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アラブ民族の再活性化に希望をもたらすジェッダ・サミット

アラブ諸国、とりわけサウジアラビアが、世界を舞台として、再び、積極的で一体化された役割を果たそうという意思表示が今回のアラブ連盟サミットだった。(AFP)
アラブ諸国、とりわけサウジアラビアが、世界を舞台として、再び、積極的で一体化された役割を果たそうという意思表示が今回のアラブ連盟サミットだった。(AFP)
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22 May 2023 07:05:31 GMT9
22 May 2023 07:05:31 GMT9

ジェッダで開催されたアラブ連盟サミットには、これまでの首脳会議などとは異なり、新鮮な風が吹いていた。アラブ連盟のサミットと言えば、美辞麗句に終始し、行動や妥当性に乏しく、さらには、目標達成には至らず、機会損失が多発する気配に満ちており、真摯なジャーナリストにとってはあまり肯定的な事を述べにくい会合だった。

規律や的確な発言、そして現実的な議題により、今回のアラブ連盟サミットにおいていかに滑らかに議事が進行したかについて、ジャーナリストや外交官らから好意的なコメントを聞くことができた。若い議事参加者の発言も多く聞かれ、この地域のリーダーシップが増々前向きで活動的な新世代に担われるようになりつつあることが実感出来た。

アラブ諸国、とりわけサウジアラビアが、世界を舞台として、再び、積極的で一体化された役割を果たそうという意思表示が今回のアラブ連盟サミットだった。とはいえ、これまでと同様、具体的な成果を上げることが出来るのか否かこそが問われなければならない。

ウォロディミル・ゼレンスキーを招待した事は大胆な一手だった。そして、それは、対応が容易では無いメッセージや公の場における批判にも耳を傾ける成熟したサミットであることを示す証左でもあったのだ。ウクライナ大統領は、「侵略者から母国を守る者、母国の子供たちを奴隷化から守る者。そのような戦士は正義の道を歩んでおり、私はそのような戦士たちの代弁者であることを誇りに思います」と述べた。この言葉を聞いて、パレスチナの苦闘を思い浮かべない愛国的アラブ人がいるだろうか?いわれのない武力行使に対するゼレンスキー大統領とウクライナの勇気ある対応に敬意を表したい。

ウクライナは、エジプトやレバノンといった国家にとって長きにわたって穀物の主要な供給元である。ウクライナが良好な状態にあるのか否か、そしてその農業が安定しているのか否かは、数億人に上るアラブ人にとって、生存のかかった重大問題なのだ。

バッシャール・アル・アサド氏は、もう1人のサプライズゲストだった。私たちの多くは、このシリア大統領がずっと強い悔悟の念を示し、自らの手が血で汚れている事を認め、和解を誓うことを期待していた。しかし、彼の演説は、陰謀論と些細な不満を寄せ集めた昔ながらのアサド節だった。アサド大統領は、イランとロシアが彼の代わりに武力介入してくれたことを都合よく忘れて、「内政の管理に最も長けているのは国民であるのだから、内政は国民に任せることが重要なのです」と述べた。

ヒズボラやイラン政権、シリア政権の息のかかったメディアは、今回のサミットへのアサド氏の参加を他のアラブ諸国に対する勝利として歓迎し、同氏が「征服の英雄」としてジェッダに乗り込んだかのように報じている。ヒズボラのハシェム・サフィディンは、アサド氏の参加が「多くの政治家の主張が空想や蜃気楼、幻想、失効した誓約に過ぎないことの反論しようのない証拠」なのだと大仰に述べた。このすべてが全く無意味だ。アサド氏が自国を破壊し自国民にガス攻撃と拷問を加えるために費やした12年間で、他のアラブ諸国は最先端の教育システムを導入し、文化の隆盛を迎え、経済を多様化し、社会改革を進展させ、繁栄と栄華を極めるに至った。

2023年、アサド大統領はいかなる勝利も収めていない。アサド大統領は、イランとロシアの強力な支援を背景として、シリア領土の控え目な一部を支配下に置いているに過ぎないのだ。シリアは断片化され、人口を失っている。シリア国民の半数以上が待避し、500万人がレバノンやヨルダン、トルコで難民となっている。経済は取り返しのつかないほど粉砕されてしまい、約1,530万人のシリア人が緊急援助を必要とするまでになってしまった。

2011年からの10年間は、内戦や代理戦争、政情不安、悲痛な分裂、イランの野放図な干渉と、アラブ世界にとっては酷い年月だった。

バリア・アラマディン

シリアのファイサル・ミクダッド外相は、シリア再建まで難民は帰国出来ないと述べた。しかし、誰がやって来て再建をしてくれるとミクダッド外相は考えているのだろうか?

シリアのこの傀儡政権が復興資金のイラン政権とアサド一族による略奪を目的とした構成である限り、富裕な湾岸諸国や他の財源からのいかなる資金援助も期待すべきではない。この政権は近隣諸国への薬物の密輸出によって財政を賄っているのだから尚更である。

アサド大統領によるシリア人の帰還を歓迎するという気軽なコメントは、拷問や処刑の担当官がシリア国境内に入った人々を追跡しないという保証を伴っていなかった。帰国したシリア人たちが軍によって隔離されたりアサド大統領の拷問室に消えたといった話は枚挙に暇がない。一回限りの安っぽい握手写真の撮影機会を超えて、アラブ連盟への復帰による和平から何らかの成果を得たいのだとしたら、現在のシリア政権には目を開けて現実を把握する必要がある。全世界が、アサド大統領のアラブ連盟復帰を注視している。もしアサド大統領が一切の妥協なく最大の利益を得るためにアラブ連盟を利用しようとしているのであれば、シリアの国際社会への復帰を前向きに捉える者は皆無だろう。

名目上の和平協定が締結されてから数十年後、エジプトやヨルダンの国民は。アラブ人やパレスチナ人に対して非友好的で拡張指向の政策を続けるイスラエルを依然として敵と見做している。アラブ諸国が、シリアと貿易や観光、投資を再開するか、それともシリア政権の事実上の孤立が継続するかは、アサド大統領が人間性と自国民の敵のように振る舞い続けるのか否かによって決まるはずだ。

ジェッダ・サミットは、急速な地域再編が進行する目が回るような変化の時代の節目となるものである。中国の仲介により、サウジアラビアはイランとの外交関係を復活し、イエメン紛争終結への地固めを行い、イラクやレバノン、シリアといった国々に大きな影響力を発揮し得る潜在性を持つに至った。サウジアラビアは、昨年、ウクライナとロシアの捕虜交換の仲介を行い、さらに広範囲に及ぶ調停役を務める用意があることを示唆した。アラブ連盟サミットの中心的な議題となっているスーダンの紛争の当事者間のジェッダでの会談も同様に成果を上げつつあると見られる。

バーレーンとレバノンの外交関係の回復、湾岸協力会議によるイラン復興のための尽力といった、アラブ地域の再編に向けたいくつもの包括的な取り組みがある。アラブ連盟サミットの最終公式声明では、地域の紛争と不安を導く要因への対応のための野心的な目標が示された。「無許可かつ非合法」な軍事組織への支援の違法化、イランを初めとする敵対国の干渉の拒否、「レバノンの全派閥」に対する総意に基づく大統領選出を軸とした団結と国家の危機からの救出の呼びかけといった目標である。

こうした賞賛に値する目標は、特に、レバノンやイエメン、ヨルダン、スーダンなど、一般国民の苦しみが慢性的で深刻な国々を支援する場合には、経済的、文化的、教育的復興のための地域規模のキャンペーンと組み合わせる必要がある。

2011年からの10年間は、内戦や代理戦争、政情不安、悲痛な分裂、イランの野放図な干渉と、アラブ世界にとっては酷い年月だった。ジェッダ・サミットは、この痛みに満ちた期間を過去のものとし、アラブ地域が再び強靭でまとまりを持った、世界の勢力となる展望を与えてくれたのだ。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は「メディア・サービス・シンジケート」の編集者であり、数多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
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