上る。

MGIは、中東における気候変動の影響を緩和し、世界の気候目標の達成に向け協力するために、サウジアラビアが主導する地域的取り組みである。地域の協力を強化し、二酸化炭素排出量削減と環境保護に必要なインフラを整備することで、長期的な気候変動や環境破壊への対策に貢献できるものだ。また、経済的機会を創出することで、地域の既存の紛争や将来起こり得る紛争の一部を解決するための有効な手段を提供するものでもある。

これらの目標の達成に向けたイニシアティブの実行を加速するために、ムハンマド·ビン·サルマン皇太子殿下は2022年11月にエジプトのシャルム·エル·シェイクで開催された国家元首のサミットにおいて、サウジアラビアはMGIのための専用事務局を同国に設置し、そのプロジェクトとガバナンスの支援に25億ドルを拠出すると発表した。この11月のサミットに先立つ10月、リヤドで開かれた閣議においてMGI実行の枠組みが合意されていた。

他の国々はMGIあるいは平行する取り組みに対して同様の資金を拠出するよう勧められている。MGIは効果的な気候行動を行うべく、地域の利害関係者をまとめ上げ支援することで共通の目標を達成するための同盟を呼びかけている。

それらの目標のうちの一つが、中東全体で500億本の植樹を行って2億ヘクタール相当の荒廃地を回復させるというものだ。サウジアラビアだけでそのうち5分の1が植樹され、残りの400億本は今後数十年で中東各地に植えられる予定となっている。

この目標の実現は、新たな雇用機会の創出や遠隔地コミュニティーの回復力の強化に貢献するだろう。これらの木は土壌を安定化して砂漠化や砂塵嵐·砂嵐を予防するとともに、世界の二酸化炭素レベルの最大2.5%削減に貢献するとみられる。

MGIの一環として、二酸化炭素回収·有効利用·貯留、持続可能な漁業開発、嵐の早期警報のためにそれぞれ地域センターを設置することが計画されている。また、水域からプラスチックを除去することでその経済的ポテンシャルを向上させる地域的な取り組みや、完全に実行されれば世界中で7億5000万人に恩恵をもたらす可能性がある「調理用のクリーン燃料ソリューション」イニシアティブも掲げられている。

サウジアラビアはMGIの一環として、その活動を支援する独立した非営利基金と、炭素循環経済技術ソリューションのための地域投資ファンドの設立を提案している。

気候行動は、戦争や対立の根本原因の一部に対する解決策を提供することで調停の手段として役に立つ可能性がある。

アブデル·アジーズ·アルウェイシグ博士

地域における気候変動対策の取り組みとしてMGIの規模は群を抜いている。サウジアラビアはMGIのプロジェクトのためのファンドへの25億ドルの拠出を約束することで、他の国々に対しても同様の拠出を行うよう、また気候変動を食い止めるとともにその過程で地域の破壊された環境を回復させるために力を合わせるよう誘っている。合意された枠組みと熟慮された構造は、それらの野心的な目標の実現に必要な基盤を提供している。

完全に実行されれば、MGIは中東·北アフリカ全体で数百万の雇用や経済機会を創出するとみられる。これらの経済的果実は、耕作可能地の再生や水へのアクセスの改善と相まって、地域における紛争や対立の原因の多くを取り除く可能性を秘めている。MGIが支援する熟慮されたプロジェクトは、紛争の調停や戦争の激化抑制のための有用な手段や「力の乗数」として機能することができるのだ。

  • アブデル·アジーズ·アルウェイシグ博士は湾岸協力理事会(GCC)政治問題·交渉担当事務次長で、アラブニュースのコラムニスト。本記事で表明されている見解は個人的なものであり、必ずしもGCCの見解を代表するものではない。ツイッター: @abuhamad1
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