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スーダンにおける軍国主義への回帰という悲しき不可抗力

多くのスーダン国民にとって、アル・ブルハン氏とダガロ氏の衝突は「可能性」ではなく「時期」の問題であることは、昨年から既に明らかだった。(AFP)
多くのスーダン国民にとって、アル・ブルハン氏とダガロ氏の衝突は「可能性」ではなく「時期」の問題であることは、昨年から既に明らかだった。(AFP)
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22 Apr 2023 11:04:42 GMT9
22 Apr 2023 11:04:42 GMT9

先週末、スーダンで激しい衝突が発生し、同国の主権評議会議長のアブドゥルファッターフ・アル・ブルハン将軍に忠実なスーダン国軍と、アル・ブルハン将軍の元副官であるモハメド・ハムダン・ダガロ氏(別名ヘメッディ)が率いる推定10万人規模の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」とが対峙した。

停戦要請が国際的に求められているにもかかわらず、暴力行為は瞬く間に拡大し、同国は全面的な内戦に突入する恐れがあった。外交的な介入や緩和のための努力がなければ、スーダンの都市や町で始まった銃撃戦が、長年にわたって不安定なサヘルやリビア紛争など、既に問題があふれかえっている地域をさらに巻き込む可能性がある。

現在のところ確認された事実は少なく、スーダンでの軍国主義への回帰の正確な影響を解析することは困難となっている。しかし明確なのは、この対立が起こった理由だ。

2019年にオマル・バシール前大統領がクーデターで倒された後でさえ、スーダンは、頻繁な抗議活動、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの長引く影響、そして、問題を抱えた移行を管理するための十分な能力を持たない新興の統治機関内の断片化と内紛によって混乱したままであった。

名目上の権限分割協定により、緩やかにまとまった政府の様相を見せたが、暫定政権の主権評議会内の深刻な分裂と二極化で、経済、政治、社会的疎外など、市民の怒りと高まる国民の不満の根本原因に取り組む能力が著しく低下している。

それでも少なくとも、2020年10月にいくつかの反政府勢力との間で論争の的となったジュバ和平合意をまとめるに足りる支持を集め、バシール政権後のスーダンの多くの害悪を是正するための第一歩とするには十分だったのである。

しかし残念なことに、この合意の実施には多くの困難を伴った。主権評議会の軍部派閥と文民派閥は、ライバル派閥から政治家を目指す人々に正当性と権限を与えるアプローチの点で異なっており、そのことが単に従来の緊張を悪化させるだけだったためだ。

同時に、COVID-19の影響から抜け出そうと奮闘していたスーダンでは、記録的なインフレ率、食料価格の高騰、燃料不足で経済が疲弊し、国民の不満はますます高まり、単に文民政権のトップが任命されただけでは、それを解消することは望めなかった。

2021年10月の軍事クーデター後、首都ハルツームをはじめとするスーダンの各都市で再び大規模な抗議デモが発生した。民衆は、市民団体を主導として、逮捕された文民指導者たちの即時釈放と軍事支配の終結を要求した。軍が武力で応戦したことにより、デモ隊に多数の死傷者が出た。アル・ブルハン氏は世論の大きな圧力に押され、結局1カ月後にアブダッラー・ハムドゥーク首相を釈放した。

その後、アル・ブルハン氏とハムドゥーク氏は、権限分割協定を復活させ、民政への平和的移行への道を開くことを目的とした政治的合意を発表した。しかし、国民や市民団体のメンバーからは、この協定は透明性を欠いており、軍事支配の終結を保証しないとして、懐疑論や批判が寄せられた。

後から考えると、クーデターの動機は複雑で多面的であり、単に国内の無数の危機に対する懸念に留まらず、反乱軍との和平合意は書面以上の価値がなく、さらにはほんの数例を挙げれば米国、エジプト、エチオピアといった世界各国の当事者の役割も無視できない。

オマル・バシール氏が残した取引型の政治と利己的な目的での民兵の利用という腐敗した遺産は、大混乱をもたらし続けるだろう。

ハフェド・アル・グウェル

しかし、このクーデターによって、権限分割協定の脆弱性、軍部と文民の派閥の間の深い溝、そして両者が国民の不満を利用して、徐々に破綻していく移行プロセスにおける重要な意思決定から互いを排除することを正当化する手法が明らかとなった。

2021年10月に強引に政権を奪取した軍事政権を退け文民主導の新政府を発足させるはずだった合意にスーダンのエリートたちが署名した後、昨年末から緊張はさらに高まり始めた。

しかし、いわゆる枠組み合意は、外国の外交官たちが要請する「ラマダン明けまでの政府樹立」を目的に、治安部門改革など多くの難題を(またしても)道連れにしがちだったのである。

また、枠組み合意は焦った国際社会の求めに応じて、細心の注意を要する譲歩の上に成り立つ極めて曖昧で非現実的な政治プロセスを短期間で開始し、潜在的な緊張を悪化させるだけであった。

アル・ブルハン氏が、民兵組織を2年以内にスーダン軍に統合することを要求する安全保障部門改革に関する会議からRSFを除外すると、ダガロ氏は武力衝突を想定して首都ハルツーム周辺の軍備増強と配備に取り掛かった。戦力はスーダンやエジプトの戦闘機が駐機している空港など、市内の戦略的に重要な地域やその付近に配備された。

アル・ブルハン氏の勢力はこれを、スーダン軍の空中戦の優位性を崩し、優れた兵器を徴用するための先制的なエスカレーションとみなし、RSFが撤退しなければスーダンの治安情勢が崩壊すると警告を発した。

そのため、2つの勢力をより適切なスケジュールで統合するための話し合いが長引いた代わりに、一触即発の厳しい対立状態、不満、分裂が引き起こされ、スーダンの近隣諸国は不意を突かれたようだ。

両者の対立が長引けば、特にスーダンの両勢力がほとんど互角に見えることを考慮すると、チャド、エジプト、エリトリア、エチオピアといったスーダンの周辺諸国の支援者や近隣諸国をこの紛争に巻き込む恐れがある。敵意に満ちたレトリックは、両国の指導者が現在、互いを滅ぼすことを目的としていることを明確に示している。これは、かつての独裁的な指導者バシール前大統領の在任期間に根ざした、影響力と権威を巡る競争の賜物なのかもしれない。

2000年代初頭、バシール氏はアラブ系部族を起用して武装化し、政府の怠慢と搾取に反対する非アラブ系武装勢力に対して積極的な反攻を開始した。最も注目すべきは6年間のダルフール紛争で30万人の死者を出すなど、人的被害は大きかったが、バシール氏の戦略は効果的であった。

そして、バシール氏は「クーデター対策」のため、ダルフールのアラブ系部族民兵をRSFに統合し、ダガロ氏をリーダーに任命し、バシール氏だけに従う事実上の「大統領府警備隊」としたのである。

やがて、違法ではあるが、金鉱の採掘を支配し、海外から潤沢な資金を得て、他の紛争地域に傭兵としてメンバーを派遣するようになり、RSFの勢力は拡大した。

さらに、ダガロ氏はバシール氏に近しかったため、地域の近隣諸国との個人的な関係を培うことができ、バシール氏が2017年にモスクワを訪れてウラジーミル・プーチン大統領に「アフリカへの玄関口」としてのスーダンのアイデアを売り込んだ後まもなく、スーダンへの参入を開始した悪名高いワグネル・グループに協力を求めることもできた。

RSFは、その豊富な資金力と海外のスポンサーからの支援により、従来のスーダン軍の強力なライバルとして急速に台頭した。ダガロ氏は、アル・ブルハン氏の野望を阻止するために移行プロセスを利用することで、最終的にスーダン国家と対立するための土台作りに着手した。その際、RSFが軍の一部であるにもかかわらず、軍事支配の終結を求める市民の声に対応することも多かった。

枠組み合意が締結されると、文民と軍の対立が主な特徴であったスーダン政治の力学は、さらにいっそう複雑化していった。アル・ブルハン氏とダガロ氏は、文民派閥と反政府勢力の両方から支持を集めると同時に、それぞれの都市部の拠点から離れた周辺部からの支持を集めることに乗り出したのだ。

その結果、ダガロ氏を事実上無力化するような安全保障部門の包括的な改革を始める試みは、スーダンの2つの主要な軍事組織を互いに対立させることとなり、ますます正当化できない状態になった。

その一方で、国際社会はスーダンの難題解決に向けた前進を阻む可能性のあるスーダンの2つの勢力の間に実質的な相違はほとんどないと異様に主張し続けた。

多くのスーダン国民にとって、アル・ブルハン氏とダガロ氏の衝突は「可能性」ではなく「時期」の問題であることは、昨年から既に明らかだった。

紛争の結果がどうなろうと、そこから生じるであろう壊滅的な損失がどうなろうと、スーダンは再び難解なジレンマに陥ることになり、バシール氏の支配に終止符を打った後、激怒した民衆が求めたような断固とした民主化への要請にはならないだろう。
その代わり、バシール氏が残した取引型の政治と利己的な目的での民兵の利用という腐敗した遺産が、ダガロ氏の野望で新たな政治生命を見出され、例のごとく大混乱をもたらし続け、その代償は罪のない人々の血で贖われるだろう。

  • ハフェド・アル・グウェル氏は、ワシントンD.C.のジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院外交政策研究所のシニアフェロー兼イブン・ハルドゥーン戦略イニシアティブ・エグゼクティブディレクターであり、世界銀行グループ執行理事会会長の元顧問である。ツイッター:@HafedAlGhwell
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