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世界は来たるべきパレスチナの動乱に向き合うことになる

ヨルダン川西岸地区イスラエル占領地で、デモの後を追うイスラエル兵士と向かい合うデモ参加者(AFP)
ヨルダン川西岸地区イスラエル占領地で、デモの後を追うイスラエル兵士と向かい合うデモ参加者(AFP)
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11 Jul 2023 01:07:21 GMT9
11 Jul 2023 01:07:21 GMT9

いつもと変わらず、イスラエルの武装部隊がパレスチナの市民に対して行う懲罰的なやり方は、彼らが対処するふりを作り出しているだけである。こうして、失うもののない怒れる若者からなる新しい世代が生まれ、武装勢力はイラン軍と手を組み、母親や叔父、姉妹の仇討ちを何より願う子どもが形作られていく。

先月、15歳のサディール・ナグニエさんがイスラエル軍のスナイパーに射殺された。彼女の父はこう語った。「息子は9歳にして自分の姉が殺されるところを見た。息子は身の周りで人が死に、ものが破壊されていくを見ている。そうした経験が息子に教えるのは何か?抵抗することだ」

ベンヤミン・ネタニヤフ首相および盟友の軍部高官らはこれを了解している。しかし他にどうやって、自分の極右の支持層にごまをすり、またイスラエルの大規模な反ネタニヤフ運動に風穴を空けることができるだろうか。ネタニヤフ氏はイスラエル最大の放火魔として、自身の政治家生命存続の崇高な大義のため、地獄に次ぐ地獄を巻き起こしている。

西側の政治家もまたこのことを知っているが、にも関わらず、怠惰にも「イスラエルの安全保障および国民を守る権利」を支持する実に腹立たしい声明を発表している。イスラエルが、相互挑発の制御不能な悪循環である現状を更に煽ることで、自ら破滅の道をたどっていることを承知の上で、である。

英国外務省は、イスラエルのジェニン侵攻について、イスラエルは「比例原則を遵守すべき」と弱腰な発言をするにとどまった。このような滑稽なほどに的外れな発言が、果たしてプーチン氏がバハムトを圧倒的に制圧したときにも適切に思えただろうか。またイスラエルが「比例性」なるもののの遵守にかようなまでに盛大に失敗した今、英国はどうするつもりなのか。

パレスチナ人は自衛権どころか、存在する権利すらほとんど認められていない。イスラエルが新たに領土を冷酷に奪い取っていくため、拡大する人口が互いに重なり合う形で暮らしているパレスチナの諸都市では、生活は以前から極めて厳しいものだった。人口密度の高いジェニン難民キャンプでは、1万5千人が0.5キロ四方内で密集して暮らしている。

外野の人間は、イスラエルによる侵攻がどれだけすさまじい破壊を伴うものかを認識できていない。今回のジェニン攻撃は、ヨルダン川西岸地区イスラエル占領地でイスラエルが行った軍事作戦として、第2次インティファーダ中の2000年9月以来最大規模のものだ。イスラエルは2000人近い旅団規模の重装歩兵部隊、武装ドローン、戦車および武装ブルドーザーを投入した。ターマックの舗装道路は路上爆弾探査用のブルドーザーによってずたずたに引き裂かれ、通りには焼け焦げたファミリーカーが散在、多階建てのビルは煙を上げる残骸と化し、何千人もの人々が避難を余儀なくされ、負傷者は数百人、死者は12人となった。ナブルスも同様の被害にみまわれた。これは純然たる集団的懲罰である。

パレスチナは「アラブ」あるいは「イスラム」に限定的な問題ではなく、我々の人間性の根幹に関わる世界的大義をめぐる問題である。

バリア・アラマディン

何百人もの入植者―アラブの土地を不法占拠する過激思想の持ち主―からなる自警団による、パレスチナの町で暴れまわり、家族を恐怖に陥れ市民を攻撃していく悪質な行為は、恐ろしいまでに日常的になっている。燃やされて破壊された建物には学校やモスクも含まれ、入植者によるパレスチナ人への攻撃は24時間のあいだだけでも310件観測された。

2023年にはこれまでに少なくとも155人のパレスチナ人が殺害された。イスラエル人の死者も急増しており、和平に向けたあらゆる努力が挫かれてきた現状、イスラエル人は穏やかで安全な暮らしていけると主張するネタニヤフ氏の嘘が明らかになっている。イスラエルの多重国籍者の多くが国を去っていくのも驚くにはあたらない。

ネタニヤフ氏自身、これは「計画された侵入活動の始まり」に過ぎないと認めている。暴力は再びガザにも広まり、イスラエルが武器製造施設を攻撃するなど、一連の応酬が発生した。ここ最近イスラエル・レバノン国境をまたいで発生している対立は、地域一帯が無秩序状態に陥りつつあることを示す更なる警鐘である。

ネタニヤフ氏が攻撃を行って無罪放免となっているこれらの領土は、同氏が鎮圧の責を負う場所ではない。パレスチナ人は、自らの歴史的領土を分け与える意志を繰り返し示してきた。しかしネタニヤフ氏の最極右のファシスト仲間は断固として全領土を奪い取ろうとしている。ヨルダン川西岸地区に追加で何千軒もの住宅を違法に建設する手続きを加速させ、広大な領土を併合の上、取り返しのつかない既成事実をつくるため歴然たるアパルトヘイトを定着させようとしている。

故ネルソン・マンデラ氏が2007年に設立した、年長の政治家や平和活動家からなる国際NGO「エルダーズ(The Elders)」の代表団は、先日実施した実態調査の後、ネタニヤフ政権は「ユダヤ人至上主義に基づき、一時的な占領ではなく恒久的な併合を追求する意図」を示した、と率直に発表し、その上「アパルトヘイトの証拠に対する詳細な反論」を聞いていない、と非難した。

1990年代から2000年代にかけて、西側指導者は一体何度、パレスチナ問題が解決しない限り当該地域の平和は実現しない、と満足げに説教を垂れたことだろう。しかしドナルド・トランプ政権、そして現在のバイデン政権下では、イスラエルは、静かに実行できさえすれば、パレスチナ人を存在ごと消し去ってもかまわないとする態度が蔓延している。

ジェニンで行われた戦争犯罪は、好むか好まざるかに関わらず中東の安全保障問題の影響を受ける全ての国をやがて巻き込むことになる来たるべき暴力の応酬の氷山の一角に過ぎないにも関わらず、こうした考えがいかに筋違いかを明らかにする。

西側世界がウクライナに精力的に支援を行ったことは評価するのはかまわない。しかし同時に、なぜウクライナだけなのか、という疑問も上がってくる。ウクライナだけが、残酷な占領行為、執拗な都市爆撃、帝国主義の抑圧に対する抵抗に際し支援を受ける資格があるのだろうか。なぜウクライナ兵士は自由のために戦う英雄的戦士として西側メディアで連日賞賛される一方、石を片手に戦うパレスチナ人の若者は死に値する「テロリスト」扱いなのか。

人権、民族自決、民主主義的自由は普遍的な価値ではないのか。パレスチナは「アラブ」あるいは「イスラム」に限定的な問題ではなく、我々の人間性の根幹に関わる世界的大義をめぐる問題である。ウクライナや台湾の人々に対する侵略戦争を言語道断とする世界を望むなら、まずいかなる国土に対するいかなる侵略行為も違法であると明確に規定し、放置されている歴史的大罪を是正するため行動する義務を負うところから始めなければならない。

そして、正義に一切無関心な世界各国政府は、もし迫りくる暴力の津波を食い止める気が少しでもあるなら、パレスチナの難問に再び真正面から向き合わなければならなくなるだろう。

将来は医者や弁護士、アーティストやミュージシャンになりたい、といった未来への希望や期待こそが、我々の日々に目的とまとまりを与えてくれる。生まれてからずっと酷い仕打ちを受け続け、いくつもの屈辱、憤怒、悲劇を耐え忍ぶパレスチナの若者世代が、他の全ての可能性を全て閉ざされてしまっているなか唯一、ネタニヤフ氏によって開かれたままになっている、自由のために戦う戦士、自国を解放を目指す者としての道を追求することに、何の驚きがあろう。

  •  バリア・アラマディン氏は中東および英国で活動する受賞歴のあるジャーナリスト、キャスター。『メディア・サービス・シンジケート(Media Services Syndicate)』の編集長で、数多くの国のリーダーをインタビューしてきた。
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