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イスラエルとハマスの衝突、そしてGCC・EU間の新たな安全保障対話

ガザ地区との境界沿いで装甲戦闘車両に乗り込むイスラエル戦車部隊の兵士たち。2023年10月12日。(AFP)
ガザ地区との境界沿いで装甲戦闘車両に乗り込むイスラエル戦車部隊の兵士たち。2023年10月12日。(AFP)
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14 Oct 2023 02:10:20 GMT9

欧州連合(EU)と湾岸協力理事会(GCC)の合同閣僚会議に出席した外相らは、ハマスによるイスラエルへの前例の無い攻撃から2日後の10月9日、マスカットで2日間の会合を開始した。年次総会では既に多数の議題が提案されスケジュール上の余裕は無いに等しかったが、イスラエルとガザの間で発生した事態への対応が優先された。当初、今回のハマスの攻撃の程度や規模、性質に関する情報に混乱があり、ハマスによるこれまでの小規模な襲撃が再発したとの思い込みがあり、多くの人々が、その重大性を看過しかけていた。

残酷で惨たらしいさらなる詳細が明らかとなった時、まず信じられないという茫然自失感が広がり、次に、数百人もの民間人に対して為された凄惨な殺害や拷問、辱めへの恐怖と嫌悪感が生じた。イスラエルのパレスチナ人に対する過去の振る舞いを引き合いに出して、ハマスが罪の無い民間人を標的にしたことを正当化すべきではない。イスラエルの過去の罪のリストが長いことは事実だ。そのリストには、混雑したガザ地区への大規模な無差別空爆やパレスチナ市民に課せられた集団的懲罰、大量殺人、国外追放、恣意的な拘留、土地収用、住宅破壊が含まれている。占領下のヨルダン川西岸地区のイスラエル人入植者たちも、アル・アクサ・モスクへの度々の侵入と冒涜に加えて、継続的にパレスチナ人を苦しめ、パレスチナ人の家屋や農場を破壊し、時には処罰を受けることもなくパレスチナ人を殺害してきた。こうした行為の一部は、イスラエル現政権の幹部らによっ支持され、扇動され、また、主導されており、状況は悪化するばかりだった。

しかし、イスラエルの行状がどれほど酷いものであったとしても、双方の民間人に危害が加えられることがあってはならない。ハマスの戦闘員たちの人命と人間の尊厳の軽視は恐ろしいものだった。しかし、ガザ地区やヨルダン川西岸地区の民間人にハマスの戦闘員の罪の償いを肩代わりさせるべきではない。外相たちの会議では、こうした点についての意見は一致したものの、どちらか一方に誤った意図を伝えてしまうのではないかという懸念も浮上した。ハマスに10月7日の攻撃は正当化し得るといった錯覚を与えてはならないし、イスラエルは自国がガザ地区やヨルダン川西岸地区の民間人を任意に攻撃し報復するライセンスを得たと考えてはならないのである。

ハマスの戦闘員たちの人命と人間の尊厳の軽視は恐ろしいものだったが、ガザ地区やヨルダン川西岸地区の民間人にハマスの戦闘員の罪の償いを肩代わりさせるべきではない

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ

GCC・EU合同閣僚会議は、討議を終えるにあたって、イスラエルとガザ地区における「憂慮すべき展開」に対して「深刻な懸念」を示す声明を発表し、暴力行為を激しく非難し、「民間人に対する攻撃」を糾弾した。同声明は、また、紛争当事者に、民間人に危害を加えないという国際人道法の普遍的原則の遵守を喚起した。さらには、「あらゆる面での」冷静さと自制と人質の解放を同声明は求めた。ガザ地区を封鎖し完全に孤立させたイスラエルの全面包囲宣言への反応として、閣僚らは、食料、水、医薬品へのアクセスの許可を求めた。閣僚らは、また、「暴力の悪循環を繰り返さない」ために今回の危機への政治的解決が急務であること強調した。この問題について引き続き協議し、関与を継続すると閣僚らは決議した。

同時に、GCCとEU双方は、ハマスの行動とパレスチナ自治政府の自制心を明確に区別することを主張し、和平プロセスについての従来の立場を堅持した。閣僚らは、サウジアラビアやEU、アラブ連盟が、エジプトやヨルダンと協力して、中東和平プロセスを復活させ、暴力行為に終止符を打ち、平和と安全への道程を進み始めるために現在行っている取り組みを支持した。

外相らは、「アラブ和平イニシアティブと関連するすべての国連決議に従って」、1967年の方向性に沿って、安全な共存を目指す二国家解決への共通のコミットメントを改めて表明した。同外相らは、いかなる一方的な措置にも反対し、「エルサレムの聖地の歴史的・宗教的現状」の維持と、難民のための公正で公平な解決を訴えた。

合同閣僚会議では、ハマスの攻撃を受けてパレスチナ人への援助の停止を提案する少数派グループもあったものの、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)やパレスチナ自治政府、パレスチナ住民の人道上、経済開発上のニーズに応える財政支援の継続を重視することで、意見が一致した。

10月7日のハマスによる攻撃の決定について、外部からの直接的関与を究明するには恐らく時期尚早である。しかし、イランと各地域のイランの代理勢力(レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など)はハマスによる攻撃に対して全面的な支持を表明している。この作戦に関与したかどうかに関わらず、イランとヒズボラは紛争の再燃から利益を得る立場にある。イスラエルの極端論者らも、また、利益を得ることが出来る。両勢力共、妥協に反対しており、和解や政治的取引を頓挫させようと手ぐすねを引いている。

イスラエルは、ハマスによる攻撃の後、多大な同情的支持を受けたが、ガザを攻撃し、高層住宅を倒壊させ、集団的懲罰を課し、大規模な破壊を行い、無辜の一般市民多数の生命を奪ったことにより、その支持は消失しつつある。現在のイスラエルによる攻撃は、10月7日に拘束された人質たちの解放に向けて行われている調停を複雑化する可能性もある。

GCCEUは、近い将来に、ブリュッセルで地域の安全保障と協力についての高官レベルのフォーラムを開催することで合意に至った。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ

パレスチナ・イスラエル問題をめぐる議論の奥行きは、2022年2月に外相らが発表したGCCとEUの「戦略的パートナーシップ」のリニューアル版の性質を垣間見せた。GCCとEUの双方は、その後、安全保障問題や地域危機に関する対話がこのパートナーシップに含まれることを明らかにした。昨年承認された共同行動計画(2022~2027年)にも安全保障における協力が含まれていた。しかし、今回のマスカットでの会議まで、詳細は詰められていなかった。そこで外相らは、「地域および世界の平和や安全保障、安定に対する深刻な脅威の増大を考慮」し、また、「世界経済への挑戦」に対するこのパートナーシップの特別な重要性を強調し、関連部分のより詳細な説明を付加した。この協力を活性化させるために、外相らは、高官レベルでの「定期的で構造化されたGCC・EU地域安全保障対話」を開催し、この安全保障対話の枠組みの中で必要に応じて共同作業部会を設置し、地域的、世界的な課題に対応する取り組みを調整することを決定した。

外相らは、また、インド洋北西部での協調的な海洋プレゼンスに向けたEUの取り組みについて、GCCとEUの連携の可能性を詳しく調査研究するよう自国の高官らに指示した。

こうした中間レベルおよび実務者レベルの会合に加えて、GCCとEUの双方は、公式会合での作業の保管のため、地域の安全保障と協力についての高官レベルのフォーラムを開催することで合意に至った。6月には、イタリアのルイジ・ディマイオ元外相がEU初の湾岸地域特別代表に任命され、EUの新たな湾岸地域戦略の実行を担当することになった。ディマイオ特別代表は、ハイレベルでの安全保障関連の議論において貢献を為すものと期待されている。

ウクライナやイエメン、イラク、シリア、スーダン、アフリカの角など、多くの安全保障関連問題についての対話は、ある意味では、既に始まっている。今後数か月間は、こうした地域の課題や、GCCとEUの双方が対話の必要性を指摘した他の安全保障問題について、活発な議論が行われることになる。そうした問題には、核やミサイル、ドローンの拡散、海洋安全保障、サイバーセキュリティ、テロ対策、テロ資金の調達、徴兵とイデオロギー、人身売買、麻薬取引、不法移民、組織犯罪、エネルギー安全保障、世界全体の食料安全保障、災害対策、緊急時対応が含まれる。これは実に意欲的な議題リストである。

  • アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士は、湾岸協力会議政治問題・交渉担当事務次長。本記事で表明した見解は個人的なものであり、湾岸協力会議の見解を必ずしも代表するものではない。X: @abuhamad1
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