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「インド・中東・欧州経済回廊」がもたらす広範な影響

IMECの8つの加盟国および連合は、世界経済の約半分と人口の40%を占めている。(ロイター)
IMECの8つの加盟国および連合は、世界経済の約半分と人口の40%を占めている。(ロイター)
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13 Sep 2023 06:09:17 GMT9

先週末、デリーで「IMEC」という新しい略語が誕生した。ニューデリーで16日に開催されたG20会議において、サウジアラビア、UAE、インド、フランス、ドイツ、イタリア、米国、EUは、インド・中東・欧州経済回廊(IMEC:India-Middle East-Europe Economic Corridor)の設立に関する覚書に署名した。東側の回廊はインドとアラビア湾を結び、北側の回廊は湾岸とヨーロッパを結ぶ。

ニューデリーでG20サミットと平行して開催されたIMECサミットで、ジョー・バイデン米大統領は「世界は歴史の変曲点に立っている」と演説した。彼はこの新しい覚書について「歴史的なもの」と表現した。

湾岸諸国から見れば、この新たな構想はアジア、欧州、アフリカを結ぶ主要貿易ルートとしての同地域の歴史的地位を強固にするものである。このプロジェクトはエネルギー貿易に重点を置くことで、安価で信頼性の高いエネルギーを世界に供給するという、この地域の比較優位性の活用を目指す。

IMECは、アジア、アラビア湾、欧州間の接続性と経済統合の強化を通じて、経済発展を刺激することが期待されている。また、この回廊は3つの地域を超えて、世界経済に広く影響を及ぼす可能性がある。IMECの8つの加盟国および連合は、世界経済の約半分と人口の40%を占めている。そのため、適切な資源を投入する準備ができていれば、世界の貿易と開発を変革する能力を有している。

このプロジェクトは地政学的な意味合いも持ち、同地域における米国のプレゼンスを高め、グローバルプレーヤーとしての役割を強化することになる。米国が主導するこの新たな構想と、中国が同地域で進めている既存の「一帯一路」プロジェクトの相性については多くのことが言われているが、湾岸諸国の視点で捉えれば、協力と統合のシナジーを通じて、中国、米国、湾岸諸国がWin-Win-Winの状況になる可能性がある。この地域における2つの事業の共存は、2つの超大国間の緊張を和らげるのにも役立つだろう。少なくともこの地域においては、両国は平和的に競争する方法を見つける必要があるかもしれない。

IMECの主要メンバーが発表したところによると、この回廊は鉄道で結ばれ、既存の海上輸送ルートと道路輸送ルートを補完する、費用対効果の高い国境を越えた船舶から鉄道への輸送ネットワークが提供される。これにより、インド、湾岸諸国、欧州間の商品やサービスの輸送が可能になる。メンバーはまた、鉄道ルートに沿って、電力やデジタル接続のためのケーブル敷設や、クリーン水素の輸出用パイプラインの敷設を計画している。

IMECの創設国は、この構想が地域のサプライチェーンを確保し、貿易のアクセスを拡大し、貿易を円滑化すること、そして環境、社会、政府への影響に重点を置くことを期待している。また、IMECが効率を高め、コストを削減し、経済的統合を強化し、雇用を創出し、温室効果ガスの排出量を削減することで、アジア、欧州、湾岸諸国の画期的な統合につながることを期待している。

ホワイトハウスの声明によると、このイニシアチブを支援するため、参加メンバーはこれら2つの新たな輸送ルートの「すべての要素を整理し、実行するために集団的かつ迅速に取り組む」ことを宣言した。また、技術、設計、資金調達、法律、関連規制基準のすべてに対処するための調整機関を設立することを発表した。

この構想はアジア、欧州、アフリカを結ぶ主要貿易ルートとしての湾岸地域の歴史的地位を強固にするものである。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士

参加メンバーたちの政治的コミットメントは明確であるが、16日にニューデリーで署名された覚書は意思を表明するものであり、それ自体で国際法上の権利や義務が発生するわけではない。つまり、IMECの実施に向けて行動を起こす義務は、どのパートナーにもまだないということだ。多くのことは、IMEC創設国の優先順位と、この野心的なプロジェクトにどれだけの資源を投入する意思があるか、または投入できるかにかかっている。

サウジアラビアにとって16日の発表は、このプロジェクトに関する数カ月にわたる議論の末の、最高の成果であった。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子はニューデリーで行った演説で、この新しいプロジェクトがもたらす長期的な雇用創出の可能性と、インドと中東間の貿易拡大が期待されることを指摘した。インドはサウジアラビアにとってすでに重要な貿易相手国である。G20サミットに続く、皇太子とナレンドラ・モディ首相との会談を含む両国の会談や数十件の二国間取引の調印は、両国の貿易・投資関係の強化を目的としている。

加えて、サウジアラビアは先週、グリーンエネルギーを促進しながら、王国の地理的優位性を生かし、「大陸間グリーン輸送回廊」を建設するためのプロトコルを提供する覚書に米国と署名した。サウジアラビアは、このようなグリーン回廊に関心を持つ国々に参加を促すための交渉を支援・促進する米国の主導的な役割を称賛した。

米国にとってIMECは、ジョー・バイデン大統領が2022年のG7サミットで初めて発表した「グローバルインフラ投資パートナーシップ(PGII)」イニシアチブの基盤となる。広島で開催された今年のG7サミットでバイデン大統領は、中低所得国における質の高いインフラ整備支援に対する世界的な需要によりよく応えるため、同イニシアチブを拡大する新たな機会を特定することを約束するよう、同組織の首脳陣を説得した。

それ以来、米国は複数の国やセクターにまたがるインフラ投資を促進することを目的に、いくつかの経済回廊を構築するための構想を発表してきた。同国は、助成金、連邦政府からの融資、民間セクターの投資の活用を通じて300億ドル以上を動員した。16日、皇太子はグローバルインフラ投資パートナーシップを称賛し、そのプロジェクトにサウジアラビアが200億ドルを拠出することを発表、同時にIMECとの統合の必要性を示唆した。

IMECは、明確な経済的利益に加え、緊張を緩和し、ルート上の信頼と相互利益を構築することで、政治的利益を得ることができる。IMEC参加メンバーの投資を保護し、その迅速な設立と円滑な機能を確保するための安全保障協力への暗黙の約束もある。

ニューデリーでの約束を確実に履行するため、参加メンバーは今後2カ月間にわたり会合を開き、関連するタイムテーブルを含む行動計画を策定し、これにコミットする意向である。

今後2カ月間の話し合いによって、IMECの実際の立ち上げのスピード感が明らかになり、そのタイムスケールの大まかな見当がつくはずである。これによって、IMECの範囲と、参加国および3地域全体にとっての潜在的な利益が決定される。しかし、迅速に動くことが重要であり、「直ちに、実施メカニズムの取りまとめを始める」という皇太子の呼びかけに耳を傾けることが必要だ。

  • アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士は湾岸協力理事会(GCC)の政治問題・交渉担当事務次長であり、アラブニュースのコラムニストであり。本記事で述べられている見解は個人的なものであり、必ずしもGCCの見解を代表するものではない。ツイッター: @abuhamad1
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